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「間接税」は錯覚です。

「直接税(直税)、間接税(間税)という分類は、租税の分類の中で最も古く、財政学のいまだ存在しない時代に現れ、租税体系のいまだ構成されない時代にその起源を有し、その後も財政学において論争されてきた。しかし、従来の説明をもってしては、矛盾と不明確な点があるにもかかわらず、実際を支配し、慣用されている。」――― 高木勝一(編著)『租税論』、八千代出版(2011年)、10~11ページ

このノートでは、「間接税」というものは現実には存在せず、そう見えているだけのものだと説明します。そう伝えたい理由は、この30年日本で起きてきた賃金低下最大の原因として消費税を疑う必要がある、と言いたいからです。

賃金低下の直接的な原因として消費税が疑われることはほぼ皆無です。しかし消費税が直接税なら(というか、直接税だから)企業は人件費を削ることで節税できます。ならば消費税と賃金低下が無関係とは言えないでしょう。

そして消費税が直接税なら、その税の源は企業の所得なので、消費税は法人税(や所得税など)と同じ財源にすぎません。消費税を多く取れば、企業からそれだけ法人税などを取れなくなるのです。

値上がりによる資産や給料の目減り

消費税によって商品の価格が上がるのは、消費者なら誰でもイヤなものです。そのような値上がりでは一体、何が起きているのでしょうか。

それを考えるために、まずは税とは無関係な、単なる値上がりを考えてみましょう。

原油価格の値上がりによって、消費者が買うすべての商品の価格が10%上昇したとします。このとき消費者が持っている現金や預金は、実質的に10%目減りします。値上がり前よりも、買えるものが10%減る計算になります。またこのとき、給料が変わらなければ、実質所得も10%減ります。別の見方をすると、商品に対して、消費者が持っている、あるいは手に入れるお金の価値が10%下がったと言えます。

わかりやすいように、消費者が持つ現金と預金の総額が1100万円、年間の給料が110万円だとすると、値上がり後の実質的な価値は、現金・預金が1000万円、給料が100万円(これが実質所得)になります。

このとき、値上がり前の状態が実質的な価値の基準になっています。今の110万円は、値上がり前で言えば100万円だ、ということです。それによって、所得の実質的な価値が減っていることがわかります。

消費税による価値の目減り

さて、消費税について考えます。消費税がない状態から、10%の消費税が導入されて、消費者が買うすべての商品が10%値上がりするとします。(軽減税率などは考えず、一率に税率は10%とします)

原油値上げの場合と同様、このとき消費者の現金・預金や給料が10%目減りします。以前に100円だった商品を買うためには110円を払わなければなりません。なぜなら、お金の価値が10%下がったためです。

現金・預金や給料の目減りは、お金の価値が下がるために起きるもので、それが起きるのは値上がりの時点です。その時点で、消費者の手元にある現金と預金の合計1100万円は実質1000万円に目減りし、今後もらう110万円の給料は、実質100万円に目減りします。言い換えると、いま手元にある現金と預金1100万円(そしてもらう給料110万円)は、以前の状況において1000万円分(給料のほうは100万円分)しか買い物ができないお金であるということです。

これが大損であることは間違いありません。しかし消費者は税金を払ったのでしょうか? 消費者が何も買わなくても、値上がりの瞬間に損失が起きているのに?

消費者が手元の現金で何か商品を買うとしましょう。リンゴが消費税によって100円から110円に値上がりしました。消費税が導入されて価格が上がった瞬間に、消費者の手元にある名目1100万円の資産(わかりやすいように、すべて現金とします)は実質1000万円に目減りしました。額が大きくて面倒なので、1100円だった資産が1000円に目減りしたとしましょう。ここでリンゴを110円払って買います。消費者の現金資産は今や、名目で990円、実質で900円です(実質額は、名目額の990円に、お金の価値の低下率である100/110を掛けると求まります)。そして名目価格で110円、実質価格で100円のリンゴを1個持っています。現金とリンゴを合わせた総資産額は、名目で1100円、実質で1000円で、リンゴを買う直前と変わっていません。つまりリンゴを買うことで損をしていません

買ったリンゴを友達にでも売るとしましょう。友達は、この消費者から買ってもお店で買っても同じなので、市場価格である110円でリンゴを買うでしょう。消費者にはこのとき納税義務などはありませんから、手元には110円が残ります。これと以前から持っている現金990円を合わせて名目額が1100円、実質額は1000円です。リンゴを買う前の状態に戻りました。

もし消費者が消費税を払っているなら、商品を買ったときに資産が減るはずですが、いま見たように、消費者の資産の減少は値上がりの時点ですでに起きてしまっていて、商品を買ったり売ったりするときには資産額は変わりません

売り手の資産

売り手について考えます。リンゴを売る農家は、リンゴを110円で売ったら消費税を10円納めます。

消費税導入前にこの農家がリンゴ1個を持っていたとします。リンゴの価格は100円なので、この農家の資産額は100円です。そこで消費税が導入されます。リンゴの価格は名目で110円になりましたが、お金の価値が下がったので、実質価格は以前と変わらず100円です。このとき農家の資産額(つまりリンゴ1個)は名目で110円、実質で100円です。

農家が消費者にリンゴを売り、110円のお金を手に入れます。これは名目額です。実質額にすると100円です。そして政府に10円を納税します。納税後の資産は、名目で100円、実質で約91円です(100円×100/110)。農家の資産は次のように推移します。

消費税導入前:リンゴ1個(名目・実質とも100円)
消費税導入による値上げ後:リンゴ1個(名目110円、実質100円)
販売直後:名目110円、実質100円のお金
納税後:名目100円、実質約91円のお金

