第104回全国高等学校野球選手権大会展望号
『この夏も、応援したい君がいる。』
3年ぶりに入場制限が解除された今大会。依然として声出し応援は出来ないものの徐々に日常が戻ってきつつある。
今大会を戦う高校生たちはその日常を知らない。
これが今大会の一つのカギになる可能性がある。今年は地方大会から全国各地で波乱が相次いだ。学生たちにとっては初めて一般のお客さんの目の前で夏を戦うことになった事が理由の一つとして考えられる気がする。
そういった環境プラス高校生にとっての夢の舞台である甲子園でのプレー。平常心でプレーしろという事が酷な環境となる。そこに来てコロナ禍で練習の絶対量は限られてしまったとあれば、本来の実力を発揮できずにいわゆる波乱の展開が起こる可能性は十分にあり得るということを念頭に置いておきたい。
その上で過去5年のベスト4に進んだ学校の成績を確認しよう。
103回大会~98回大会(独自大会となった102回大会は省く)
103回大会
優勝 智辯和歌山(和歌山)
準優勝 智辯学園(奈良)
ベスト4京都国際(京都)、近江(滋賀)
智辯和歌山
打率.359 HR1本 防御率1.75 投手起用数5人
智辯学園
打率.312 HR3本 防御率2.17 投手起用数3人
京都国際
打率.225 HR4本 防御率2.19 投手起用数2人
近江
打率.271 HR3本 防御率4.20 投手起用数4人
101回大会
優勝 履正社(大阪)
準優勝 星稜(石川)
ベスト4明石商(兵庫)、中京学院大中京(岐阜)
履正社
打率.353 HR7本 防御率3.33 投手起用数2人
星稜
打率.329 HR5本 防御率2.31 投手起用数6人
明石商
打率.276 HR4本 防御率3.40 投手起用数4人
中京学院大中京
打率.309 HR2本 防御率3.75 投手起用数4人
100回大会
優勝 大阪桐蔭(北大阪)
準優勝 金足農(秋田)
ベスト4済美(愛媛)、日大三(西東京)
大阪桐蔭
打率.328 HR8本 防御率2.00 投手起用数3人
金足農
打率.291 HR3本 防御率3.74 投手起用数2人
済美
打率.277 HR2本 防御率3.56 投手起用数2人
日大三
打率.309 HR3本 防御率2.60 投手起用数4人
99回大会
優勝 花咲徳栄(埼玉)
準優勝 広陵(広島)
ベスト4東海大菅生(西東京)天理(奈良)
花咲徳栄
打率.351 HR2本 防御率1.93 投手起用数2人
広陵
打率.377 HR8本 防御率5.33 投手起用数3人
東海大菅生
打率.372 HR7本 防御率2.37 投手起用数3人
天理
打率.344 HR6本 防御率4.03 投手起用数3人
98回大会
優勝 作新学院(栃木)
準優勝 北海(南北海道)
ベスト4明徳義塾(高知)秀岳館(熊本)
作新学院
打率.289 HR4本 防御率1.40 投手起用数3人
北海
打率.311 HR2本 防御率2.00 投手起用数2人
明徳義塾
打率.368 HR2本 防御率3.25 投手起用数3人
秀岳館
打率.299 HR3本 防御率0.67 投手起用数4人
過去5年から見る夏の甲子園で上位進出する条件
攻撃面
① 流れを変えるホームランを打てる
② 打線が切れ目なく繋がること
この2点のどちらかが必要。
投手面
最低3枚が必要。
昨今の異常な暑さと、昨年より導入された球数制限の問題を考えると枚数は多いに越したことはない。
過去にピッチャー2枚で勝ち上がった学校の共通する点
① 2枚共が上のカテゴリーでも十分に通用する能力を持っている場合
② 稀代のタフネスピッチャーがエースとして君臨している場合
※このパターンは球数制限が設けられている今大会ではかなりハードルが高くなるため、スーパーエース1人が投げる学校では厳しい。
