第105回全国高等学校野球選手権記念大会展望号
『さぁ行こう、僕らの夢へ』
4年ぶりに声出し応援が解禁される今大会。試合前のPCR検査も撤廃されて検査結果に気持ちが左右されるという事がなくなって本当に良かった。ようやく高校球児の日常が戻って来た。
今大会を戦う高校生たちは夏の甲子園での声出し応援を知らない。そしてその魔力も知らない。
これが今大会の一つのカギになる。今年も地方大会から全国各地で波乱が相次いだ。
学生たちにとっては初めての声出し応援。苦楽を共にした仲間達、保護者、関係者の期待が声となって選手たちに伝わる。その声援が大きな力となり、時にはプレッシャーともなって襲い掛かってくる。
そういった環境プラス夢の舞台である甲子園でのプレー。平常心でプレーしろという事が酷な環境となる。ましてや今年は異常なほどの酷暑。地方大会から試合終盤で脚を攣る選手や熱中症のような症状で交替してしまう選手の姿をよく見た。緊張感のある中でのプレーなのでより心身ともにストレスが掛かってしまうこともまた事実だろう。
本来の実力を発揮できずにいわゆる波乱の展開が起こる可能性は十分にあり得るということを念頭に置いておきたい。
その上で過去5年のベスト4に進んだ学校の成績を確認しよう。
104回大会~99回大会(独自大会となった102回大会は省く)
※103~99回は昨年用いたデータを転用
104回大会
優勝仙台育英(宮城)
準優勝下関国際(山口)
ベスト4聖光学院(福島)、近江(滋賀)
仙台育英(5試合)
打率.397 HR1本 得点47 防御率2.00 失点11 与四死球15 投手起用数5人
下関国際(5試合)
打率.309 HR0本 得点28 防御率3.27 失点17 与四死球25 投手起用数3人
聖光学院(5試合)
打率.336 HR3本 得点29 防御率5.80 失点28 与四死球14 投手起用数3人
※仙台育英戦を除くと失点10防御率2.50無失策
近江(5試合)
打率.318 HR1本 得点32 防御率3.40 失点20 与四死球26 投手起用数2人
103回大会
優勝智辯和歌山(和歌山)
準優勝智辯学園(奈良)
ベスト4京都国際(京都)、近江(滋賀)
智辯和歌山
打率.359 HR1本 防御率1.75 投手起用数5人
智辯学園
打率.312 HR3本 防御率2.17 投手起用数3人
京都国際
打率.225 HR4本 防御率2.19 投手起用数2人
近江
打率.271 HR3本 防御率4.20 投手起用数4人
101回大会
優勝履正社(大阪)
準優勝星稜(石川)
ベスト4明石商(兵庫)、中京学院大中京(岐阜)
履正社
打率.353 HR7本 防御率3.33 投手起用数2人
星稜
打率.329 HR5本 防御率2.31 投手起用数6人
明石商
打率.276 HR4本 防御率3.40 投手起用数4人
中京学院大中京
打率.309 HR2本 防御率3.75 投手起用数4人
100回大会
優勝大阪桐蔭(北大阪)
準優勝金足農(秋田)
ベスト4済美(愛媛)、日大三(西東京)
大阪桐蔭
打率.328 HR8本 防御率2.00 投手起用数3人
金足農
打率.291 HR3本 防御率3.74 投手起用数2人
済美
打率.277 HR2本 防御率3.56 投手起用数2人
日大三
打率.309 HR3本 防御率2.60 投手起用数4人
99回大会
優勝花咲徳栄(埼玉)
準優勝広陵(広島)
ベスト4東海大菅生(西東京)天理(奈良)
花咲徳栄
打率.351 HR2本 防御率1.93 投手起用数2人
広陵
打率.377 HR8本 防御率5.33 投手起用数3人
東海大菅生
打率.372 HR7本 防御率2.37 投手起用数3人
天理
打率.344 HR6本 防御率4.03 投手起用数3人
必要と考えられる能力
攻撃面
とにかく打線の繋がり。もしくは一撃必殺のホームランを放てること
投手面
ピッチャーの枚数は大いに越したことはない。
今年の異常な暑さと、昨年より導入された球数制限の問題を考えると枚数は多いに越したことはない。
過去にピッチャー2枚で勝ち上がった学校の共通する点