消費税の理屈に従えば、農家はリンゴを売るときに消費者から税額分を「預る」ことになっていますが、そのような資産の増加はありません。しかし農家は納税のときに資産を手元から失います。そのときに政府が手に入れるお金(名目10円、実質約9円)はちょうど農家が手元から失った資産の額です。いわゆる「価格への上乗せ」が完全に起きていて、「税負担が完全に転嫁」されているはずなのに、税として資産を手放しているのは農家であり、消費者は税としては資産を1円も手元から失ってはいません

「間接税」はない

以上から、売り手への課税によって価格が上がる場合に起きるのは、

値上がりの時点で、消費者の資産や給料の減少(目減り)
納税の時点で、売り手の資産の減少(政府に渡すことによる損失)

の2つです。商品を買ったときに消費者が「税として余分」に支払い、その額が税収になるという事実はありません。値上がりの時点で消費者が被る資産および給料の目減りの総額と、政府の税収の間に、まったく関係がないことからもこれはわかるでしょう。売り手が資産を渡してはじめて政府の税収が発生するのです。

100円だった商品が課税によって110円になり、買い手が支払った110円から売り手が10円を納税するとき、「買い手が多く支払い」「売り手に負担がない」ように見えるのは、お金の価値が不変だと無意識に仮定することによる錯覚です。これを貨幣錯覚といいます。商品の価値がそれぞれ不変だとして、もしもお金の価値が不変なら、以前の価格が100円だった商品に、いま100円でなく110円払うとき、「100円で買えるものに110円払った」と感じるので、10円が「余分な支払」だと錯覚してしまうのです。

しかし現実には、お金の価値は変わります。同じ額のお金で、買えるものが変わるのです。いま110円でその商品が買えるということは、(以前とか別の時はどうだか知らないけど)いまは110円払わないとその商品が買えないということで、いま払う110円の全額がその商品を手に入れるために必要な額であり、「余分に」など支払っていないのです。

消費税で使われる「本体価格」は、税がなかった場合の価格だとされているので、その額は税がなかった場合のお金の価値で測られています。もしもお金の価値が不変なら、その「本体価格」は以前と同じく現在の商品の価値も正しく表していることになるので、市場価格と「本体価格」の差額である「消費税分」は余分な支払と言えるでしょう。しかし、税がない場合と現在とでは、さまざまな商品の市場価格が変わっていて、同じ額のお金で買えるものは異なっている……つまりお金の価値が異なっています。だから現在のお金の価値において、商品価値が「本体価格」で表される保証はありません。というか、現在のお金の価値で商品価値を表したものが現在の市場価格に他ならないので、市場価格の100/110である「本体価格」が現在の商品価値を表すことは絶対にないのです。

「本体価格」はお金の価値が不変だと仮定して現在の商品価値を表そうとするものですから、それは消費者に「お金の価値は不変である」という誤認を――つまり貨幣錯覚を――起こさせるのに大きな役割を果たしていると思われます。

消費税は愚かな選択

消費税が「間接税」ではないことから、いくつかのことが自然にわかります。

消費税は、ヨーロッパなどでは付加価値税と呼ばれる税で、その課税対象となる金額は、企業が生産によって創り出す付加価値の額です。付加価値額は主に、人件費と企業自身の利益からなります。消費税が直接税なので、企業は利益を維持しつつ節税するために人件費を削り、それが賃金低下を引き起こします。この意味で消費税は、「人件費を出すことへの課税」と言ってよいでしょう。人をないがしろにする税だ、と言ってもいいと思います。消費税率を上げれば企業がブラック化するのは当然です。

消費税は生産活動に課されるため、消費税率が上がると、企業にとって、生産よりも株式投資などのほうが利益を得る手段として相対的に有利になります。得た利益を人件費に出すと課税されるので、内部留保して株式投資をしたほうが得になるのです。

以上のように、消費税が付加価値税であるため、企業は節税のために付加価値を圧縮しようとし、付加価値の合計額であるGDPが伸び悩むことになります。

消費税は企業に課される直接税なので、企業の所得から税を取っています(だから、働かない高齢者や子供などからは消費税を取っていません)。法人税と所得税(個人企業の場合)も企業の所得から取る税です。したがって消費税は、法人税や所得税と「別の財源」ではありません。企業と家計の所得を合わせたものがGDPで、所得税と法人税も、また消費税も、その中から税を取っています。

消費税は上に書いたように、企業に付加価値を圧縮させるので、税の源であるGDPを縮小するように働きます。社会保障や財政収支のために税収増を求めるなら、消費税はむしろ採ってはならない、状況を悪化させる税と言えるでしょう。自分で自分の首を絞めるようなもの、タコが自分の足を食べるようなものです。

その他、消費税が直接税であることによる、「輸出戻し税」の問題や、赤字課税をすることに違憲の疑いがある問題などもあります。「間接税」という根本に誤りがあれば、それに基礎を置く理屈のすべてが崩壊しても仕方ありません。

それはともかく、消費者にとっての消費税の影響は、税を負担することではなくて、

・価格上昇によって、資産と所得が目減りすること
・企業の節税行動による賃金低下

だと言えます。「政府に財産を取られる」という税負担はないんだけど、むしろそれ以上にこれら2つの面から大きなダメージがあるのです。

目下、日本の一番の問題は、家計の所得が増えないことだと私は考えています。そのためにも、誤った理論に基づいている消費税は撤廃を考えるべきと思います。

(2019-10-02 タイトル画像を差し替え、字句を少し修正)
(2019-10-09 脱字を補いました)


ありがとうございます。これからも役に立つノートを発信したいと思います。