「時事ビブ落語」誕生か?
落語と私
私は、大学の4年間落語研究会に所属していた。
長期休みになると、月に10回以上デイサービスセンター、地域の行事などで落語を披露した。
落語の稽古は、自転車通学中に行った。
はたから見るととても怪しい。
「落語ばっかりしていて、勉強してなかったんじゃないの?」と勘違いされそうである。
まったくもって、「勘違いである」と述べておきたい。
外国語学部アジア学科で中国語とインドネシア語を勉強していた。
アジア学科で学んでいることと落語を混ぜたら面白かろうと考え、インドネシア語で落語を発表したこともある。
インドネシア人の友人にもつきあってもらい、一生懸命練習した。
「矢野くん、発音が落語調になってるで」
インドネシア語講読の授業で小説を音読した際、教授から注意を受けた。
残念なことに、落語の稽古が仇となったようだ。
その後もインドネシア語はずっと落語調である。
落語のリズムとメロディがすっかり骨身にしみついてしまった。
ビブリオバトルにおいても、落語の語り口が勢い余って無自覚に出てきてしまったようだ。
「どうやって落語みたいに本を紹介するの?」
気になったあなたは、ぜひアクセスしてほしい。
▼視聴はこちら↓↓↓
生放送番組の観客として参加されたしゃっぴいおばさんのブログでも、
「落語を聞いているような軽妙な語り口」と紹介していただけた。
第15回『時事ビブTV』〈大統領と首相〉
時事ビブTVは、時事問題をお題としたビブリオバトル。
Bibliobattle of the Year 2023において、特別賞としてメディア発信賞を受賞している。
偶数月の第2土曜日に定期開催。
今回のテーマは「大統領と首相」。
今回のビブリオバトルで紹介された本は、以下の4冊。
ティムール・ヴェルメシュ(著), 森内薫(訳)『帰ってきたヒトラー』/河出書房新社
『帰ってきたヒトラー』は、映画化されている。
「本を読むのは、苦手で、、、」という方は、映画を入口にすることをオススメする。
映画をきっかけとして新たな本と出合えるイベントである「図書館上映会」を瀬戸市立図書館1階の集会室で毎月第3水曜日に定期開催している。
映画上映後には、映画関連書籍を紹介する「矢野和幸の選書de Show」を行っている。
映画関連書籍リストも配布している。
バトラーの宮崎県椎葉村図書館「ぶん文Bun」図書館司書の藤江さんは、私と同じく落語研究会出身。
椎葉村の不土野地区で受け継がれてきた、子ども落語の文化を次代に継承するためにクラウドファンディングを行っていた。
ネットラジオもされている。藤江さんの一人喋りは圧巻。
広谷直路『「泣き虫」チャーチル 大英帝国を救った男の物語』/集英社インターナショナル
私が紹介した書籍。
有り難いことにチャンプ本に選ばれた。
1939年7月24日、イギリスはロンドン都市部のストランド街に出現した巨大なポスターはやはり正しかった。
ビブリオバトルで紹介したチャーチルの言葉を引用する。
ビブリオバトルでいくつか誤りがあったため訂正する。
ヒトラーを使用人(バトラー)と間違えて帽子とコートを手渡そうとしたのは、チャーチルではなくハリファックス(第3次ボールドウィン内閣の陸軍相と王璽尚書を歴任)だ。
チャーチルがルーズヴェルトを裸のまま出迎えた場所は、ホテルではなくホワイトハウス2階の公邸部分の一画をしめるローズスイートのバスルームである。
英国保守党が大敗した際、チャーチルの選挙区におけるただひとりの無所属対立候補は、レンガ職人ではなく陽気な暖炉職人であった。
いかに曖昧な記憶で喋っていたかがよくわかる。
言い訳をさせていただきたい。
チャーチルとヒトラーの関係は、喋る予定ではなかった。
藤江さんの発表を聴きながら思いついたのだ。
「寄席のように前の噺との文脈をつなげたい」と考えた。
事実確認をする暇などない。
残り2つは、質問に対する回答。
