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消費税は「別の財源」ではありません。

消費税は高齢者や子供からも税を取り、所得税や法人税とは別の財源であって社会保障に役立つと思われています。

でも残念ながらそれは誤解です。消費税は法人税(そして事業所得税)と同じところから税を取っていて、財源として別ではありません。このノートではそれを説明します。

税ってどんなもの?

政府が税を取るのは、政府が何かを買うとか、それを給付された人が何か(医薬品とか)を買うのに使うためです。

いま仮に、老人には医療費が100%保険で給付されるとし、若者は100%自己負担だとします。ある老人が病気で薬が必要になり、その薬が1錠100円で、若者の誰かから100円を税として取ってこの老人に給付するとしましょう。このとき、

・若者は薬1錠が買えるだけのお金(100円)を納税によって手元から失う
・政府は薬1錠が買えるだけのお金(100円)を徴税によって手に入れる

ということが起きます。この100円を政府が老人に給付すると、薬1錠が買えるだけのお金をその老人が手に入れます。

このように税は、誰かが持っていた「何かを買う力」を政府に移転するものです。もっと詳しく言えば、「何かを市場における交換で手に入れる力」です。この力を「交換価値」と言います。この例の場合、お金100円には、薬1錠を市場で手に入れる交換価値がある、となります。持っているお金の交換価値を使うことが、ものを「買う」ことです。若者がお金100円を出して薬1錠を買うのは、100円というお金の交換価値を使うことです。

「価値を使う」というのがわかりにくいかも知れませんが、「買う力を使う」という意味です。ちなみに交換価値は「購買力」ともいいます。同じものです。

さて、上で見た納税の場合も、また今の「買う」場合も、若者がお金を手放すのは同じです。しかし納税の場合には、そのお金の価値を若者は使っていません。その価値を使えば何か(薬とか)が買えますが、使わずに政府(を通じて老人)にただ渡します。

私たちの経済は貨幣経済で、市場取引で交換されるものの一方はたいていお金ですが、交換という視点からはお金も商品も対等です。そのためこの例の場合、薬1錠には、お金100円を入手できる交換価値があることになります。持っているものの交換価値を使ってお金を手に入れることが、ものを「売る」ことです。

以上からわかるように、市場で取引(交換)が起きるときには、一方の交換価値は他方の量で表されます。薬の値段が100円のとき、お金100円の交換価値は薬にして1錠に相当し、逆に薬1錠の交換価値はお金にして100円に相当します。

GDP(国内総生産)は「一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額」と定義されます。この「付加価値」は交換価値のことです。交換価値といちいち書くのは面倒なので、これからは単に「価値」と書くことにします。生産活動は価値を創り出す活動で、創り出された価値をお金で表したのがGDPです。生産されたものがすべて買われると仮定すると、人々の所得の合計がGDPに等しくなり、その所得から政府が税を取ると、

GDP = 人々の所得 + 生産活動からの税収

という式が成り立ちます。これは、輸出入や、資産の経年劣化による価値の減少などを除外して単純化したGDPの性質です。

消費税は誰から取っている?

消費税が導入されて薬の値段が上がると、薬を買った消費者が値上がり分を税として払う、ということになっていますね。

先ほどの薬を製造する製薬会社が、薬を値上げするとしましょう。わかりやすく、消費税率を100%とします。100円だった薬を200円に値上げして消費者に売って、100円を消費税として納税すれば、この製薬会社は消費税を負担せず、消費者が負担するという理屈です。

こうして政府が手に入れた税が、老人の医療費にあてられたりします。例えばこのように……

・製薬会社が若者に薬2錠を400円で売る。
・製薬会社が200円を消費税として納税する。
・政府が老人に200円を給付する。

これで老人は薬を1錠買えます。

これを順を追って見てみましょう。最初に若者がお金を400円持っているとします。

製薬会社が薬を2錠製造します。話を簡単にするために、この会社は自社農園で収穫した薬草から社長ひとりが手作りで錠剤を作っているとします。この薬2錠の価値はお金で表すと400円です。なぜなら、薬の値段が200円なので、薬2錠にはお金400円を市場で入手できる力があるからです。製薬会社は他の誰から何を仕入れることもなく(この経済の中で見れば「無から」)この価値を創り出しました。この額は、薬を売ると、GDPに加算されます。