今年は例年に輪をかけて猛暑となることが予想されるためにピッチャーの枚数は揃った学校の活躍が目立つはず。
注目校
秋の神宮大会と春のセンバツ甲子園を制覇し、秋春夏3冠を狙う大阪桐蔭が中心となる大会になるのは明々白々。各校『STOP THE 大阪桐蔭』を目標に挑んでくるだろう。
大阪桐蔭
3年生の川原君、別所君、2年生サウスポーの前田君と3枚の強力な柱となる投手がおり、揃ってプロ注目の素材。上記であげた条件を軽々と満たす。そこに加えて3年生サウスポーの小林君と長身2年生右腕の南君が控えている。この盤石度合いは歴代の最強チームとうたわれた学校と比較しても随一の存在と言ってもおかしくないほどにインパクトがある。
そこに加えて、春のセンバツ4試合で打率.386 HR11本 51得点を記録した超強力打線と伝統的なディフェンス力の高さは健在でまさに隙がない。
それでは大阪桐蔭を倒す術は全くないのか?勝負事である限りそんなことはあり得ない。過去の大阪桐蔭の敗戦ゲームからその傾向を読み解いてみる。
大阪桐蔭が過去に甲子園で敗戦した試合(平成19年春以降)
H19春 準々決勝 対常葉菊川☆
H22春 2回戦 対大垣日大☆
H25春 3回戦 対県岐阜商☆
H25夏 3回戦 対明徳義塾(岸潤一郎)
H27春 準決勝 対敦賀気比(平沼翔太)
H28春 2回戦 対木更津総合☆
H29夏 3回戦 対仙台育英☆
R3 春 1回戦 対智辯学園☆
R3 夏 2回戦 対近江(山田陽翔、岩佐直哉)
過去9回の敗戦中☆マークの付いた6度はサウスポー相手。残りの3度はいずれも右の速球派ピッチャーを要するチームだった。大阪桐蔭打線に対してどれだけ自分たちのスイングをさせないかという一点に尽きる。左右問わず、何に恐れずにインコースへ飛び込んでいけるかが非常に重要となってくる点は覚えておいて良さそう。
さてそれを踏まえた上で今年そういったことが期待できる学校はどこなのか?
STOP THE 大阪桐蔭
智辯和歌山
昨年の日本一にして今世代の大阪桐蔭高校に公式戦で唯一土を付けた学校。塩路君、武元君は昨年からマウンドを多く経験している速球派右腕。他の投手も充実しており和歌山県大会では6人の投手が登板した。
打撃陣は智辯和歌山伝統の強力打線が健在で県大会5試合で9HR45得点を記録しており、堂々と対抗馬の存在と言えそう。
聖光学院
気持ちのいい野球をしてくれる学校。春のセンバツで近江に敗戦した後徹底的に勝利への意識にこだわってきた。
春の県大会、東北大会を接戦続きながら勝ち切ったことは大きな自信になったはず。春の大会から目の前の一勝にこだわり、涙してきたその姿勢は夏場の競った展開で必ず活きてくるはず。
エース佐山君はこの夏、制球難に苦しんだが本来はコントロール抜群の投手で強気に攻めていければ面白い。
キャプテンの赤堀君は夏の県大会で.500の打率を記録。チームの中心として引っ張ってきた。斉藤監督をして聖光学院歴代でも屈指のキャプテンシーと言わしめたその存在感に期待したい。赤堀君、高中君、生田目君のいぶし銀トリオがきっちり仕事を出来る展開が作れていれば上位進出は十分に見込める。
春に続き心の本命校である。
明徳義塾
吉村君、矢野君という左右の変則ピッチャーを抱える。去年の夏はベスト4進出を目前にして逆転負けを喫した。その時のマウンドに立っていた吉村優聖歩君が甲子園に帰ってくる。去年ベンチ前で号泣していた時に先輩エースの代木君に『お前は泣くな!来年帰ってこい!』と言われた約束を守って帰ってきた。
そのシーンは85回大会を制した常総学院の飯島君が2年生の時に先輩に言われていたセリフに似ている。歴史は繰り返す。高校野球はこうやって点だけじゃなく線でも見ることが出来るから楽しすぎる。
今年の高知県大会決勝では、最終回1点リードノーアウト1.2塁と去年の逆転負けを連想させるシーンとなったが凌ぎ切ったところに成長が見えた。
