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地球の裏側で「リモートワイン」を造った話

おかげさまで、KAZU WINEのファースト・ヴィンテージとなるワインが、この5月にリリースされました!

Però 下北沢での業務用試飲会の様子

参考までに、オンラインで購入できるサイトをいくつかご紹介します。
よろしければ、ぜひお試しください。

このたびリリースされたワインは5種類ですが、前回の記事で取り上げたのは、そのうちの3種類でした。

今回は、残る2種類のワインについて綴っていきます。

これらのワインは、親友のアレックス・クレイグヘッドの協力なくしては、絶対に造ることができませんでした。
彼の話をすると、どうしても長くなってしまうのが、記事を分けた理由です。

衝撃のワインに心を撃ち抜かれ、弟子入り志願

アレックスは、現在42歳のワインメイカーです。
ニュージーランドの南島にあるネルソン空港から、車で40分ほど行ったところにアッパー・モウテレという地区があります。
彼はそこで「アレックス・クレイグヘッド・ワインズ」というワイナリーを運営し、全世界に向けて珠玉のナチュラルワインを輸出しています。

これまで「DON」「KINDELI」といったブランド名で、数多くのワインをリリースしてきました。
その大半は日本にも輸入され、ナチュラルワイン好きの方には広く知られた存在です。

彼は、高校卒業後にレストランで料理人として働きはじめました。
しかしそこでワインと出会ったことで、キャリアチェンジを図り、大学で地質学とワイン醸造学を修めます。
その後は、世界各地を転々としながら研鑽を重ね、ニュージーランドに帰国。
若干32歳の若さで、有名ワイナリーの醸造責任者に抜擢されました。

勤務のかたわら、彼は自園のオーガニックぶどうを使った自らのブランドを立ち上げ、リリースをはじめます。
その評判は海を越え、日本でもセンセーショナルとして迎えられました。

KINDELIのワイン「La Zorra Chardonnay 2014」を初めて飲んだわたしも、言葉にできないほどの衝撃を受けたひとりです。

どうすれば、こんな凄いワインが造れるようになるのか……。
当時のわたしは、レストランマネジャーからワインメイカーへの転身を表明したものの、ワインの造り方もろくに知らず、師匠となる存在もいませんでした。

「よっしゃ、この人にワインを教えてもらおう!」

すぐに彼のホームページにアクセスして、「当方、49歳の日本人。あなたのワインに感銘を受け、ぜひ研修したいと思っています。若くはないですが、体力には自信あり。ノンストップで働き続けます。6週間ほど滞在させてください」とメッセージを送りました。

すると「条件は?」と返事。
「ベッドとシャワーがあり、空港まで迎えにきてもらえれば」と答えると、「オーケー!じゃあ、指定した日に来てくれ」とのこと。

じつにあっけなく、世界への扉が開いてしまいました。

120トンのぶどうにまみれた、限界突破の肉体労働

2016年の3月、ニュージーランドに降り立ちました。
現地では収穫シーズンの真っ盛りで、この6週間は必死に働きました。

アレックスと彼の相棒のアリスタ・ガネール、ワイン醸造家を目指して海外で修業を積んでいた中野雄揮君、わたしの4人だけで、計120トンものぶどうを仕込んだのです。

最年長のわたしには、身体のふしぶしから悲鳴があがるほどきつい仕事でしたが、4人のチームワークとそこに生まれた友情、近辺でワイナリーを営む醸造家たちとの交流は、本当に刺激的な経験でした。

そして研修の最終日、アレックスに呼ばれました。
そこは、アルコール発酵を終えたタンクが並んでいるエリアでした。

「ここに、みんなで造ったワインがあるよね」
「うん」
「このうちの1,000リットル分を一緒にブレンドして、俺とのコラボレーションワインを造らないか。日本に輸出するからさ」
「え、マジで!そんなことしていいの?」
「WHY NOT?」

「WHY NOT?」は、アレックスの口癖です。
関西弁なら「なにがあかんねん?」的なニュアンスでしょうか。
また「とりあえずビール飲みに行こうか?」「WHY NOT?(もちろん)」というように、ノリノリで賛同するときにも使われます。