ビブリオバトルの質問は、議会と異なり事前の質問通告などない。
質問に対し、即興で回答を頭の中から捻り出さなきゃならん。
1回しか読んでない本の記憶は曖昧だ。
ハリファックスの名前なんて覚えられない。
最低でも3回は読まないといけませんな。
御厨貴, 牧原出(編)『聞き書 野中広務回顧録』/岩波書店
恥ずかしながら、今回の時事ビブTVで野中広務氏のことをはじめて知った。現代史の政治家は、評価が定まっていないため、社会の授業で取り上げにくい。
1997年生まれの私は、戦後から2000年代までの首相に関する知識が抜け落ちていそうだ。
新たな出合いがあるのもビブリオバトルの醍醐味である。
聞き書とは、インタビューによってオーラル・ヒストリーをまとめたもの。
歴史学で資料分析ではなく、聞き取りという手法が選択されるとは珍しい。
村田晃嗣『大統領とハリウッド アメリカ政治と映画の百年』/中央公論新社
村田晃嗣先生の著作は、大学生のとき「国際関係論」という授業の教科書として村田晃嗣他『国際政治学をつかむ<新版>』を読んだことがある。
第1章では、ウェストファリア体制による主権国家の誕生からの国際政治史がわかりやすく記述されていた。第2章で、国際政治学固有の論理・方法が明らかにされる。第3章では国際政治の構造、第4章では国際政治の課題が挙げられる。
映画についても造詣が深いとは知らなかった。
ハリウッドが初めてアメリカ大統領を描いた映画は、1915年公開の『國民の創生』。『國民の創生』は、人種偏見(黒人差別)があからさまなため、アメリカ映画史上最大の恥ともみなされている。
アメリカ黒人史については、川島正樹『アファーマティヴ・アクションの行方 過去と未来に向き合うアメリカ』が詳しい。関連映画も紹介されている。こちらも大学生のとき「アメリカの歴史」という授業の教科書として読んだ。
太田剛の選書de Show
首相
岩波新書と講談社現代新書
選書において軸となっていたのは新書。
テーマ全体を俯瞰することができる。
太田さんが動画の中で言及された瀬戸市立図書館の新書コレクションを見てみよう。
いやはや、マニアですなあ。
紹介された69冊の中から私が気になった書籍を取りあげる。
坂本孝治郎『「マツリゴト」の儀礼学 象徴天皇制と首相儀礼をめぐって』/北樹出版
恥ずかしながら私の首相儀礼に関する知識は皆無だ。
この書籍で身につけたいと思った。
2020年度日本公共政策学会賞・作品賞受賞している。
水野剛也『新聞4コマ漫画と内閣総理大臣 全国3大紙に見る小泉純一郎から野田佳彦までの首相描写』/春風社
読みやすい本かと思い、版元を確認すると違った。春風社である。
春風社とは、ゴリゴリの学術書を刊行している出版社だ。
春風社がどのような出版社なのかについては、春風社編集部(編)『わたしの学術書 博士論文書籍化をめぐって』が詳しい。
前回単独チャンプ本を取られたシンヤさんのネットラジオ「図書館員の立ち話」でこの書籍と出合った。#63 ルポ大学院入試part2で紹介されている。
大統領
こちらも新書で全体を俯瞰しながら、幹をつくっていく。
大統領の部分では、新書だけではなく明石書店のエリア・スタディーズシリーズも選書の核となった。
明石書店 エリア・スタディーズシリーズ
私も大好きな外国語学部生必読のシリーズ。
「外国語学部って、外国語を勉強するところでしょ」とよく言われる。
外国語学部という名前から生じる誤解である。
法学部であれば、法学を学ぶ。
工学部は、工学を学ぶ。
「学部の名前=学問の名前」となっているのが、一般的である。
しかし、外国語学部は、外国語を学ぶところではない。
外国語で学ぶ場所である。
外国語は、勉強するものであり研究するものではないのだ。
外国語学部の学律(ディシプリン)は、歴史学、文学、文化人類学 、言語学、社会学などの人文科学である。
では、研究対象は何か?
