夏との戦争

夏が私に想起させるものといえば海でも青い空でも三ツ矢サイダーでもなく食品の傷みだ。
少し外に置いておいた葉物野菜はいつの間にか私に内緒で痛みまくり気づいたときには謎の汁を垂らしながら恨めしそうにこちらを見ている。
追悼する暇も与えずに次々と他の食材たちが悲鳴をあげて謎の汁やカビを身にまとい始めコバエを呼び始める。

これは戦争なのだという自覚を持たねばならない。

先程昨晩作ってタッパーに入れてほったらかしにしていたレタスチャーハンと豚肉とじゃがいもの炒め物を晩飯にしましょうぞ、と意気揚々と口に運んだところもはや私の知っているアイツらではなくなってしまっていた。
豚肉の炒め物に関しては「んっ?」というヤバメのバイブスを鼻→舌→脳の順で感じながらも「まだイケるって!」という貧困が生んだ心の悪魔が脳内を騙すことに成功して目をつぶることにした。
しかしチャーハンに関しては一口食べた瞬間に完全に納豆の味がした。当然入れた覚えのない食材の風味がしたのだ。
「納豆とごはんは相性バツグンだしラッキーだって!」と貧乏性の私がつぶやいたが流石に!とグベェッと吐き出してしまった。

自らが作った料理を自らゴミ箱へ捨てることほど悲しいことはない。
来世はもっと良い季節に生まれ給えよ、と祈りを捧げながら自らの不始末を恥じる。

夏を憎むか貧困を恨むか己の食材への愛情不足を恨むか。
憎しみに身を燃やしている時間はない。
こうしている間にもじゃがいもは芽を出し、玉ねぎは溶け出し、肉類は時を告げるヌメリを身にまとい始める。

食べねば。作らねば。生きねば!

本心をいえばもっとでかい冷蔵庫さえあればなぁ!という気持ちで涙が出そうなのだ。

地方都市に住むにんげんです。 なにか思ったことなど、カタカタ書いておきます。