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超マシン誕生

書評のようなものではありますが、実は初めてこの本を読んだときの思い出です。もしかしたら版元では絶版かもしれませんが、アマゾンでは入手できそうです。今更感もあるかもしれませんが、スタートアップが注目されつつある今こそ、読んでみるのも悪くないと思います。

原著は1981年出版で82年にピュリッツァー賞をとった作品です。日本では82年に和訳が出ていてたのですが、新訳が2010年に出ていたようなので、読み直してみました(新訳は、日本語がより日本語らしくなったおかげで、逆にニュアンスが違うかもという部分も散見されます)。

内容はデータゼネラルというDEC互換機メーカーが新製品であるミニコンを開発する話で、いかに小さな会社が生き残っていけるかがテーマにはなっています。技術的な話がそれなりに出てきますが、それはあくまでデザートで、メインディッシュは開発者たちの人間模様です。まだパソコンが登場する前のシリコンバレー黎明期で、いわゆる「ベンチャー企業」のハシリの物語です。今でこそ、それなりに聞くような話ですが、猛烈に働くけど自由気まま、登場人物はいずれも個性の強い人ばかり、若者たちはPCオタクあるあるで、遊んでいるのか働いているのか区別がつかない始末です。

このあたりは今流行りのスタートアップでも見られる光景で、組織の作り方やゴールの設定、資金調達などは時代に合わせて進化していったものの、働き方に関しては進歩が見られないというよりも、こういうやり方でしか新しいものに挑戦するのは難しいのかな。とも思うわけです。

それはもう「現場に居た?」私には共感できることばかりで、模写される風景に引かれていくのですが、最初に読んだときに興味を持ったのは、偉い人の仕事で、どうやってエンジニアがキャリアパスを歩んでいけるのか、また、どうやって現場を離れていくのか、実はあんまり現場にこだわりの無い私はちょっと冷めた上から目線で読んではいました。

「だけど、大学生なんて弱いからね。女や酒に溺れるやつもいれば、プログラミングに溺れるやつもいるさ」(新訳は以前の訳と日本語が異なり微妙にニュアンスが違うかも)

5章 深夜のプログラマー より

この章にある会話は、どれもこれも、当時の私にはグサグサ刺さるものばかりでした。ちょうど受験の時期で、世間ではちょうど8ビットから16ビットへの移行期にあたり、そろそろ相棒のアップルも拡張の限度を迎え、もう実際にプログラムもゲームもあまりすることもなかったのですが(ちょうどその間に情報処理技術者試験を受けて第1種をとったような気もする)。

パソコンを始めた頃の良い先輩の助言で「パソコン少年にならないように」というのは響いていて、中学生の頃から大学の情報処理の教科書で勉強して、コンパイラ理論とかアルゴリズムやらを一生懸命覚えていたのですが、それ故に大学で情報の勉強することに魅力を覚えず、結局、まったく別の分野を選んだのですが、にもかかわらず卒論はブンブン大型機を振り回す内容になった覚えもあります(他学科履修で情報科の単位を取りまくり成績をあげるのには役に立ちました)。

ひとつの製品が企画され開発され、商品として出荷されるまでには多くのお金が動き、たくさんの人間模様が描かれます。そして新しいモノを世の中に送り出すことが、どんなに素敵で楽しいか、また、そのために全力を出し切る人たちの素晴らさが凝縮されていると思います。最後に私の好きな登場人物のある言葉で終えたいと思います。

「良し。そこまでだ。出荷しろ」

6章 背面飛行 より


参考

この本はwikipediaの項目になっているんですね。

今はデルの関連会社らしい。

マイコンがチップの単位でコンピュータを実装しているのに対して、ミニコンは基板の単位でコンピュータを実装しているというのがおよその説明。基板にはいくつかの集積回路が組み合わせてある。


超マシン誕生
レイシー・ギター 著
糸山洋 訳
日経BP社 2010年出版 ISBN978-4-8222-8432-9

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