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医療現場で乱用される向精神薬 ②

 1980年代にはベンゾジアゼピン系向精神薬が、欧米で大きな社会問題になったと書きましたが、 1990年代にはそれに代わって、新たに開発された抗うつ薬が大きな問題を引き起こす事になります。日本でも欧米に遅れて、2000年前後から抗うつ薬・抗精神病薬の売上が急増して行きます。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬が、私達にも馴染みの有るどちらかと言えば安全性の高い薬剤と見られるのに対し、抗うつ薬・抗精神病薬などの精神病薬は、毒性も強く極めて深刻な副作用を引き起こす危険な薬剤です。医療現場でのこうした危険性の高い精神病薬の乱用が、自殺や凶悪犯罪など深刻な問題を引き起こしているのです。

 向精神薬の多剤併用(大量)処方

 精神科医療における向精神薬の乱用には、日本独特の問題点も存在しています。それは多剤併用(大量)処方と言われるものです。WHO(世界保健機関)や英米の診療ガイドラインでは単剤療法が推奨されているにも拘わらず、日本では同様の薬効を持つ薬を何種類も同時に投与するという、薬理学的な危険性を全く無視した投薬がまかり通っているのです。多剤併用処方が、如何に危険極まりない投薬法であるかは、向精神薬のメカニズムを考えると明らかになります。

 私達の脳は大脳で数百億個、小脳で 1 千億個、脳全体では千数百億個もの神経細胞から構成されています。そ して、この神経細胞が互いに電気信号をやり取りする事で脳は機能している訳です。神経細胞は軸索と呼ばれる細長い神経線維を伸ばし、相手の神経細胞の樹状突起に結合して信号を伝達しています。その接合部位がシナプスですが、信号の送り手と受け手の間にはシナプス間隙と呼ばれる 5 万分の 1mm 程度の隙間があり、電気信号はこの間隙を飛び越えて直接伝達する事が出来ません。そのため、軸索を伝わって来た電気信号がシナプスに到達すると、そこからシナプス間隙に向かって神経伝達物質が分泌され、それが相手の神経細胞の細胞膜にある受容体に結合する事で、新たに電気信号が発生し情報が伝達される仕組みになっているのです。この神経伝達物質には、グルタミン酸・アセチルコリン・ノルアドレナリン・ドーパミンなど、現在までに 100 種類以上も知られています。向精神薬とは、この神経伝達物質の働きを変化させる事を狙った薬剤なのです。

 これは、うつ病・統合失調症などの精神疾患の原因が、神経伝達物質の機能亢進または低下に有ると考えるモノアミン仮説を根拠にしています。 例えば、うつ病はノルアドレナリン・セロトニン・ドーパミンの機能低下。双極性障害では躁病相でドーパミンの機能亢進が、うつ病相では逆にドーパミン機能の低下。 統合失調症ではドーパミンの機能が亢進していると考えるのです。 そして向精神薬は、その種類に応じて作用する神経伝達物質を異にしています。 例えば、う つ病で使われる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitors)やセロトニン・ノ ルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:serotonin noradrenalin reuptake inhibitors)は、シナプス間隙のセロトニンやノルアドレナリンの濃度を上昇させます。統合失調症治療薬の抗精神病薬(メジャー・トランキライザー、神経遮断薬) は、ドーパミン受容体遮断薬でドーパミンの機能を抑える働きをします。 ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、抑制系の神経伝達物質である γ-アミノ酪酸(GABA)の作用を強める事で、鎮静・催眠・抗不安・陶酔・抗けいれん・筋弛緩 などの作用をします。ただ近年は、不安障害にセロトニンが関与しているとして、抗うつ薬の SSRI が処方される事も多くなってきています。この SSRI が「再取り込み阻害薬」と呼ばれるのは、シナプス間隙に放出された神経伝達物質が再び神経細胞に取り込まれて再利用されるのを阻害する事で、シナプス間隙内の神経伝達物質の濃度を高めてその機能強化を狙うものだからです。

