短編「女の子ドリル-女の子、それは僕らの永遠の問題-」第三問
第三問 女の子は記憶は感情で出来ている? 〇 or X
拝啓 残暑のみぎり、つつがなくお過ごしのことと存じます。伯母さんから、最近のお母さんの写真を見せてもらいました。目元など良く似ているそうですが、お母さんと暮らしたのは三歳までだから残念だけど正直覚えていません。
ボクはと言えば、夏休みの後半に研修に行ってきました。一緒だったのが真知子先生なので、少し困らされましたがなんとか無事に終わりました。
でも、どうやら彼女とは過去にも会っていたようです……
「西園寺先生。このコンビニの前を通るのは三回目だけど、本当に道わかってます?」
助手席の真知子先生が、開いた窓の外を見ながらつぶやいた。
「もちろんですよ、大丈夫」
口ではそう言ったものの、もう十五分以上同じところをグルグルと回っていた。これはまずい……特急が停まる主要駅から離れた郊外にある研修施設だからと、レンタカーを借りたまでは良かった。しかし、夏休みということもあってカーナビなしの車になったのは誤算だった。
「スマホも圏外のままだし。仕方ない、さっきのコンビニ戻って聞きましょ。間違いは誰にだってあるし」
「真知子先生は車の免許持ってませんよね? 知らないんだから、黙って座っててください」
ボクにだって男のプライドはある。いまさら道を間違えたなんて言いたくない。それに彼女の見透かしたかのような上からの目線に、僕はこの前から腹を立てていたのもあった。
「君ってさぁ、昔から成長しないよね。間違いを認めないとことか」
「昔って、まだ赴任して半年ですよ。そんなんで人の事を評価しないでください。だいたい、年上だからって」
「同い年だよ。覚えてないの? 子供の頃は私の後ろを泣いてついてきたくせに」
その言葉にボクは目を丸くした。え、まさか知り合い? ボクの記憶のHDDを叩いても、該当する人物は全く出てこない。
「真知子先生……冗談ですよね?」
「ひどいなぁ、結婚しようって言ったくせに」
そう言って笑った真知子先生の目元のホクロに、僕はなぜだか懐かしさがこみあげてきた。あれ、彼女って? 一瞬、ガリガリに痩せたショートカットの男の子の姿が浮かんだ。彼の名前、なんだったっけ……
「わかってないなぁ、西園寺先生」
「騙そうとしたってダメですよ」
混乱したボクはそう言うのが精いっぱいだった。
「教えてあげましょうか、さっきのこ・た・え」
彼女の瞳に映るボクの顔は明らかに怯えていた。
「じゃぁ、問題です。女の子の記憶は感情で出来ている?」
「な、何言ってるんですか。そんなに記憶力がいいなら、道を覚えて」
真知子先生が助手席からボクのネクタイを掴んで引き寄せると、耳元でささやいた。
「女の子の」
ボクはわぁっと叫んで、その答えをかき消した。パニクって危うく車をぶつけそうになり、ブレーキを強く踏んで停車した。
「さ、さっきのコンビニに戻りましょう。このままだと遅刻だ」
ボクが逃げたので、この話はそれきりになった。ただ研修中にふと目が合った時の彼女は、なんだか寂し気に映った。ボクはなんで胸がこんなに締めつけられるんだろう。この気持ちって……
追伸 お母さん、女の子って何なんでしょうか。あぁ、僕にとっては謎がますます謎を呼んでいます。
短編「女の子ドリル-女の子、それは僕らの永遠の問題-」の続きは下記から
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