研究対象は、地域である。
アジア学科では、主に東アジアと東南アジアという2つの地域を研究対象としている。
各地域で、人口が最も多い国の国語である中国語とインドネシア語が必修なのだ。
まとめると、外国語学部とは、
「外国語と人文科学の両輪を用いて特定の地域を研究をする学部」
である。
この研究の名前が、エリア・スタディーズシリーズ(地域研究)と呼ばれる。
明石書店のエリア・スタディーズシリーズは、地域研究の入門書であるため、外国語学部生必読の書なのだ。
『〇〇を知るための〇〇章』のフォーマットで刊行されているエリア・スタディーズシリーズは、私の部屋の本棚に11冊ある。
赤松美和子, 若松大祐(編著)『台湾を知るための60章』
私がはじめて出合ったエリア・スタディーズシリーズは、台湾だった。
大学1年生のとき、「台湾理解を深める方法 : 『台湾を知るための60章』(明石書店,2016 年)を活用して」という主催講演会が母校で行われた。
報告者は、編著者の若松大祐先生と執筆者の村上太輝夫さん。
アジア学科の先生から「アジア学科の代表として感想を話して欲しい」と依頼され、『台湾を知るための60章』を貸していただいた。
エリア・スタディーズシリーズは、入門書と謳われているが、大学1年生の私にとっては難解であった。
ちっとも読みたいという気持ちにならなかった。
恥ずかしながら、講演会の当日の朝に慌てて流し読みをした。
今思い返すと難しいと感じた理由がわかる。
私は文系であるにも関わらず、大学入試のときに世界史でも日本史でもなく、数学を選択した。世界史も日本史も赤点を取ったことがあり、苦手意識を持っていたためだ。母校の数学の入試問題は過去問を確認するとセンター試験(現在の大学入学共通テスト)より簡単だった。
他の受験生が歴史の問題を解く中、微分・積分の記述問題を解いていた。
台湾を知るための背景知識として、清、中華民国、並びに大日本帝國の基礎知識が必須である。
当時の私には、それらの知識が欠如していたため、「読みにくいなあ」と感じてしまったのだ。
現在、『台湾を知るための60章』は、改訂版が刊行されている。
『台湾を知るための72章【第2版】』となり、12章が追記されている。
追加された12章の内、特に近年の時事問題と関連する章は、第0章 新型コロナ対策の「優等生」――国際社会で増した台湾の存在感と第25章 観光――旅行が大好きな国のインバウンドとアウトバウンド。
村井吉敬, 佐伯奈津子, 間瀬朋子(編著)『現代インドネシアを知るための60章』
大学2年生のときに読んだ2冊目のエリア・スタディーズシリーズ。大学3年生のとき、編著者の間瀬朋子先生のゼミと指導教員で執筆者の1人でもある小林寧子先生のゼミと合同で輪読を行った。
私の担当は、第37章 外交──ASEANの盟主、復権を目指す、第38章 東ティモール問題──民主化に貢献した「靴のなかの小石」、第39章 アチェ──永続的な平和は実現するのか、第40章 パプア──植民地支配と東西冷戦に翻弄された先住民族であった。
第38章の東ティモール問題は、社会人1年目のときに読んだリチャード・ロイド・パリー(著), 濱野大道(訳)『狂気の時代 魔術・暴力・混沌のインドネシアをゆく』の第3部 サメの檻 1998-1999年 東ティモールに詳しい。99年に東ティモール独立を巡って行なわれた住民投票とその波紋についてジャーナリストの視点から生々しく記述されている。
編著者や執筆者の解説を聞いたり質問ができる機会を与えてくれる大学は、本当に有り難い場所であったと卒業するとしみじみと思う。
余談だが、インドネシア人の友人のYouTubeチャンネルに出演した際もインドネシア語が落語訛りで字幕をつけられた。
長坂寿久『オランダを知るための60章』
台湾とインドネシアの共通点は、なんだろうか?
