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続・懐かしいサッカー本たち

これの続き。

上記と当記事に載っている書についての感想は、あくまでも私個人の独断と偏見によるものであり、それ以外の何物でもないことを改めてお知らせしておきたい。

例によってそれぞれの書についてはAmazonのリンクを貼っておく。

1:オーレJ・リーグ サッカー熱狂読本

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前回7冊の書をピックアップした時、確かこういうのもあったはずだったよなあ、と思ってたのがこちら。

表紙に出て来る選手が、右から北澤豪氏・加藤久氏・中山雅史氏・福田正博氏という面々であることからもわかるように、Jリーグが開幕してから間もない頃(まえがきの日付を見ると1994年2月とある)に書かれている。

この著者の阪本一知氏という人はまるで存じ上げない方なのだが、著者紹介には以下のように書かれている。

昭和33年、群馬県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としての生活を送るかたわら、フリーライター、フリー編集者に転身。現在はライター業に専念し、スポーツ記事などを中心に活動している。中学時代より熱烈なサッカーファンで、とくに70年代のヨーロッパサッカーには、ひとかどならぬ愛着をもっている。

・・・という人らしい。ちなみにAmazonで見てみると・・・

本書を含めても2冊しか書籍として流通に乗っていない。だからどうしたと言われると困るのだが、知名度という意味では低いかもしれない。

ただ、内容は比較的充実しているように思う。Jリーグについて言及した章などは、その隆盛を喜ぶだけでなく、今後起こり得る課題なども冷静に指摘しており、スタジアムやレフェリーの問題は今でも取り沙汰されるのではないだろうか。

その一方で、最後の章辺りになると、「オフサイドトラップってなんだ」というタイトルのついた部分や、「スイーパーからリベロへ」「ウイングはもういらない?」などという如何にもこういう牧歌的な時代の書だなと思えるような記述があったりする。
「五〇歳まで現役を続けた伝説の名選手もいる」みたいなタイトルの部分があり、それはなんてキングカズなのだ?と思って見てみると、スタンレー・マシューズのことらしい。

日本、いや現代のサッカー界全体にはスタンレー・マシューズみたいな選手は出ないだろうと思ったら、現在では横浜方面にいる。
ちなみにそのキングさんについては「カズ、”ザ・スーパースター”」というセクションを作ってJリーグの選手の最初に載っけている。もちろん、そんなキングさんが50代になっても現役でいる、などとは誰も予想し得なかった時代の話だ。

本全体を通して言えることは、面白いとかそうでないとか以前に熱量がメチャクチャ高い、ということ。ハイテンションで一冊書ききったので、その熱量で読ませたい、という強い思いは感じる本だった。

この阪本氏、今ももしご存命で、文章を書く気力体力が充実しているのならば、今のJリーグを彼なりの考えで書いていただきたいのだが、さて、どうだろう。ただ、最近のサッカー界隈はなかなか読み手もよく勉強しているだろうし、この頃みたいな知る人ぞ知る競技、とは趣が少し異なる。その辺りが加味できるだろうか。

2:オフト革命~ワールドカップ日本出場の原点をつくった男~

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著者の軍司貞則氏はサッカーよりも野球関係の著書が多い(守備範囲は大変に広く、スポーツのみに留まらず、政治経済から食糧教育辺りまで幅広く手がける)ことでも知られるノンフィクションライターで、この本は彼の中では数少ないサッカーについて書いた本である。

そんな軍司氏が手がけたのは日本代表の一つの転機とも言えた、ハンス・オフト代表監督の頃の話を綴ったものだ。

オフト氏という人は、良くも悪くも日本的なメンタリティだったサッカー界を大きく動かした人という言い方ができるかもしれない。
そんなオフト氏を現在の尺度でどう評価するべきか、という辺りはひとまず置いといて、あのドーハの悲劇を含むオフト期の日本代表チームが辿った軌跡を克明に追う作品、とは言えそうだ。

このオフト氏に限らず、それぞれのチームには誰か、チームが長足の進歩を遂げるきっかけになった指導者という人がいるはずで、その指導者とこの頃のオフト氏とを重ねてみて、比較してみるのも面白いかもしれない。
オフト氏の功罪を改めて検証してみて、その「功」の部分をどう引き継いで伸ばしていくのかを考えてみると良いだろう。

そう考えてみると、サッカーとは奥が深いものだと改めて感じてしまう。このオフト氏がこの時期にいろいろとしてくれたことは、今も日本のサッカー界に息づいていると思う。それを思い返しつつ、この本を読むと良いのかもしれない。

3:たったひとりのワールドカップ~三浦知良1700日の闘い~

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著者は前回ご紹介した中にもある「狂気の左サイドバック」でもお馴染みの一志治夫氏。