①2枚共が上のカテゴリーでも十分に通用する能力を持っている場合
※昨年の仙台育英や下関国際はまさにこのパターン。
②稀代のタフネスピッチャーがエースとして君臨している場合
※このパターンは球数制限が設けられている今大会ではかなりハードルが高くなる。大黒柱1人が投げる学校では厳しいということを昨年の聖光学院と近江が奇しくも証明する格好となってしまった。
今年は例年に輪をかけて猛暑となることが予想されるためにピッチャーの枚数は揃った学校の活躍が目立つはず。
注目校
Sランク…仙台育英、広陵
Aランク…慶應義塾、履正社、英明
Bランク…八戸学院光星、北海、明豊、浦和学院、智辯学園
最推し …聖光学院
夏連覇を目指す仙台育英と神宮大会2年連続準優勝にしてセンバツベスト4になった広陵が今大会の中心的存在。それを追いかける学校も虎視眈々と夏の頂点を狙っている。
Sランク
仙台育英
言わずと知れた昨夏の日本一。今年は昨夏を制した主力メンバーが大挙して残り、選手層はさらに分厚くなったと見て間違いない。
世間的に注目されるのはエース高橋君、背番号10湯田君の右腕2人と、背番号17サウスポーの仁田君の150キロトリオ。スピードボール化の波は確実に高校野球にもやってきているがそれでも150キロオーバーが3人も揃うのは異次元。他校にとっては確実に脅威となる。
宮城大会では5試合で51得点2失点と能力の高さをまざまざと見せつけてきてまさに投打ともに隙はない。宮城大会で9失策とやや守備面で粗さがあるものの補って余りある総合力の高さと言えるはず。
個人的な注目選手は4番手ピッチャーの背番号11サウスポー田中優飛君。4番手とはいえ140キロオーバーのストレートと曲がりの大きなサウスポーらしいスライダーをコントロールよく愚直に投げ込んでいくタイプ。春のセンバツは準優勝した報徳学園に延長タイブレークの末にサヨナラ負けした。その時にマウンドに立っていたのが田中君。責任を感じて号泣していた姿に夏の活躍を確信した。この夏のキーマンになると思うので注目してあげてください。
広陵
仙台育英と双璧と言える存在。新チームになってからの全国大会はいずれも優勝校に敗戦。
※秋の明治神宮大会vs大阪桐蔭
春のセンバツvs山梨学院
昨夏の3回戦で英数学院に敗戦してから1球、1点への執着心にトコトン拘ってきたチームだが、全国の舞台ではあと一歩届かずという結果になっていた。
世代№1スラッガーと呼び声の高い3番真鍋君を中心にした強力打線と広陵伝統の堅守が持ち味。特に打線の厚みは素晴らしく今大会屈指の打線と見る。
ただし、広島大会では主軸の3番真鍋君4番の小林君の調子がイマイチ上がってこなかった。逆を言うとその2人が不調でも打線の厚みは強烈。U=18高校JAPAN候補の1番田上君、渋いつなぎ役2番谷本君、5番只石君あたりは本当に良い選手。上位打線の厚みは今大会1,2を争う。
投手陣は左右の両輪である高尾君と倉重君の2人が中心。
持ってるポテンシャルの高さは今大会で随一のものがあると思わせる。
『サクラの広陵』が夏に満開。そんな期待を抱かせるチーム。過去4度の準優勝という壁を超えていけるか。
Aランク
慶應義塾
春は仙台育英に2-1と惜敗。打てずに負けたのがよほど悔しかったのかこの夏に向けて振り込みまくってきたチーム。全国でも屈指の強力打線を作り上げてきた。
神奈川大会で6ホームランと長打力が持ち味。
それに加えて私が昨秋から最も推していた投手でもある小宅君が覚醒。ストレートは145キロ前後をコンスタントに記録。アベレージだと昨秋から10キロくらい速くなっている。しかもストレートの回転数はプロの一級品と遜色のない2600回転を記録。綺麗なストレートで勝負できる珍しい投手。
他にもストッパーの松井君、左の鈴木君と投手陣の枚数は十分。頂点を狙える戦力はある。
履正社
夏の大会で大阪桐蔭を倒すということの価値が凄い。独自大会を除くと夏の大阪大会で大阪桐蔭を直接倒したのはかなり久しぶり。ついに高い壁を超えてきた。