両国の共通点は、「オランダに支配された歴史を有すること」だ。
『台湾を知るための72章【第2版】』の第2章はオランダ時代・明鄭時代・清代――台湾島規模の統治領域の形成である。1642年にオランダはスペインを駆逐し、台湾を植民地として統治している。
『現代インドネシアを知るための60章』の第30章 近現代史概説──「多様性のなかの統一」を目指した近代国家への道では、オランダ植民地支配の特徴が記述されている。人文書を読むことが苦手な方には、プラムディヤ アナンタ トゥール(著), 押川 典昭(訳)『人間の大地』をおすすめする。本書は、インドネシア近代史再構成の物語が描かれた小説である。ノーベル賞候補に挙がったこともあり、2019年に映画化もされている。
『オランダを知るための60章』の第44章 日本とライデン――日蘭交流では、オランダ連合東インド会社(VOC)が台湾に巨大な要塞を構築したとの記載がある。
第45章は『マックス・ハーフェラール』――インドネシア統治の実態である。『マックス・ハーフェラール』は近代におけるオランダ文学の最高峰、19世紀最大の問題作として国際的に知られる小説である。著者のムルタトゥーリは小説の形を借りてオランダ東インド植民地における非人道的な統治の実態を告発したものである。ぜひ、『人間の大地』と読み比べてほしい。
綾部真雄『タイを知るための72章【第2版】』
私は大学3年生のとき、当時のインドネシア教育文化省(KEMENTERIAN PENDIDIKAN DAN KEBUDAYAAN)からダルマシスワ(DARMASISWA)という給付型の奨学金をいただき、ジョグジャカルタ市のサナタ・ダルマ大学で長期留学をした。
留学開始3週間目で腸チフスを患い、1週間入院した。
入院中、不安だった。
そんな時、泊りがけで励ましてくれたのが、タイ人の級友だった。
この経験から「タイについて知りたい」と思い、『タイを知るための72章【第2版】』を購入した。
中学生の時に、高野秀行『極楽タイ暮らし 微笑みの国のとんでもないヒミツ』は読んだが、2000年刊行のため情報が古い。
『タイを知るための72章【第2版】』の第1章は、「タイ史」とは?――広義のタイ(Tai)人と狭義のタイ(Thai)人である。広義のタイ(Tai)人とは、南西タイ諸語を母語とする人々のことである。タイ(Tai)人居住地域は、タイ国、中国雲南省、ラオス、ミャンマーシャン州などの盆地(ムアン)である。
盆地については、ジェームズ・C・スコット(著), 佐藤仁(監訳)『ゾミア脱国家の世界史』の第1章が詳しい。
吉川雅之, 倉田徹(編著)『香港を知るための60章』
インドネシアから帰国後、中日新聞名古屋本社で学生アルバイトを始めた。必然的に新聞をよく読むようになった。
「中日新聞? えっ!? 中国と日本の関係についての専門紙?」
中国人の友人にいわれたことがある。
日本語において、日本と中国の関係は「日中関係」という。
中国語では、中国と日本の関係は「中日関係」。
使用する言語によって順番が変わる。
そのため、友人は中日新聞を中国と日本の関係についての専門紙だと勘違いしたのだろう。
中日新聞の中国関連の記事の中でも衝撃だったものの1つに「2019年-2020年香港民主化デモ」がある。
国際ニュースの背景知識を知るために最適な入門書だ。
田村慶子(編著)『シンガポールを知るための65章【第4版】』
卒業論文の研究対象地域は、シンガポールにした。外国語の参考文献として用いたのは、インドネシア語ではなく中国語と英語である。
題目は、「シンガポール相声劇『獅城懸案』に見られるアジア太平洋戦争の歴史認識―大検証についての記述に着目して―」とした。
相声とは、中国版の落語であり、北京、天津など中国東北地方で発達した。1949年、中国共産党との内戦に敗れた国民党政府が台湾へ撤退した。相声を台湾に伝えたのは、将兵慰問を目的とし作られた国民党軍所属の演芸隊である。1984年、台湾の劇作家である頼声川が、相声を素材として、文化の盛衰を描く相声劇を創作したことにより、相声劇が誕生した。
シンガポールに根付いた相声の起源は、第二次世界大戦中に中国南部からやって来た歌劇団が、伝統的な演劇を披露したことまで遡ることができる。当時は、相声ではなく「独脚戯」と呼ばれていた。独脚戯とは、上海、杭州などで流行している演芸の一種である。
題目の『獅城懸案』とは、相声劇の台本である。『獅城懸案』の中で、大検証についての記述があるのは、改編本の相声3「大検証で何人死んで、何人生き残ったのか。」の箇所である。大検証とは、アジア太平洋戦争中に、日本軍が、シンガポールの中国系住民(華僑・華人)の「抗日分子」摘発を行い、6000人とも4万人ともいわれている中国系住民を虐殺した事件である。