若者が持っているお金400円の価値は、薬で表すと2錠分です。若者が製薬会社に400円を渡し、薬2錠を手に入れます。お金の価値(薬2錠に相当)を使って薬2錠を手に入れたので、若者は薬2錠を「買った」だけですね。価値を使わずに製薬会社に渡した分はありません。

製薬会社は薬2錠を「売って」――つまり薬2錠の価値を使って――お金400円を手に入れ、そのうち200円を消費税として政府に渡します。手元に残るのは200円で、その価値は薬1錠分です。この会社は薬2錠という価値を無から創り出したのに、手元には1錠分の価値だけが残りました。

政府はお金200円を手に入れ、それを老人に給付します。このお金の価値は薬にして1錠分で、老人はそれを買うことができます。

さて、全体を見直してみましょう。最初に存在したのは、若者が持つお金400円だけで、その価値は薬2錠分です。次に製薬会社が薬2錠を製造します。その価値はお金にすると400円分です。若者が持つお金と合わせて、この経済には金額にして800円の価値が存在します。そして若者が持つお金と製薬会社が持つ薬が交換されます。製造によって増えた400円の価値がGDPに加算されました。製薬会社は、手に入れた400円のうち200円を消費税として政府に渡し、それが老人の手に渡ります。最終的にそれぞれの手元に残る価値をお金で表すと、

・若者 400円(薬2錠)
・製薬会社 200円(薬1錠相当)
・老人 200 円(薬1錠相当)

です。若者は最初に持っていたのと同じだけの価値を持っています。老人に渡ったのは、製薬会社が創り出した価値の一部です。ですから、価値の移転は製薬会社から老人に起きたのです。

GDPで見ると、製薬会社の生産によって400円の価値が創出され、そのうち200円が製薬会社の所得となり、200円が税収となっています。

GDP(400円) = 人々の所得(200円) + 税収(200円)

以上のことから、若者(消費者)は消費税をまったく支払っておらず、製薬会社(企業)がそのすべてを支払っていることがわかります。

気がついたかも知れませんが、この話は消費税によって値段がどう変わったか、すなわち「価格にどれだけ税額が上乗せされたか」に関係ありません。「消費税がないときの値段」は、誰が税を払っているかとは無関係なのです。お金にも薬にも今現在の価値というものがあり、その価値が誰から誰に移るかが問題なのであって、別のときにあった(かも知れない)値段が出てくる余地はありません。

「消費税がないときの値段」に惑わされると、消費者が消費税を払っているように見えてしまう、という話は別のノートに説明してありますので未見の方はどうぞ。→「間接税」は錯覚です。

ああ、ひとつだけ。値上がり前に若者は400円で薬4錠を買えたはずで、値上がり後には2錠しか買えないので、若者の手元からは薬2錠分の価値がなくなっています。それは確かに損です。でも老人に給付された価値は薬1錠分ですよね。若者が薬2錠分の価値を手元から失ったこと(値上がりによる)と、製薬会社から老人に薬1錠分の価値が移ったこと(徴税と給付による)は、別の事柄なのです。

だから消費税は「別の財源」ではない

税は政府が価値を民間の誰かから入手するための手段ですから、民間のどこかに税として取れる価値が存在する必要があります。その価値のありかを「税源」と呼びます。

これまで見たように、消費税は企業から政府に価値を移転する税です。消費者がものをどれだけ買おうと、消費税によって消費者から政府に価値が移ることはありません。消費税の税源は消費者が持っている価値ではなく、企業が持っている(創り出した)価値です。

企業に課される法人税も、企業が持っている価値から税を取ります。大雑把に言うと法人税は、企業の収益(売上など)から費用(仕入のための費用や人件費など)を差し引いた、いわゆる利益の額に対して、その何パーセントかを税として取ります。