カバーを見たらわかるが、この書の主人公はキングさんこと三浦知良選手である。あの時、ワールドカップフランス大会出場を逃して以降、二度と日本代表に返り咲くことのなかった選手だ。その後も長らく現役選手として活動しており、現在は横浜FCに在籍している。

ドーハの悲劇を経験したカズ(無論、三浦知良選手のことだが、ここでは以下そのように呼ぶことをご了承いただきたい)は、それを経て日本サッカーの牽引者として第一線をリードし続けてきた。そのことは、もはや衆目の一致するところだろうと思う。
そして1998年の、ワールドカップフランス大会に於ける日本代表の登録選手にも、その名前はあるものと誰もが思っていた。

しかし、当時の岡田武史監督は熟慮の末にカズ(と北澤豪氏と市川大祐氏)をメンバー外としたことは有名だろう。

その是非を問うたり、岡田武史氏を責め立てたりするのは私の本意ではないので、しないでおく。
ただ、岡田氏もこの時期は指導経験があまりなかったが故に、その後の顛末も含めて至らないと思われる部分はあったのだろうな、とは思う。また、日本のサッカー界(ひいては世論自体)にもこの決断に理解を示す土壌がなかったのかもしれない。

ともあれ、この書はそんな辺りも含めた当時のカズの心境をインタビュー形式でまとめた書である。

カズはああいう経験をしてきたことから、悲運の名選手と称されるべきなのだろうか?確かにそう呼ばれる必然性はあるだろう。
しかし、そう呼ばれることを本人が最も嫌がるのではないだろうか。あれからもう20年以上経って、彼の心境もだいぶ変化しただろう。そして彼は今以て現役選手でいる。あの時に見失った何かを追い求めるかのように。

この書に於けるカズの言葉の数々は、そうした「見失ったもの」が何であるかを紐解くのに非常に有用だと思う。

今季、今年(2020年)53歳になったカズが、試合に出場できるかどうかはわからない。正直言えば、年齢面やそれに起因する体力等の面から言えば、恐らくかなり限定的な出場機会になるだろうと思う。横浜FCも悩ましかろう。
だが、今のカズはその圧倒的な存在感のみで現役選手として存在できる希有な選手であると言えよう。そのことを知るという側面からも有意義なインタビュー集であるとは言える。

4:イエローカードで燃える本

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著者、というより監修しているのは、元讀賣クラブにFWとしていたことのある上島康夫氏。ただ、著者紹介に「選手時代の体験を活かした臨場感溢れる文章で、スポーツライターとしての地歩を固めている」とあったが、書籍化されているのはこれだけらしい。

とりあえず、この書にはカバーにも「実物カードがついている」と謳われているように(私自身は現物を紛失してしまったようだが)イエローカードとレッドカードがおまけとしてついていた。

サッカーの(入門書や専門性の強い書籍でない)書籍としては珍しいが、ファウルの種類(但しあくまでも当時のもの)や審判がその際に取るアクションなどについての解説した章がある。

ご存知の方も多いだろうが、サッカーの競技規則は年々変化を遂げており、年を追うごとに新しい解釈や規則の運用ができたりする。本書はあくまでも1993年当時のそれなので、今見るといろいろと違っていて、一つの歴史資料にはなり得る。

まあ、途中にある「あっと驚くイエローカード活用法」(イラストでいろいろ紹介している)は役に立つとも思いにくいが・・・。

話の種に持っておいても良いかもしれない。昔はこんな感じだったのか、と知るだけでも面白いだろうし。

5:サッカー大好き!

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著者の泉優二氏は小説家らしい。

この本、定価は650円(1994年当時の税込み価格)のはずですが、何故中古でこんな1843円(この文章を書いている時の段階での値段)などという3倍近い値段がしてるのか・・・。

まあ、それは良いとして、この著者は40年以上前に少年向けのサッカークラブを創立した、とのことで、その視点から書かれた本、という言い方ができるのではないか。
それもそのはずで、これは岩波ジュニア新書であって、本来そういう世代が読むべき本なのだから。中学校とか小学校の校内図書館に普通に置いてあるような、そういう本だと思う。

だから、Jリーグでプレーできるような選手になりたければ、というような話も、具体的且つ技術的な方法論よりも、概念的且つ精神的な話に主題が向くようだ。
そして何より、そのJリーグにも功罪があって、両方をキチンと見て決めるべきだ、みたいな感じで説いているように思う。
更に始動する大人側の問題にも踏み込んでいて、そういう意味では指導者を志す人にも読まれるべき部分があると思う。

たかだかジュニア向けの新書だと思っていると、大人が読んでもそれ相応に参考になる部分があるので、良いかもしれない。問題はこれが既に四半世紀前の著書であり、その頃のスタンダードと現在のスタンダードとでは相違する点がある、というような面を差し引いても、特に少年少女世代への指導者をこれから志す人には、読んでおいてほしい書だと言える。

