『メディアを通じて考える現代アートと社会の関係性』/橋爪勇介(ウェブ版『美術手帖』編集長), レポート #Artist Cafe Fukuoka
Artist Cafe Fukuoka が主催するアーティストの実践的な学びの場となる『アーティストスタートアッププログラム』の第3回目に参加してきました。ゲストはウェブ版『美術手帖』編集長の橋爪勇介さん。
『美術手帖』と言えば、70年以上の歴史がある日本を代表する美術雑誌。多くの日本人アーティストにとって、この雑誌に個展情報や作品のレビューが載ることは大変名誉なことであり、憧れの存在でもあるはず。
今回、お話を聞いて印象に残った部分をご紹介します。「どうやったらメディアに個展情報を掲載してもらえるの?」「アーティストの広報活動ってどこまでやるべき?」というお悩みを抱えている作家の皆さんの参考になれば幸いです。
「美術手帖」雑誌とウェブ版の違い
「美術手帖」の雑誌とウェブは記事の内容や機能が棲み分けがされていました。雑誌とウェブではスタッフや編集会議も違うとのこと。雑誌の機能はパッケージや特集で季刊発行。ウェブ版はニュース、レポートを中心にポータルサイトとの役割を担っているとのことでした。
アーカイブ性について
ウェブ記事はプラットフォームの都合によって消失してしまうことがあるため、物質として残る紙(雑誌)の方がウェブに比べてアーカイブ性が強いとのこと。ペーパーレス化が進み、デジタルに慣れ親しんでいる現代の私たちにとって、この現場の声は意外と盲点だった人も多いのではないでしょうか?現代の作家にとってウェブサイトは必須だけど、紙媒体のポートフォリオや雑誌・新聞の切り抜きなど大事にする必要があると再認識しました。
メディアの情報ソースの取り扱い方
美術手帖をはじめ、メディアが受け取る展覧会の情報提供源としてはプレスリリース、SNS、問い合わせフォームがあります。ウェブ版美術手帖にも毎日数十件の情報提供があるそうです。
メディアは情報提供をどのように取捨選択するか
展覧会主催者やアーティストが一番気になるところ。どうやったら展覧会情報を掲載してもらえるのか。その一番のキモは「そのアクションの主体は誰か?」ということでした。
例えば、あるアーティストの個展情報のプレスリリースを作家本人から受け取るのと、主催ギャラリーから受け取るのとではその信頼性が異なってくるそうです。情報の取捨選択において、展覧会の内容を保証する情報源が誰であるのかが重要とのことでした。
つまり、この業界は「あの人が言っているから間違いない」という信頼関係で成り立っているということ。別段この構造は美術業界に限らず、我々多くの一般人にとっても当てはまりますよね。しかし、いくら信頼関係のある人からの情報提供であっても毎回鵜呑みに掲載するということではないそうです。重要なのは情報の内容や先進性、意義、プレスリリースの構成など。それらを総合的に鑑みて掲載判断しているので、明確なルールはないとのことでした。
プレスリリースの書き方には注意が必要です。瞬時にその内容が分からないといけません。展覧会タイトルと会期、作家の略歴、展覧会の見どころ、作品点数、そういった基本的な情報がシンプルにまとめられていること。フォントの大きさや余白の取り方、写真のセレクトなどビジュアルまでこだわるとより親切で好印象かもしれません。
また、SNSも重要な情報源の一つであるとのことでした。美術界のインフルエンサーが話題にしていたり、リポストの数やコメントを読んだりして取材に行ったりもするそうです。
アーティストはメディアとどう関わるべきか
先ほど「情報提供のアクションの主体は誰か?」が重要であると述べました。ということは、アーティストがメディアとの関わりにおいて意識すべきことは「誰を通して情報提供するのが効果的かを考える」ということではないでしょうか?
というのも、僕は先月の個展情報をウェブ版美術手帖に掲載していただいたのですが、それが出来たのは信頼ある主催ギャラリーを通してメディアに情報提供があったからに他ならないと思うからです。もちろん、最終的に内容を見て掲載判断いただいたと思うのですが、その第一関門を突破したのはギャラリーとメディアの信頼関係のお陰であったことは想像に難くありません。
現代はSNSの台頭でアーティストも個人で情報を発信できる時代ですが、重要なのは誰と仕事をするかということはいつの時代も変わりそうにありません。一億総発信時代だからこそ、信頼ある情報発信源が価値を持つのだと思いました。
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