例えばこれまで見てきた例で、消費税がなく、法人税率が50%で、薬の値段が200円だとすると、若者に薬を2錠売った製薬会社が納める法人税の額は

法人税額 = (売上400円 - 費用0円) × 50%
     = 利益400円 × 50%
     = 200円

となり、この200円が老人に給付されるなら、消費税の場合とまったく同じ結果、つまり製薬会社が創り出した400円の価値のうち200円が老人に移転して、若者は400円の価値を使って薬を買っただけ、になります。

このように、消費税と法人税はどちらも製薬会社のものになるはずだったお金(400円)の一部(200円)を政府に移転するので、どちらの税の税源も製薬会社の所得になっています。

消費税がこのような法人税と違う点は、法人税は基本的に企業が手にする利益の一部を税額とするのに対して、消費税は企業が創り出した価値に対して税額を決めることです。

この製薬会社が社員を雇っていて、薬1錠を製造して売って200円を得ると、150円を人件費として払わねばならないとしましょう。薬が2錠売れたなら、売上は400円、人件費は300円で、残る利益は100円です。税率50%の法人税の場合、税額は

法人税額 = (売上400円 - 人件費300円) × 50%
     = 利益100円 × 50%
     = 50円

となります。税率が100%未満であれば税額は必ず利益より小さくなり、税を利益から払えます。

消費税の場合、創り出した価値である400円に対して税額が決まり、税率が100%なら税額は200円です。この税額の計算は普通、消費者が消費税を払っているという誤った仮定で作られた複雑な式で説明されますが、もっと簡単に、企業が創出した付加価値額の50%として求まります。付加価値額を基準として税額が計算されるため、消費税はヨーロッパなどでは「付加価値税」(value-added tax)と呼ばれています。税率N%の消費税は、税率N/(100+N)%の付加価値税です。今の場合はN=100なので、税率50%の付加価値税になっています。

消費税額 = 付加価値400円 × 50%
     = 200円

このように消費税は利益でなく付加価値額に対して計算されます。企業は自分が創り出した付加価値の全額を手元に残すことは通常はできず、付加価値のうちの人件費(これが普通は一番大きい)や利子を払ったりした後の額を利益として残せるだけです。なので付加価値税としての税率が100%未満でも、税額が利益を超えることがあります。というか付加価値は創り出したけど人件費を払ったら赤字という場合でも消費税は発生します。「赤字課税」と言われている問題です。

先の例では、製薬会社は400円の売上を手にし、これが付加価値額です。そこから人件費を300円支出するので利益は100円、この利益から消費税を200円払うことは……できませんよね。すると、前から持っていた預金などから払うことになります。

ですから、法人税の税源が企業の利益であり、だから税源は企業の所得なのに対して、消費税の税源は

・企業が利益から払えるなら、企業の所得
・払えないなら、企業の資産も含む

となっています。ありていに言うと消費税は、所得よりも多く課税する(ことがある)所得税です。実際、消費税の滞納は他の税に比べて多く発生しています(国税庁のページ)。払えないものは払えないので仕方ありません。

現実には法人税と消費税の両方が企業に課されていて、企業はまず消費税を払い、その後に残った利益に法人税が課されます。企業が所得より多くは税を払えないとすれば(というか所得を超えて所得課税したら違憲だと私は思いますが)、消費税と法人税をどう組み合わせて徴税しようが、その上限は企業の所得です。それは法人税率を100%にすれば取れる額と同じです。

つまり法人企業について、消費税と法人税を合わせた税源は、法人税のみの税源と同じです。個人企業についても、消費税と事業所得税を合わせた税源は、事業所得税のみの税源と同じです。消費税は税源を増やしておらず、法人税と事業所得税を合わせたものと財源としては同じなのです。

それだけでなく、むしろ消費税という付加価値創出(=生産活動)への課税が引き起こす企業の節税行動――具体的には人件費の削減――が、賃金を低下させ、GDP成長を抑制し(これらは消費税を導入してから実際に起きていますよね?)、その結果として社会保障を逆に危うくしつつあるのではないかと私は考えています。

ありがとうございます。これからも役に立つノートを発信したいと思います。