卒業論文では、改編本の相声3「大検証で何人死んで、何人生き残ったのか。」の箇所を日本語訳し、アジア太平洋戦争がシンガポール相声劇においてどのように歴史認識がなされているのかを分析した。
『台湾を知るための60章』と『シンガポールを知るための65章【第4版】』は、背景知識を確認するために活用した。最新版は、『台湾を知るための72章【第2版】』と『シンガポールを知るための65章【第5版】』である。
鳥居高(編著)『マレーシアを知るための58章』
社会人になってから、なんとマレーシアにも相声が存在することを知った。
マレーシアについて全体を俯瞰するような日本語書籍は、『マレーシアを知るための58章』が刊行されるまでは、見かけたことがなかった。
マレーシアというとマレー半島のみが注目されがちである。『マレーシアを知るための58章』では、マレー半島だけでなくボルネオ島にまで射程を広げ言及している。
アンジェロ・イシ『ブラジルを知るための56章【第2版】』
インドネシアから帰国後、中日新聞名古屋本社の学生アルバイトだけでなく、瀬戸市菱野団地にあるブラジル人学校での学習支援ボランティアを始めた。インドネシアでの入院中、現地の方やクラスメイトにお世話になった。次は、「私が地元の外国人住民の力になりたい」と思ったためだ。
ボランティアを始めるまで知らなかったのだが、瀬戸市の外国人住民で最も人口が多い国は、ブラジルである。(2023年4月1日現在959名)
現在瀬戸市には、K&K Rotisserie Brazilian KitchenとCHURRASKITIという2つのブラジルレストランがある。K&K Rotisserie Brazilian Kitchenは伝統料理を提供しており、CHURRASKITIはグリル料理を提供している。
『ブラジルを知るための56章【第2版】』の第53章 隣のブラジル人に興味を抱こう――「在日」になったデカセギ者たちを読むと、「なぜブラジル人の外国人住民の人数が多いのか?」という疑問が氷解するだろう。
大野拓司, 鈴木伸隆, 日々渉(編著)『フィリピンを知るための64章』
瀬戸市の外国人住民で2番目に人口が多い国は、フィリピンである。(2023年4月1日現在772名)
瀬戸市でインドネシア語っぽい外国語が聞こえることがままあった。
何語だろうと思い、調べるとフィリピノ語だった。
フィリピンの国語であるフィリピノ語とインドネシア語は実は音が似ている。フィリピノ語もインドネシア語もオーストロネシア語族に属しているためだ。例えば、フィリピノ語とインドネシア語で「子ども」という単語は、ともに“anak”である。
「似てるから身につけやすいだろう」と安直に考えた。
社会人になってから、フィリピノ語の勉強を始め、スピーチコンテストにも出場した。
しかし、フィリピノ語とインドネシア語は国語としての成立過程とその性質が全く異なる。『フィリピンを知るための64章』の第27章 言語と教育――国民統合と自己実現の手段と『現代インドネシアを知るための60章』の第24章 インドネシア語──しなやかさとユーモアがいちばんのもち味を読み比べてほしい。
フィリピンの方が海外就職をする理由は、『フィリピンを知るための64章』の第5章 海外就労――国民の1割が国外で確認いただきたい。
中島弘象『フィリピンパブ嬢の社会学』と続編の『フィリピンパブ嬢の経済学』は、瀬戸市のお隣である春日井市と名古屋市栄を舞台としている。
愛知県に住むフィリピン人の生の声がわかる。
『フィリピンパブ嬢の社会学』は、映画化もされている。
主演はフィリピン出身の一宮レイゼルさんとお笑いコンビ「まえだまえだ」の兄である前田航基さんだ。
今井昭夫, 岩井美佐紀(編著)『現代ベトナムを知るための60章【第2版】』瀬戸市の外国人住民のうち近年増加が著しい国は、ベトナムである。
瀬戸市には、Quán Việt Aichiというアジア食材店がある。
「ベトナムデリ珈琲」というおしゃれなカフェもある。
現在『現代ベトナムを知るための63章【第3版】』という改訂版が刊行されており、3章分増えている。
第61章 海外就労――EPA看護師・介護福祉士、技能実習生を読めば、来日するベトナムの方が増えている理由がわかるだろう。
田村克己, 松田正彦(編著)『ミャンマーを知るための60章』
在日ミャンマー人が中心になって耕している畑が、なんと瀬戸市にある。
畑では、日本では手に入りにくい作物(バナナやローゼル、小さな玉ねぎ)を栽培している。
私はこの情報を国際芸術祭「あいち2022」で知った。