岡田龍生監督から多田監督に交替してから初の甲子園。岡田監督時代は高校野球らしくオーソドックスにバントを多用するシーンが目立ったが多田監督に替わってからはいい意味で攻撃的な野球をするようになった印象。その象徴がサードを任される森田大翔君。彼のフルスイングは新星履正社の光となる。
投手陣は大阪桐蔭相手に完封した最速151キロ左腕の福田君、安定感抜群の増田君、2年生の高木君と能力の高い投手を3枚も揃える。チームとしてのポテンシャルの高さは今大会でも屈指の存在。
英明
個人的に今年のダークホースになり得ると思っている学校。
秋も春も全国の舞台を経験している。
右サイドハンドのエース下村君とプロ注目の好打者寿賀君が中心。普段はサードを守る清家君、センターを守る寿賀君も控え投手として控えており投手の枚数はそれなりに確保できている。
県大会の打率は.337と決して高くはないが一気呵成する時の瞬発力の高さが魅力的。
春の甲子園で作新学院とルーズベルトゲーム並みのシーソーゲームを経験したことがこの夏に活きてくると信じて。
最推し聖光学院
お帰りなさい。よくぞ戻ってきてくれました。昨年は本当に厳しいブロックを突破して堂々のベスト4入り。学校として初めてのベスト4でベスト8の壁をようやく突破できた。赤堀颯キャプテンを中心に素晴らしいチームでした。
今年は歴史を作った前チームとは違った持ち味を磨いてきたチーム。今チームの持ち味はなんといっても強力打線。福島大会5試合で打率.428得点は59を記録。その中心は昨年2番セカンドを務めていた高中一樹キャプテン。今年は前キャプテンだった赤堀颯君の後を追いかけるように1番ショートとしてチームを引っ張る存在。U-18日本代表候補に選出されているほどの選手で福島大会では驚異の打率.615出塁率.728を記録。全8安打中5安打が長打で四死球は10。準々決勝のふたば未来学園戦では外野4人シフトを敷くほどに警戒されたがその打席でしっかりとライト前ヒット。打撃能力の高さが目を引くものがある。
他にもセーフティバントの達人いぶし銀の2番西本君、3番キャッチャー杉山君、昨年から4番を務める勝負強い三好君、春以降の成長が目覚ましい5番の樽川君、お兄ちゃんも聖光学院だった6番片山君、枚方ボーイズ出身の7番松尾君と本当に抜け目のない打線。
投手陣は昨年の佐山君のような大黒柱はいないものの、エースの安斎君を中心に小室君、星名君、高野君と左右2枚ずつ揃えて枚数の多さは昨年を上回る。
春の東北大会で日大山形に延長タイブレークの末に敗れたチーム。その時に試合に出た選手は泣き崩れて、道具の片づけを行ったのは控えメンバーだった。その姿を見た斎藤監督が問題視して、ミーティングを強化。『束になって戦う』という強い決意を持つキッカケになったそうだ。
※AERA増刊号甲子園2023より参照
迎えた夏の決勝戦ではライバル学法石川相手に延長タイブレークの接戦。延長10回表に4点を勝ち越されて9-5の状況で10回裏の攻撃を迎えた。この回に一挙5点を挙げて大逆転サヨナラ勝ちで甲子園出場を決めた。客観的に見てかなり絶望的な状況であったが聖光学院の選手たちの目の色の良さが非常に印象的だった。後日の取材記事より、
難が有るから有難う。
難が無いから無難。
困難の時にこそありがとうと言えるように…
無難では大きな夢は掴めない。
という内容をミーティングしてきたそうだ。窮地を経験して有難うを重ねてきた聖光学院は簡単に敗れない。昨年のような快進撃を期待したい。
そして3塁ランナーコーチには昨年主将を務めた赤堀颯君の弟である赤堀聖(あきら)君。3塁ランナーコーチとして、副将として、盛り上げ役としてチームを裏で支えるキーマン。彼が腕を回し続ける限りはチームの火は消えない。
聖君は去年の颯君とは違い試合に出場している時間は少なくなる。それでもチームの攻撃時にグラウンドに立っている時間はお兄ちゃんより長いぞ。君の方がグラウンド上で得点に寄与する数は多い。君が迷えばチームが迷う!これまでやって来たことを信じて迷わずにひたすらに腕を回し続けろ!
『一瞬の苦しみから逃げたら一生の後悔』
この夏は苦しいシーンが何回もやってくるはず。後悔しないように逃げずに声を張り上げてくれ!
