短編「女の子ドリル-女の子、それは僕らの永遠の問題-」第ニ問
第二問 女の子は一人でトイレに行かない? 〇 or X
拝啓 今年の七夕はどうやら雨になるとの予報です。お母さん、湿度も高くなるので熱中症には気を付けて下さい。早く会いたいですが、お医者さんの話ではまだ退院は難しいそうです。
ボクはと言えば、伯母さんが週に一回開催するお茶会がどうにも苦手です。親睦を図るということですが、空気に馴染めません。去年まで女子高だったことも関係あるのでしょうか。
昨日もこんなことがありました……
「それでね、私は言ってあげましたのよ。さすが副校長先生は京都大学のご出身だけはありますわねって」
理事長代理である伯母の言葉のどこが面白かったのかはボクには分からない。しかし、放課後の「お茶会」と呼ばれるミーティングに出たメンバーからは絶賛されたいた。
「そうですわ、理事長。あの人ったら二言目には学歴を鼻にかけて」
伯母の言葉を真っ先に受ける人の順番も決まっている。理事の一人である高坂円さんという、教頭先生の奥さんだ。良家の出身で元華族らしい。
彼女は伯母のことを代理ではなく、理事長と呼ぶ。もしかして、勘違いしているんだろうか。教えてあげたほうがいいのだろうか。
「そうそう。学歴はあっても、品性がありませんもの。ね、西園寺先生もそう思われるでしょ?」
謎の序列で三番目が、ボクに質問を振った学年主任の香山美奈先生だ。ボクとしては良く分からないこの会話に混ざりたくないのが本音だった。でも、伯母の手前もあってそういうわけにもいかない。とにかく何か言わないとまずい。
「でも、すごく真面目な方ですし。教育に関する意見も……」
率直に言ったボクの言葉は、場の空気を凍り付かせた。あれだけ賑やかに咲いていたおしゃべりが、嘘みたいに止まる。参加していたメンバーは伯母の反応を気にして、一斉に彼女を見つめた。
「慎吾君、あなたはまだ若いわね。もっと人を見る目を指導してあげなくちゃ。あなたの上司としてね」
「はぁ……」
伯母は優しく微笑したが、ボクは苦笑いしかできなかった。なんだかすごく居心地が悪く、早く時間が過ぎ去れと願うしかなかった。
「次の会議がありますので、私はお化粧室に」
伯母がそう言って立ち上がると、ボク以外のメンバー全員が同時に立ち上がった。
「では、私もご一緒に」
「私も」
伯母を先頭に部屋を出ていく姿は、まるでカルガモみたいだった。なんで、みんな一緒なのか。ボクには不思議で仕方なかった。
「わかってないなぁ、西園寺先生」
『お茶会』から戻った僕に話しかけたのは、同僚の真知子先生だ。
「何がですか?」
「教えてあげましょうか、さっきのこ・た・え」
「答え? 僕は思ったことを言っただけで。だいたい、女性はなんでああいうグループを作って」
「じゃぁ、問題です。女の子はトイレに一人で行かない?」
「バカにしないでください。トイレなんて一人で行くでしょ、普通」
真知子先生はいきなりボクの肩を抱き寄せると、顔を並べてこう言った。
「トイレはね、女の社交場なの。だって女には、敵か味方かしかいないんだから」
……えっと、なんなんでしょうか。そのヤクザの派閥抗争みたいな設定は。普段は仲良さそうに会話してるじゃないですかと、ボクはますます混乱した
「だったら、真知子先生はどっちなんですか?」
「私? どっちにも入れてもらえない、変な人」
彼女が顔を離した時、香水のフローラルがボクの鼻をくすぐった。だんだんと消えていく残り香を、ボクはふと寂しいと思ってしまった。
追伸 お母さん、女の子って何なんでしょうか。あぁ、僕にとってはまたもや謎だらけです。
短編「女の子ドリル-女の子、それは僕らの永遠の問題-」の続きは下記から
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