『時事ビブTV』の番組ホストである太田剛さんもミャンマーとの関係が深い。図書館と地域をむすぶ協議会 代表/チーフディレクターに就任される前は、ミャンマーで戦場カメラマンをされていた。撮影対象は、当時の少数民族武装勢力11民族のうちの6民族である。
ミャンマーの少数民族については、高野秀行『アヘン王国潜入記』、『西南シルクロードは密林に消える』、『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―』をおすすめする。
現在、瀬戸市人口のうち約4%が外国人住民である。
あなたは、「多文化共生」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
地域における多文化共生の推進には、相手の出身地に関する知識が必須である。相手の出身地に関する包括的な基礎知識を得るのにも役に立つのが明石書店のエリア・スタディーズシリーズである。
瀬戸市立図書館の利用者には、特にアジアと南米のシリーズを読んでいただきたい。
選書de Showで紹介されたエリア・スタディーズシリーズは、越智道雄『大統領選からアメリカを知るための57章』であった。
出版年が、2012年のため、争点は2012年大統領選である。
結果は、ご存知の通りオバマ政権の二期目継続であった。
田中慎吾, 高橋慶吉, 山口航『アメリカ大統領図書館 歴史的変遷と活用ガイド』/大阪大学出版会
日本首相図書館は存在しないが、アメリカ大統領図書館は存在する。
アメリカ大統領図書館は、アメリカ国立公文書記録管理院の組織下に14館あるらしい。
アジア学科卒の図書館員としては、アジア図書館関連本である
U-PARL(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門)(編)『世界の図書館から アジア研究のための図書館・公文書館ガイド』、U-PARL(編)『図書館がつなぐアジアの知 分類法から考える』、東洋文庫(編)『アジア学の宝庫、東洋文庫 東洋学の史料と研究』
の3冊もおすすめする。
ニコラス ワプショット(著), 久保 恵美子(訳)『レーガンとサッチャー: 新自由主義のリーダーシップ』/新潮社
最近読んだ本に興味深い記述があったため、引用する。
私も社会人1年目は、15冊しか本が読めなかった。働き始めるまでは平均して1年で60冊は読めていた。4分の1まで減少した。
新自由主義を世界に広めたのは、サッチャーとレーガンである。
サッチャー・レーガン・中曽根以降の世界に生まれた私の中には「自己責任」という新自由主義の考え方がこびりついていたらしい。
新自由主義という社会構造が、個人の思想にまで影響を及ぼし、内側から自己の読書習慣を破壊している。
選書de Showで紹介された書籍を熟読し、「新自由主義とは何か?」について再考する必要がありそうだ。
瀬戸市立図書館 玄関展示「エディターの棚」
第15回『時事ビブTV』の放送を受けて、
瀬戸市立図書館では「大統領と首相」をテーマとした玄関展示を行っている。
期間:6月27日(木)から8月27日(火)まで
突然だが、あなたは、図書館と聞いてどのようなイメージが浮かぶだろうか?
「本を借りる場所や勉強をするところ」と思われたかもしれない。
しかし、本質は異なる。
図書館とは、地域における「情報の拠点」
つまり、「住民と情報をつなぐ存在」なのだ。
瀬戸市立図書館は、行政資料、郷土資料なども含め約34万冊の蔵書を有している。入館者数は、年間約19万人であり公共施設の中でダントツに多い。
しかし、従来の配架方法では、せっかくの素晴らしい資料が利用者に届きにくいという課題がある。
その課題を解決する方法論を身につけるために、6月29日(土)「本棚づくりのワークショップ」が開催された。
ワークショップでは、編集工学の手法を学びながら、グループで各自が持ち寄ったそれぞれの本を関連づけ体系化し、ひとつのテーマの本棚編集をした。
では、このタイミングでなぜワークショップを行ったのか?
実は、2025年1月より瀬戸市立図書館本館の改修工事が行われる予定である。
「瀬戸市立図書館の利活用計画」に沿って本館を令和8年の春にリニューアルオープンをするために着工する。
本館の新しいコンセプトは「大人がゆっくり楽しめる 子どもも一緒に楽しめる」。
このコンセプトを実現するための仕組みの1つとして、本の並びを編集的に工夫し、利用者の知的好奇心を触発する“本と出合う本棚”を増やすというものがある。楽しみながら学べる、生涯学習の拠点として新しい知的空間を創出する。
今回の「本棚づくりのワークショップ」で、リニューアルオープン後のテーマ配架による本棚づくりの基礎力を養うことができる!
