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懐かしいサッカー本たち

こういう御時世なので、じっくり読めるサッカー関連の本でも軽くご紹介してみる。一応、Amazonのリンクをそれぞれ貼っておく。
中には、現在では紙の書籍としては入手の難しいものもあるが、電子書籍化されているものもあるようなので、よろしければ。

なお、各項に出てくるそれぞれの書についての感想は、全て自分の個人的な独断と偏見によるものであることをお断りしておきたい。

1:セブン・イヤーズ・イン・ジャパン~僕が日本を愛した理由~

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書いたのはこの人、ドラガン・ストイコビッチ氏だ。

日本では名古屋グランパスのエースとして長らく知られていた、とても有名なお人だ。
彼は元々セルビアの人なのだけど、あの地域はいろいろと複雑に入り組んでいて、今でこそそれぞれの地域が分離独立してはいるが、かつてはユーゴスラビアという国の体を為していた時期があり、それはそれで大変だったに違いない。

そんな彼の半生が克明に描かれている。どの章も彼の真摯さが窺えてとても面白いのだが、ただ、この本は、彼が少なくとも現役である間(2001年と思われる。つまり彼の現役最終年に相当する)に書かれている。
むしろ、その後について見てみたく思うのだが、それは難しいだろうなあ。例えば、あの革靴で見事なゴールを決めてしまったあれのこととか。

あれ、ボールを蹴返すに当たってどんなイメージを持ってたのか、ぜひ訊いてみたいもの。

あと、選手として見た名古屋グランパスと、指導者として見た名古屋グランパスにある、共通する点と相反する点とについて知りたいような気がする。彼が指導者としての礎に据えたのは、恐らくアーセン・ベンゲル氏だと思うけれど、そのベンゲル氏の何を見習い、どこで相違点を作っていったのかを知りたいようにも思う。

2:天国と地獄~ラモス瑠偉のサッカー戦記~

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鈴木洋史氏の手によるラモス瑠偉にまつわるドキュメンタリーだ。

ラモスが日本に来て、讀賣クラブで紆余曲折ありつつ、どうにかサッカー選手としてやっていくことになり、そして奥さんと結婚、その後に帰化。讀賣クラブ退団騒動などもあり、やがて代表にも入り、Jリーグ開幕の熱狂を肌で感じ、問題の「ドーハの悲劇」にも直面した。そのドーハの悲劇辺りまでがここでは描かれている。

ラモスのことを、「日本人以上に日本人」みたいな言い方をする人もいるのだが、彼のマインドは恐らく、イデオロギーとか何とかを超越してるんじゃないかと思ってしまう。

左だ右だ、ナショナリズムだ何だとみみっちいことを言い争う自分たちが情けなく思えてしまうほどに、ラモス瑠偉は「日本の人」としてのスピリットを、彼自身の心と身体の中に、土着の日本人以上に育ててしまったのかもしれない。
そして、それは彼にとってはきっと自然なことだっただろうと思ってしまうのだ。
そんなラモス瑠偉の心中を再確認するにはうってつけの本かもしれない。

3:サッカーがやってきた~ザスパ草津という実験~

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辻谷秋人氏という人が書いているこれは、ザスパ草津にいろいろと問題が表面化する前の著書であり、地方からスポーツで町興しをする、ということは確かに成功したらワンダフルなことの連続かもしれないけれど、それは同時に困難に直面することもある、という示唆を含んだ本だと言えるんじゃないか。

自分が推しているガイナーレ鳥取は、このザスパ草津から遅れること数年でJリーグへの門戸を開き、その住人にはなったものの、J2は当時としては戦力的にもだが、経営的にもどうやら些か敷居が高すぎ、現在はJ3暮らしを余儀なくされている。

そういう状況下にあるガイナーレ鳥取を知っていると、何となくザスパ草津のことが他人事には思えなくなってくる。

ザスパ草津は、Jリーグに参入して一旦は軌道に乗りかけたものの、諸問題が勃発し、苦境に立つこととなる。
いろいろと事情もあり、名称も現在の「ザスパクサツ群馬」と変更されるに至った。

恐らくそういう事情を経た今だと、また違ったものができてきそうな気がするのだが、この本の時とは少々事情も異なるだろうし、文章にするには難しい面もありそうだ。

いずれもう少し時が過ぎた頃、このチームにまつわる書籍ができてくることもあるかもしれない。問題はそれにどこまでの需要があるか、ということだけのように思う。

それには、このチームが今以上に強くなっていくことなのではないかという気がしてしまう。

4:狂気の左サイドバック

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一志治夫氏によって書かれた都並敏史氏のお話。

この人は、かのドーハの悲劇を巡る試合に立ち会っている。この試合を巡る顛末はすっかり有名だが、この人の立場で経験するそれは、また少し異なる印象を持って迫ってくるようだった。

その後この人は、ヴェルディ川崎を出たあと、アビスパ福岡に移籍して、その後にベルマーレ平塚に移籍しているのだが、実はベルマーレとは一度、破談になっていたりするらしい。
この本では、アビスパ福岡に移籍する、という辺りまでが描かれている。その後のことや、彼が数チームで監督になったことなどは描かれていない。
その、監督を含む指導者になってから、どういう心境の変化が生じたか、という辺りを知りたいと思ってしまう。