仙台育英
エース古川君は今大会でも屈指のMAX145キロサウスポー。他にも140キロ以上の速球派が複数枚おり上記で上げた大阪桐蔭を倒すことの出来る学校としての資格は十分に兼ね備えている。
監督の須江監督は日本で一番大阪桐蔭を倒すことを考えている監督は自分だと自負するほどの人物。その執念が実っていいだけの戦力は揃っているとみる。
上記以外に打倒大阪桐蔭を狙えそうな学校
近江…疲労度少なく山田君を大阪桐蔭戦で起用できれば
九州国際…香西君の復調と全国屈指の強力打線が噛み合えば
鹿児島実業…柴田イチオシのサウスポー赤嵜がツボにはまれば
京都国際…森下君、平野君が万全な状態になれば
鳴門…冨田君が万全の状態で大阪桐蔭戦を迎えることが出来れば
横浜…杉山君がいかに崩していけるか、メンバーの能力は屈指
下関国際…左右の速球派を擁しディフェンス力に定評がある
星稜…マーガード君、武内君の2枚看板は実力十分
組み合わせを踏まえての展望
ベスト8予想(トーナメント表の左上から順に)
Aブロック
仙台育英
古川君を中心に投手陣の層の厚さは全国屈指。打倒大阪桐蔭を日本で一番考えているという監督の執念が結実するチャンス。
赤嵜君がハマれば鹿児島実業にもチャンスは十分。
Bブロック
明徳義塾
初戦から九州国際大附と対戦するが初戦に滅法強い学校なだけに相手を分析できる時間が長い6日目を引けたことは大きい。吉村君だけに負担が掛かりすぎなければ去年の悔し涙を嬉し涙に変えるだけの力はある。
Cブロック
下関国際
比較的優しいブロックを引いてこれた印象。持ち前のディフェンス力を発揮できれば上位進出も夢ではない。
Dブロック
智辯和歌山
今年唯一公式戦で大阪桐蔭に土を付けており充実一途。シンガリでの登場となるが去年遅めのスタートとなったが優勝までこぎつけた経験がここにきて物を言いそう。
Eブロック
星稜
かなりの激戦ブロックだが投手陣が充実している星稜が抜けている予想。愛工大名電のとの初戦が鍵となりそうだが、初戦に滅法弱く倉野監督体制になってから夏の甲子園を勝てていない点が不安要素。京都国際高校は能力ならば1.2だと思うが森下君、平野君がともに故障持ちで万全な状態でない点は不安と言わざるを得ない。
Fブロック
近江
山田君にどれだけ負担を掛けずに勝ち上がっていけるかに尽きる。星野君の頑張りが滋賀県勢初の深紅の大優勝旗を掴むためには必要不可欠。投手陣の充実している鶴岡東の前評判は決して高くないが楽しみ。
Gブロック
聖光学院
間違いなく最激戦区。
聖光学院は10年前にも日大三と対戦。その時と同じ大会4日目第2試合。1塁側日大三3塁側聖光学院というところまで全く一緒。因果とは恐ろしいもの。その時は2-1で聖光学院が勝利しているが果たして今回は?
対抗は横浜となるか。杉山君、鈴木君が本調子ならばロースコアに持込める点は強み。春のセンバツ前に聖光学院と横浜が練習試合を行っており(非公開)その際は聖光学院が圧勝。苦手意識はないはず。
Hブロック
大阪桐蔭
大阪桐蔭にとっては恵まれたブロックに入れた印象。大会5日目スタートでややタイトなスケジュールとなるが分厚い投手層なので悲観する必要がない。大阪桐蔭を苦しめる学校が出てくることにも期待してみたい。初戦で当たる旭川大高は3年前大劣勢と思われた奥川君擁する星稜相手でも1-0のゲームが出来ており学校としてのポテンシャルは高い。
今大会の印
☆聖光学院
◎大阪桐蔭
〇智辯和歌山
▲明徳義塾
△仙台育英
✕下関国際、星稜
こんな長文の展望が裏切られるような高校生の成長と熱戦に期待したい。
高校球児の皆様、今年も暑い熱いアツい夏をよろしくお願いします。
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