講師は、『時事ビブTV』番組ホストの太田剛先生。
本棚づくりのワークショップ
第16回『時事ビブTV』〈本屋の未来〉
次回のテーマは「本屋の未来」。
2024年8月10日(土)放送予定。
番組への参加者も募集している。
申し込みフォームはこちら↓↓↓
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScB23qmPxPZ0ncx7hL9dBV42RwC-zYfcEb1rawR8V3XjY15ow/viewform?pli=1
2024年3月5日の経済産業大臣の記者会見で「文化創造基盤としての書店振興プロジェクトチーム」を設置するとの発表があった。
ここでのポイントは、経済産業省が主体となっている点である。
街の書店を「日本の重要なコンテンツ産業の一翼」と位置付けているのだ。
瀬戸市立図書館と地元本屋さんとの取組みは、図書館・書店等連携実践事例集(文部科学省)に掲載されている。
瀬戸市にもステキなまちの本屋さんがある。
図書館だけではなく、瀬戸市内の本屋さんにもぜひ足をお運びくださいませ。
春広堂書店
みうら書店
本・ひとしずく
関連記事
読書案内(本記事で紹介した書籍)
立川談春『赤めだか』/扶桑社
ティムール・ヴェルメシュ(著), 森内薫(訳)『帰ってきたヒトラー』/河出書房新社
広谷直路『「泣き虫」チャーチル 大英帝国を救った男の物語』/集英社インターナショナル
御厨貴, 牧原出(編)『聞き書 野中広務回顧録』/岩波書店
村田晃嗣『大統領とハリウッド アメリカ政治と映画の百年』/中央公論新社
村田晃嗣他『国際政治学をつかむ<新版>』/有斐閣
川島正樹『アファーマティヴ・アクションの行方 過去と未来に向き合うアメリカ』/名古屋大学出版会
坂本孝治郎『「マツリゴト」の儀礼学 象徴天皇制と首相儀礼をめぐって』/北樹出版
水野剛也『新聞4コマ漫画と内閣総理大臣 全国3大紙に見る小泉純一郎から野田佳彦までの首相描写』/春風社
春風社編集部(編)『わたしの学術書 博士論文書籍化をめぐって』/春風社
赤松美和子, 若松大祐(編著)『台湾を知るための72章【第2版】』/明石書店
村井吉敬, 佐伯奈津子, 間瀬朋子(編著)『現代インドネシアを知るための60章』/明石書店
リチャード・ロイド・パリー(著), 濱野大道(訳)『狂気の時代 魔術・暴力・混沌のインドネシアをゆく』/みすず書房
長坂寿久『オランダを知るための60章』/明石書店
プラムディヤ アナンタ トゥール(著), 押川 典昭(訳)『人間の大地 プラムディヤ選集②・③ 上・下』/めこん
ムルタトゥーリ(著), 佐藤弘幸(訳)『マックス・ハーフェラール もしくはオランダ商事会社のコーヒー競売』/めこん
綾部真雄『タイを知るための72章【第2版】』/明石書店
高野秀行『極楽タイ暮らし 微笑みの国のとんでもないヒミツ』/ベストセラーズ
ジェームズ・C・スコット(著), 佐藤仁(監訳)『ゾミア脱国家の世界史』/みすず書房
吉川雅之, 倉田徹(編著)『香港を知るための60章』/明石書店
田村慶子(編著)『シンガポールを知るための65章【第5版】』/明石書店
鳥居高(編著)『マレーシアを知るための58章』/明石書店
アンジェロ・イシ『ブラジルを知るための56章【第2版】』/明石書店
大野拓司, 鈴木伸隆, 日々渉(編著)『フィリピンを知るための64章』/明石書店
中島弘象『フィリピンパブ嬢の社会学』/新潮社
中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』/新潮社
今井昭夫, 岩井美佐紀(編著)『現代ベトナムを知るための63章【第3版】』/明石書店
田村克己, 松田正彦(編著)『ミャンマーを知るための60章』/明石書店
高野秀行『アヘン王国潜入記』/集英社
高野秀行『西南シルクロードは密林に消える』/講談社
高野秀行『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―』/新潮社
越智道雄『大統領選からアメリカを知るための57章』/明石書店
田中慎吾, 高橋慶吉, 山口航『アメリカ大統領図書館 歴史的変遷と活用ガイド』/大阪大学出版会
U-PARL(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門)(編)『世界の図書館から アジア研究のための図書館・公文書館ガイド』/勉誠社
U-PARL(編)『図書館がつなぐアジアの知 分類法から考える』/東京大学出版会
東洋文庫(編)『アジア学の宝庫、東洋文庫 東洋学の史料と研究』/勉誠社
ニコラス ワプショット(著), 久保 恵美子(訳)『レーガンとサッチャー: 新自由主義のリーダーシップ』/新潮社
三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』/集英社
矢野和幸@STEP