今年の聖光学院から目が離せない。8月6日大会初日の第2試合。聖光学院の生き様を見届けに行きます。
組み合わせを見ての展望
ベスト8予想(トーナメント表の左上から順に)
Aブロック
創成館
実力校の揃ったハイレベルなブロック。下馬評は沖縄尚学と星稜が高いはずだが敢えて創成館を指名。今年の長崎県勢は長崎日大、海星が春のセンバツにW出場しておりレベルが高い世代だった。5試合でわずか3失点のディフェンス力は魅力的。しかも倒してきた相手は長崎北、大崎、海星といった実力校たちで価値は高い。永本君と福盛君の2枚看板を中心に守りからリズムを作っていければ上位進出は夢じゃない。
沖縄尚学は沖縄大会で31イニング無失点エースの東恩納君が中心だが攻守にレベルが高い。
星稜はエースの武内君が石川大会では制球に苦しむ面が見えたがポテンシャルの高さは昨年の甲子園を見ると明らか。こちらも攻守にレベルが高い。
Bブロック
広陵
このブロックもかなりハイレベルなブロック。広陵、慶應については先に触れているので割愛。初戦で慶應と対戦する北陸は秋の神宮大会でベスト4に入った強豪。4番ピッチャーの友広君のケガがどこまで復調しているか。ディフェンス力が高く一発起こせる能力はある。攻守にポテンシャルの高い広陵がこの厳しいブロックを勝ち進むと見る。
Cブロック
八戸学院光星
比較的優しいブロックを引いてこれた印象。洗平君、岡本君の2年生サウスポーコンビは強烈。来年には全国屈指の投手層と言われている可能性もある。2人とも現時点で140キロ中盤の真っすぐを力強く投げ込む。野手は1番砂子田君、3番中澤君に迫力がある。
Dブロック
専大松戸
投手層の厚さが目立つ専大松戸がやや抜けていると見る。千葉大会の決勝で『あんなコントロールでは任せられない』と持丸監督に発破を掛けられた平野君がどこまで頑張れるか。強打の東海大甲府、九州国際も侮れない。土浦日大は藤本君、伊藤君といういいピッチャーがいるそう。上田西の横山君はプロ注目の大型ショート。阪神の高寺君といい上田西は良いショートを作ってくるなぁ。
Eブロック
仙台育英(心の本命は聖光学院)
聖光学院しか応援しませんが、客観的に見たときに強いのは仙台育英。理由はいまさら不要。
履正社は攻守にレベルが高いがチーム的にムラが大きい気がする。ハマった時の爆発力は凄まじいものがあるが淡白なのもまた事実。増田君、福田君が高いレベルでパフォーマンスを保てるのかがカギになる。
Fブロック
英明
ここも厳しいブロック。英明vs智辯学園は1回戦屈指の好カード。下村君、寿賀君がチームを引っ張る英明が今大会屈指の強打を誇る智辯学園相手にどう挑むか。智辯学園は例年と比べるとややディフェンス面に課題がある。強力打線の英明があっさり攻略というシーンがあっても驚けない。ホームラン数12本は凄いが狭いサトスタ、今回は相手に恵まれてきたというのも事実。愛工大名電vs徳島商業は好投手対決。花巻東は通算140HRの佐々木麟太郎君はもちろんの事、2年生右腕背番号17の小松君が抜群。これは来年プロです。クラーク国際は新岡君、麻原君のバッテリーが中心。麻原君は春に見たときの雰囲気が良かったのでここも注目。
Gブロック
日大三
日大系列校のどちらかがベスト8に進むと予想。日大山形vs日大三となれば10年前の再戦。その時は下馬評を覆して日大山形が勝利。庄司君いいピッチャーやったなぁ。二遊間は現阪神の中野拓夢と現ヤクルトの奥村展征がコンビを組んで強烈やった。今年は日大三の強打が勝ると見る。近江のショート横田君は4度目の甲子園。彼がチームをグイグイ引っ張っていけば楽しみが広がる。
Hブロック
北海
粒ぞろいなブロック。どの学校も勝ち上がってこれる力を持っている印象。市和歌山は前評判通りしっかりと甲子園にやってきた。東京学館新潟は初出場で勢いがある。立命館宇治は『響けユーフォニアム』のアニメや映画が公開される時に甲子園にやってくるというジンクスを継続。神村学園は背番号10のサウスポー黒木君が良いという噂。東海大熊本星翔は東海大相模から転校してこの夏から公式戦に登場の百崎君がチームを引っ張る。浜松開誠館は昨年まで中村紀洋がバッティングを指導。強打が持ち味。明豊vs北海は初戦屈指の好カード。お互いに攻守にレベルが高いが、岡田君、熊谷君と出力の高い投手を2枚揃える北海にやや分があると見る。7年前の準優勝時に負けない選手層があって今大会のダークホースに思える。暑さが一番の敵かも。
今大会の印
☆聖光学院
◎広陵
〇仙台育英
▲英明
△慶應義塾
✕八戸学院光星、北海
今年の夏は例年以上に暑いが高校球児の一球一打に酔いしれたいと思います。
盛り上がりが足りない時はみんなで今年のトレンド盛り上がりが足りない応援をしよう!
もっ!
もりっ!
もりあっ!
盛り上がりが足りない!
今年は49代表校中半分くらいがこの応援をやるはずです。その点にもご注目ください。
高校球児の皆様、今年も暑い熱いアツい夏をよろしくお願いします。
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