オバァとブリトーとシャンパンタワー

俺は施設長として威厳を持って検食をする。

食事に不備があってはいけないので利用者の食事の30分前に必ずする。決して、お腹が空いて我慢できないわけでわ、ない。

毎日、時間的に地獄のような忙しさ(利用者の食事の盛り付けの真っ最中だからね)の厨房に「検食くださ〜い♡」とKY丸だしで、いつも「なんでこの時間に来んねん!」みたいな態度であしらわれるんだけど、今日はなんか違った。

今年から働き始めたUさん(5?歳)は元ホテルのシェフで、そんな人がなんでこんなところにいるのかわからんけど(笑)、イベント毎に出来立てのガトーショコラや、オバァ仕様のふっくらサーターアンダギーを作ったり、果物で花やメッセージを形成するカービングなんかを披露してくれる、施設長としてはかなり有難い存在。

そんな彼が「施設長!これも!」と検食のトレーに小鉢をポン。

「25日のクリスマス会のために昨日家で試食を焼いたんですけど。ブリトーです。トマトソースの赤と、バジルの緑。クリスマスっぽいじゃないですか!味が美味しいのは間違い無いんですが(ニヤリ)、オジィオバァの口に合うかがちょっとわかんないところでして・・・・。味見お願いします」

もうね。
なんかね。
うぇ〜ん。・゚・(ノД`)・゚・。

ありがたいよ。本当に。

もう一人の厨房さんが「今年はシャンパンタワーもしますよ♡ 百均のプラのシャンパングラス使って」

シャンパンタワー?できんの?そんなこと。グラスが相当必要じゃない?

「4段で30個」

黙々とキャベツを切っていた主任がまな板から目を離さずに言う。

「5段でも55個。百均で余裕です」

なんで、なんでお前はそんなこと即答できるんや? ・・・あ、そうか!君は昔、新宿でホストやっていたな(マジ)!あは(笑)本職じゃねーか!・・・しかしそう簡単にできる?崩れたりしない?シャンパンタワー。しんぱ〜い。

「あんなもん、崩れてなんぼですよ(笑)わー危ないーあー崩れたー!が楽しいんですよ・・・。」

か〜〜!餅は餅屋。ブリトーは元ホテルシェフ。シャンパンタワーは元ホストってか!

気がつきゃホールはクリスマス一色でキラキラしているし。

よし!こーなったら、俺もやるぜ。

先日、ありがたく完璧に調律されたピアノを寄贈されたので、これを使って!

ふふふ、俺が弾くのではないよ、間違っても。

県内トップクラスのジャズ・ピアニスト、T嬢を招聘しました〜!やったぜ!
ピアニスト稼業が一番忙しいこの時期に、なぜ俺の急な思いつきでゲスト招聘が可能なのか?

それは、彼女が俺の義妹だからなんですね〜!お義兄さんの頼みを聞いてちょ♡で1発OKでした。可愛いやつ。

「カズローさん、普通にクリスマススタンダードでいいの?それとも昔の唱歌とかがいい?」って聞くから、いや、Moaninとかチュニジアの夜とかにしてください〜ってオファーしときました。ハードバップジャズでやってもらいます。うひひ。




俺さぁ、常々思っているんだけど「施設」って介護や医療の専門性ばかりにスポットが当たるけどさ、基本的に「生活の場所」なんだよね。オジィオバァの生活の。

それぞれの人生に物語があって、喜びや笑いがあって(もちろん悲しみもだけどさ)、その続きとして今があるわけで、施設に入っているからといって「つまらない生活」をして欲しくくない。「楽しい日々」を過ごしてほしい。介護や医療はそのためにあって、いわば生活の1部であっても、それが「楽しい日々」を侵食してはいけないって思うんだ。

でも、実際は「健康管理」や「介護予防」さらには「団体生活」の中ではどうしても出て来るの、どうにもならないことが。どうしてもオジィオバァに我慢をお願いすることもある。

だからこそさ。

だからこそ、1年に数回は馬鹿騒ぎして楽しみたいんだ。オジィオバァの生活に彩りを届けたいんだよ。施設にいることを忘れる、ってことじゃなく逆に施設にいるからこそ、こんなにも楽しいんだって。

ながい人先生を必死で切りゆけてきた大先輩たちなんだ。
いいサービスとか処遇とか言う言葉じゃ物足りん、最高に楽しい「エンタテイメント」を届けたいんだよ、俺。

最後に。

厨房の一人が何気なしに「でもシャンパングラスって細くて、もてないオジィオバァもいますよね・・・」と呟く。

その時の厨房主任の答え。

「うん、持てない人はいつものコップでいいよ。あそこにある、キラキラ光ったシャンパンタワーと同じものを飲んでいるって思ってくれたら、それだけで楽しいからよ」

完璧。

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