こうして、6週間の夢のような時間を過ごし、日本に帰国しました。

日本とニュージーランドを行き来する交友関係へ

研修を終え、今度はいよいよ、自分のワインを造る番です。
自前の設備がなかったため、宮城県にあるワイナリーを間借りして、委託醸造という形で行います。
肝心のぶどうも無事に調達でき、すべての準備は整いました。

しかしながら、いざ初めての醸造を前にして、不安を拭いきれませんでした。
ワインの造り方はひととおり教わったものの、ちゃんとできるのか……?

そんなとき、アレックスからメッセージが届きました。
「元気か?俺もそっちに手伝いに行くから」
「ええええ!なんで来てくれるの?旅費なんて払えないし」
「WHY NOT? カズだって、自費でニュージーランドまで来てくれただろ」
驚きの展開です。

8月下旬、収穫したぶどうを仕込みはじめたタイミングで、アレックスは本当に来日しました。
そして1ヶ月ほど滞在し、ほとんどの作業を一緒に手伝ってくれました。

「来年も、ニュージーランドで待ってるからな!」
そう言って、颯爽と帰っていきました。

それからというもの、お互いに毎年、日本とニュージーランドを行き来してワインを造るようになりました。
この間に、彼には家族ができ、パートナーと生まれたばかりの赤ちゃんを連れて来日したこともあります。

彼の存在がなければ、いまこうしてワインを造ることなど、不可能だったかもしれません。

前代未聞のワインメイキングが始動

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

前回の記事でご紹介した3種類のワインは、2022年のヴィンテージです。
ところが、今回取り上げる残りの2種類は、2021年に製造されました。

勘のいい方なら、疑問に思ったはずです。
2021年、世界ではロックダウンがたびたび実施されていました。
特にニュージーランドは、完全に鎖国状態の検疫体制が敷かれていました。

こんな状況下で、いったいわたしはどうやって、ニュージーランドでワインを造ったのでしょうか?

2021年当時、アレックスとZoomでこんなやり取りをしました。

「アレックス、今年こそニュージーランドに行けるかな。自分のブランドを立ち上げたいんだよね」
「カズ、今年のヴィンテージもあきらめるしかないよ。来年になれば、きっと一緒にやれるさ」
「そうか、厳しいな……」

渋い顔のわたしを前に、なぜかアレックスはニヤニヤ笑っています。

「実はアイデアがあるんだ。いまの世の中、どこもリモートワークだろ。だからカズのワインを、俺がリモートで造っちゃうのはどうだ?」
「おいおい、ムチャ言うな。そんなの、俺のワインとして出せるわけないじゃん」
「WHY NOT? カズが醸造プランをしっかり立てて、俺が指示通りに造れば、完成品はお前のワインだろ。ブランドが海外の工場に委託して、服を作ってもらうのと同じことだよ」

釈然としない部分がありましたが、提案を受け入れることにしました。

この数年間、酒を酌み交わしながらのバカ話ほど、恋しいものはありませんでした

無数の選択肢からなる、ワイン造りの奥深さ

実際のプロセスをお伝えする前に、ここでワイン醸造について簡単に説明します。

醸造作業は、ぶどうの収穫からスタートします。
集荷したぶどうの房から軸を取り除き(=除梗、じょこう)、実を軽く潰す(=破砕)と、アルコール発酵がはじまります。

このときに、発酵方法を選択するのですが、

  • ストレートプレス(収穫当日に実を絞る)

  • ワンナイトソーク(収穫から一晩置いて実を絞る)

  • ショートスキンコンタクト(収穫から2〜5日間ほど置いて実を絞る)

  • ロングスキンコンタクト(収穫から6日間〜2週間ほど置いて実を絞る)

  • スーパーロングスキンコンタクト(収穫から数週間〜数ヶ月間置いて実を絞る)

  • カーボニックマセレーション(実を破砕せず、発酵容器内に二酸化炭素を充満させて、1週間ほど置いてから実を絞る)

