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本より花

わたしは一人の時はいつも、本ばかり読んでいる。
彼と一緒にいても本を読んでみたりする。
「オレは何をしていたら良いの?」
そんなときには、全く本を読まない彼はそんなふうにいう。
(先にスマホを弄り始めたのはそっちでしょ)
わたしは返事をしてやらない。
彼の無防備な横顔がとてもカッコよくて好きだから、本はただのフリでチラ見を繰り返していたりもする。
(あとでじっくり彼を眺めてやろう)
ホントは彼との大事な時間だから、一緒に使いたいに決まっている。
彼があきらめたように、またスマホを見始めたのが目の隅で見えても、すぐにそっちを見てはいけない。
なぜかわたしの視線に異様にするどいのだ。
最近は、誰だったか忘れたが、起業をした人のブログがとても面白いのだそうだ。
それを見始めると周りの事が目に入らなくなって、わたしが呼んでも聞こえなくなる。  
その状態になってから、満を辞しておもむろにそっちを見る。
まだそんなに見ないうちに彼は気づいてしまった。
(上手くいかないものね)
わたしは照れて笑ってしまった。
そんな私に彼は、微笑みながら近寄ってくる。
そっと本を横に置いたその手の上に彼が手を重ねた時、ふいに本のタイトルが目に入った。
『花より団子』
(わたしはさしづめ、本より花、かな)
そう思ったら、ふふ、と声が出た。
そんなわたしを彼は不思議そうに見つめた。

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