ただ、くどいようだが、技術的だったり具体的な方法論をこの書には求めてはいけない、というのも認識しておいてほしい。

6:病とフットボール~エコノミークラス症候群との闘い~

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著者は高原直泰選手。現在は沖縄SVに所属している。

ここでは、高原選手がその問題の病気(肺血栓塞栓症。俗に言うエコノミークラス症候群)への二度の罹患と克服を経て、2010年ワールドカップ南アフリカ大会の日本代表に返り咲かんとするまでを綴っている。
但し、ご存知の通り、彼は2007年のアジアカップを最後に代表入りすることはなかった。
ちなみに本書が上梓された頃は、浦和レッズにいた頃だと思う。

本書の帯にもあるように「もう一度発症したら、サッカーを辞める」との強い意思を示しているものの、現在も沖縄SVの選手として活動していて、サッカーを辞めていないことから、高原選手自身は2004年の二度目の発症を最後に症状は治まっているものと考えて良いだろう。

ただ、血管の塞栓症は自分も脳梗塞で既往者なのでわかるのだが、常に再発リスクを考えなくてはいけない。次でご紹介するイビチャ・オシム氏もそうだが、今はとりあえず何とかなっているが、この先も未来永劫症状が出ないとは言えない。それが怖い。

だが、高原選手はそういう状況を受け入れた上で、彼らしく生きていこうとしているようだ。

病気を受け入れる、とは言うけれど、実際に受け入れるまでの心境の推移を外野が窺い知ることはできないであろう。
彼の言葉で示されても、恐らくはその半分も理解できないと思う。結局、受け入れた上で乗り越えるのは彼自身しかいないのだから。ある意味、孤独な闘いではある。
だから、それに身を投じなければいけなくなって、実際に身を投じたことについては、素直に賞賛されるべきだと思っている。

この書の後に移籍した水原三星ブルーウイングス、清水エスパルスや東京ヴェルディ、そしてSC相模原を経た頃の心境も知りたいような気がする。
まあ、それは彼がこれまでに受けたいくつかのインタビューなどを漁れば読み解けるかもしれないが・・・。

とりあえず、2008年ぐらいまでの彼の記録として読む価値は十分にあるし、肺血栓塞栓症の実際を窺い知ることができるという意味でも、罹患者はもちろん、その家族の人々にも読まれてほしい。

7:オシムの言葉

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著者はご存知木村元彦氏。この書は彼の名前を大々的に広めた書でもあると思う。

これにはKindle版もあるので、ぜひ興味のある人はどうぞ。

イビチャ・オシム氏は、ドラガン・ストイコビッチ氏がそうであるようにユーゴスラビアと呼ばれる国(オシム氏の生まれはその中のボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボという都市)の生まれである。

そんな背景をもったオシム氏は、我々日本人が理解し得ないような状況を経てきたわけで、だからこそ確固たるポリシーが常にある。
その強いポリシーを本書では余すところなく紹介している。あの忌まわしい病気さえなければ、この人のチームをもっと見られただろうに。
自分も罹患しているから言うわけではないが、脳梗塞とは実に罪な病気だ。オシム氏も2007年11月にこの病気になっている。

今は回復こそしているが、激務でもある代表監督の仕事からは手を引いているようだ。だが、サッカーを愛し続けてはいるようで、日本について訊かれても、独特の言い回しではあるが、日本へのエールを忘れない。
かつてのデットマール・クラマー氏がそうであったように、このオシム氏も日本のサッカー界にエポックをもたらした人物だと言えるだろう。そのエポックを生み出す契機というか、きっかけがここにはオシム氏自身の言葉として多数詰まっている。

この人と関わることができたことが、日本サッカー界でも一、二を争うエポックだと思う。それほどイビチャ・オシムという人の影響力は絶大なものがある。この書から、それを窺い知ってもらいたい。

末尾に

前回も言ったと思うが、私はいろいろご紹介しただけなので、書の良し悪しは皆さんが読んでご判断いただければそれで良い。私からどうこう言うつもりは一切ない。

徐々にCOVID-19の第一波の勢いは弱まりつつあるようで、これを受けた終息への道筋もつきつつあるようだ。Jリーグやプロ野球などは最下位や開幕への動きも一段と強まっている。
ただ、あくまでも第一波が消えつつあると言うだけで、第二波以降は何とも予想がつきかねる。だから油断をしてはいけないだろう。手洗い・うがいなどはこれからも大切にしていくのが妥当かもしれない。

もうこのシリーズはネタがない(我が家にそんなにたくさんのサッカー本はそもそもない)のでやらないが、違うジャンルでやったりすることもあるかもしれない。やるんじゃないかな。まちょと覚悟はしておけ。

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