  • ホールバンチファーメテーション(除梗せず、ぶどうの房ごと破砕して、ロングスキンコンタクトを行う)

基本的な発酵方法だけでも、これだけの種類があります。

発酵作業を行う容器も、ポリエステル、カーボンファイバー、ステンレス、樽、アンフォラなどの材質から選択します。
また、その後のマロラクティック発酵という段階で、ぶどうの鋭い酸味を乳酸に変換して柔らかくしますが、それをどの容器で行うのか。
最後に、どれぐらいの熟成期間を経てから、瓶詰めして仕上げるのか。

頭の中にある最終的な仕上がりをイメージしつつ、これらの無数の選択肢から組み合わせを決めていきます。

最高峰のシャルドネ、ピノ・ノワールを召喚

今回のワインの造り方としては、以下の要望をアレックスに伝えました。

  • シャルドネ、ピノ・ノワールのそれぞれを単一品種で仕込み、異なる品種同士のブレンドは行わないこと

  • シャルドネは、ショートとロングの中間くらいのスキンコンタクトで発酵させること

  • ピノ・ノワールは、ホールバンチファーメンテーションで発酵させること

  • すべての発酵、熟成用の容器にはアンフォラを使用すること

  • 当然ながら、酸化防止剤の亜硫酸塩は不使用とすること

「わかったよ。その方法で仕込んでおくから、あとは任せてくれ」
アレックスから、そう返事がありました。

醸造プロセスが決定し、いよいよ実作業の開始です。
ここから先は、お互いの信頼関係で進めていくしかありません。

しかしながら、例年以上の豊作で、アレックスはてんてこ舞い。
送ったメッセージは、既読にもなりません。
作業が一段落したころに、ようやく話すことができました。

「おい、俺がオーダーしたワインはどうなってる?心配してたんだけど」
「ノープロブレム!シャルドネもピノ・ノワールも、トップの畑のぶどうで仕込んだよ」

その畑は、アレックスの自園で最も樹齢の高い木々からなる、とっておきの畑です。
彼はこの畑で造ったワインを、上級ラインの商品として位置づけてきました。

「えええええ!本当に!?」
「WHY NOT? 変なぶどうを使ったら、うっさいジジイに文句を言われるからな。しっかり熟成させておくんで、来年まで楽しみに待っててくれ」

ついに、2年がかりでワインが完成! そのお味は……

昨年の11月、ようやくニュージーランドを4年ぶりに訪れることができました。
アレックスの家族たちと再会を喜んだのも束の間、早速テイスティングです。

「おい…………。このワインで本当に合ってるか!?」
「そうだよ。カズの指示通りに造ったけど、文句あんのか?」
「文句なんてあるわけないよ。これは、最高のワインだよ!」

思わず、アレックスに抱きついてしまいました。

通常、このようなワインの造り方は絶対にしませんし、今後もないと願いたいです。
しかしながら、この不自由だった数年間もアレックスが寄り添ってくれたおかげで、自分にとって宝物のようなワインができ上がりました。

いまは、自信を持ってこう言えます。
「これは、俺のワインです!WHY NOT?」

① "WHY NOT?" CHARDONNAY 2021(ホワイ・ノット? シャルドネ)
アカシアはちみつの優しい香りに、ナトリウム系のミネラルの味わい。
エキス感が太く、ボリューム感の広がりと共に果実味が伸びゆく。
アフターノートの美しさも印象的。

② "WHY NOT?" PINOT NOIR 2021(ホワイ・ノット? ピノ・ノワール)
土やコケなどの、湿気を帯びた土壌の香り。
ナチュラルに仕上げたACブルゴーニュに親和性のある味わい。
テクスチャーに品位があり、全アイテムで最も高級感が感じられる。

「WHY NOT?」は少量生産のため、数量が限られております。
2年がかりで完成にこぎつけたリモートワインを、この機会にご体験ください!

《KAZU WINEの最新情報は、Instagramで随時お伝えしています!》


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