この当時、都並氏は左サイドバックとしては相当に有能な選手として知られていたが、それ故に、故障とつきあいながらの現役生活は大変に辛いものだったと思う。
陽性のキャラクターを持つ人物として知られる都並氏だが、しかしその裏側には常に苦悩がつきまとっていたのだろう。監督時代にも同じように苦悩はあったものと思うが、故障を抱えつつの現役生活で味わう苦悩とは、また一味違ったものがあったかもしれない。

5:Jリーグからの風~「J の理念」を支持せよ!!~

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あの玉木正之氏が絡んでいるサッカー本とはどういうものか、という怖いもの見たさがある人にお勧めしたい。

玉木正之氏といえば、どちらかというと「野球のイメージが強い人」で、この人の野球に関する著書も見たことが何度となくあるが、そんな玉木氏がいきなり「Jの理念を支持せよ!!」みたいなことを言い出すので、かなり面食らってしまう。

本文中にもあるように、この頃は「Jリーグの理念」に熱狂的になっていたのだろう、ということは何となく想像できる。
そして、そんな玉木氏が、今の段階でサッカー(というよりJリーグ)について言及している様子をほとんど見ないことから考えて、その頃の彼は一種の熱病に浮かされたみたいに、キ〇〇イじみたサッカーフリークスと化していたに違いない。

いったい彼はどういう経緯でサッカーに浮気することになったのだろう。そしていったい彼はどういう経緯でサッカーと距離を置いてしまったのだろうか。そういう心理の変化を知りたい気がする。

一つ言えることは、この書はサッカー(というよりJリーグ)そのものを礼賛するものではないと思えてしまう。この人はサッカー(というよりJリーグ)を通じてその先にある別の競技(玉木氏の本来の得意とする分野であるところの「野球」)が隆盛を極めるためには、サッカーというスポーツが取り入れている方法論は参考になるのではないか、と思っているような気がしてならない。
まあ、それは穿ち過ぎだとしても、強ち外れてもいないんじゃないかと勝手に思っていたりする。

何にしろ、専門外の(と思われる)人にこういうものを(恐らく弾みで)書かせてしまうほど、「Jリーグバブル」というものは破壊力があったことだけは間違いなさそうだ。

6:魂の叫び~J2聖戦記~

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正直言うけど、この中の金子達仁氏の部分は、今読み返してもさほど面白いとは思っていない。
むしろ、中西哲生氏と戸塚啓氏が組んだ部分の方が面白かった。

極初期の川崎フロンターレの奮闘が綴られている。つまり、アビスパ福岡とのJ1参入決定戦辺りから、長丁場のJ2リーグまで、川崎フロンターレのあの頃が、主に中西哲生目線によって活写されている。

個人的には岩本輝雄氏から中西哲生氏にキャプテンが替わった経緯の辺りと10月のモンテディオ山形戦を巡る顛末、そして最終盤に出てくるストイコビッチ氏との対話が最も面白かった。

この年の川崎フロンターレはタフなJ2リーグを戦っているが、そのタフなシーズンを中西哲生氏をはじめとする結束力で乗りきった。

今、川崎フロンターレはJ1でも上位に位置する強豪であり、その中心には中村憲剛という太い幹があって、そこから無数の枝葉が分かれて川崎フロンターレという巨木を作っているけれど、この時期はその太い幹が中西哲生氏だったことが窺える。

そんな川崎フロンターレ黎明期の記録の書としても、存分に楽しめると思うので、読んでみてほしい。

7:サッカーという至福

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以前にいた会社で日本経済新聞を購読していて、そのスポーツ面をしょっちゅう読んでいたが、中でも記名記事は読み応えがあって好きだった。
多士済々な記者がいたが、その1人にこの武智幸徳氏がいた。武智氏は一貫して「サッカーの人」というイメージがある。
他のスポーツももちろん担当されていたが、基本的にはサッカーを担当することが多かった。

そういう人の書くサッカー本なので、やはり読んでいて安心ができる。確かにここに書かれていることそのものは、あくまでもこの当時のものなので、些か古くささを感じる面もないわけではないが、そういったことを別にしても、武智文体は存分に楽しめるし、自分はこういうのがわりと好きだったりするので、楽しんで読める。

もちろん、書かれていることの時系列的な古さはあるだろうけど、そこにはとりあえず目を瞑って考えると良いと思う。

今、いろいろと名のあるサッカー界隈の物書きの人々がいるけれど、自分としてはやはりこの武智氏が最も取っつきやすい人である。この文体に慣れると、大抵のものは読める気がする。
そんな武智幸徳氏の書を読んでおくことは悪くないと思うので、ぜひお勧めしておきたい。

末尾に

ひとまず7冊ご紹介した。それぞれの良し悪しの判断は皆さんが決めたら良いのであって、自分からはどうこう言うつもりはない。
ただ、この中のどれかを読んでみて、これだと思う本に出会えたなら、それだけで、ここでご紹介した価値はあると思う。

皆さんも、このようなCOVID-19が大流行するような御時世なので、ちょっと時間を作ってこうした本としばしのおつきあいなどしてみてはどうだろう?
まあ、幸いにも一段落つきそうな勢いの低下は見られるものの、だからと言って油断をして第二波、第三波と来ても困るので、そこは変わらず生活には細心の注意を払いながら、こうした書にもこの機に親しんでみていただけたらいいと思うのである。

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