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根っ子の力

緑豊かな枝葉が、地中に広がる根本に支えられているように、あらゆる表相は、根元によって成り立っている。

根が強い樹木は、嵐や大雪を耐え抜き、揺らぐことがない。
根が強い人は、毀誉褒貶に惑わされず、本質を見失うことはない。

爛漫と咲く桜花の下に人々は集い、歌い踊り、風雅を語るけれど、いのちの源は大地の下に隠れている。

君よ、根っこに気づけ。

重は軽の根たり、静は躁の君たり。是を以て聖人は、終日行けども、輜重(しちょう)を離れず。栄観有りと雖も、燕處(えんしょ)超然たり。奈何ぞ萬乗(ばんじょう)の主にして、身を以て天下より軽しとするや。軽ければ則ち臣を失ひ、躁(さわが)しければ則ち君たるを失ふ。
『老子』(重徳第二十六)

輜重(しちょう):食料や器材などの物資を運ぶ車
栄観(えいかん):にぎやか、華やかなもの
燕處(えんしょ):くつろいで安らかにしている状態
萬乗(ばんじょう)の主:戦車一万両を保有するような大国の君主の意

重いものは軽いものの根本であり、静かなものは躁がしいものの君主となる。「道」を手本として生きる人は、戦争行軍の際には、食糧や武器・装備を運んでいる輸送部隊を大切にする。見栄や外聞、見てくれなどを真っ先に考えることはない。華やかな宴席などは一夜の夢幻(ゆめまぼろし)のようなものだとして超然としているものだ。
大国の君主でありながら、どうして世の中より我が身を軽く扱えようか。軽はずみな行動をすればその身を失い、みだりに行動すれば君主の位を失ってしまう。
『老子』蜂屋邦夫訳注 岩波文庫

「重と軽」、「静と躁」など、相反するものが実は関連していることを説くのは、老子が得意とするところである。

ここでは、重なるものは軽なるものの根っこで、見えないところでつながっている、と言っている。

言うまでもなく、あらゆる表相は根本によって支えられているのである。

「お前の根っこはなんだ」という問いかけを、事あるごとに部下に投げかける尊敬すべき知人がいる。

いざという時に頼りになるのは、根っこの深さと強さだということをよく知っている人だと思う。
彼のことを思い浮かべながら書いた詩である。

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