 多剤併用処方で深刻な問題となっているのが、精神科での抗精神病薬の安易な処方です。弟の場合も、主治医は 4種類もの抗精神病薬(内3種類は劇薬)を処方していました。これらは全て、神経伝達物質のドーパミンの機能抑えるという同じ働きをするドーパミン受容体遮断薬です。つまり、主治医は典型的な多剤併用処方をしていた訳です。ところが、このような抗精神病薬の多剤併用処方は極めて危険で、必要以上にドーパミンの働きを遮断してしまう恐れが高いのです。PET(陽電子放射断層撮影)を使った研究によると、抗精神病薬によるドーパミン D2 受容体遮断作用が 65%以上で抗精神病作用が現れ、72%以上で高プロラクチン血症や錐体外路症状といった副作用が出現するとされています。したがって、副作用を起こさずに「抗精神病作用を示す至適用量は、ドーパミン D2 遮断が 65~72%の範囲」(『抗精神病薬の身体副作用がわかる』長嶺敬彦著)という事になります。しかし、抗精神病薬の多剤併用処方ではドーパミンを 80%以上遮断して強い副作用が出たり、精神面にも深刻な影響を与える可能性が高いのです。さらに抗精神病薬の多剤併用処方は、不整脈による突然死の危険性を高める事も知られています。

 実は、こうした危険極まりない抗精神病薬の多剤処方は日本独特のものだと言います。佐藤光展記者は、次のように書いています。

「国際的には単剤使用が原則とされ、 欧米や中国・台湾などのアジア各国の単剤化率は 70~90%前後で推移してきた。ところが日本では、科学的根拠がないにも拘わらず、複数の薬を組み合わせて使う精神科医が一流職人の様に評価された。教授たちの自慢のオリジナルブレンドは学生に受け継がれ、出身大学ごとに配合が違う斑模様の多剤大量投薬が横行した」(『精神医療ダ ークサイド』佐藤光展著)

 そして、2009 年の読売新聞のアンケート調査では、日本の入院患者の単剤化率は平均で 44%、病院では 30%台が最も多かったとされます。 読売新聞がこの結果を、「病院の実力、精神科」と題して病院名と単剤化率を一覧表にして公開したところ大きな反響を呼び、単剤化率が 83%と高かった病院では、記事の掲載月の新規患者数が前年同月比 25%も急増したと言います。それだけ、抗精神病薬の過剰な多剤併用処方をしている病院が多いという事でしょう。

精神科の安易な診断と多剤大量投薬

  実は、日本での「統合失調症治療は、海外に比べて抗精神病薬の処方量が桁違いに多い」と言います。これも多剤併用処方が原因の一つです。もう一つ深刻な問題は、統合失調症の安易な診断が急増しているのです。 統合失調症は、以前は「精神分裂病」と恐ろしそうな病名で呼ばれていましたが、2002 年に「統合失調症」という当たり障りのない不明瞭な名称に変わってから、安直に診断される事が多くなって行ったのです。実は、統合失調症やうつ病などの精神疾患の診断には、他科の診療では当たり前の血液検査や CT などの科学的な検査が一切無く、単に精神科医の主観、あるいは思い付きによって行われているのが実情なのです。40 年以上も精神科治療に携わってきた笠陽一郎医師によると、「本物の統合失調症は、あまりお目にかかることが出来ないと言っていいほど珍しい病気」(『精神医療につながれる子どもたち』嶋田和子著)と言います。しかし、現在では統合失調症の発病率は全人口の 1%にものぼり、 決して珍しい病気では無いとされているのです。

  統合失調症は幻覚や妄想が特徴的な症状ですが、ほとんどの精神科医は幻聴が有ると言うだけで統合失調症と診断しています。「最近の精神科、心療内科関連の荒廃は、国際分類やアメリカ式分類が導入され、かつ精神分裂病の病名変更により、混乱の極みに達している。・・・・・幻聴といえば統合失調症。自閉といえば統合失調症。暴れただけでも統合失調症となる」(『精神科セカンドオピニオン』笠陽一郎編著)と言うのが実情なのです。その結果、発育途上の子供たちにまで統合失調症の診断が安易に下され、劇薬である抗精神病薬の多剤大量投薬が行われ、何の罪もない多くの子供たちが廃人同様にされ、あるいは生命の危険にまで晒されているのです。精神科病院で、向精神薬の副作用の治療に取り組んでいる長嶺敬彦医師は、現状を次の様に述べています。

「残念ながら一部の病院では、患者さんの訴えに耳を傾ける代わりに抗精神病薬を投与しておしまい、と聞きます。これは、患者さんの訴え(感情)を抗精神病薬で消そうとする行為です 。あるいは患者さんが少し粗暴になっただけで、抗精神病薬の注射をしてしまう病院もあると聞きます。抗精神病薬による”化学的拘束”だと言わざるを得ません。こういった事に抗精神病薬を使っていった結果、薬はどんどん多剤併用となり、パーキンソン症状や二次性(薬剤性)の陰性症状で苦しんでいる患者さんがいます。これも精神科医療の悲しい現状です」 (『抗精神病薬の身体副作用がわかる』長嶺敬彦著)

 こうした実態と、抗精神病薬がいかに精神を狂わせ人格を破壊する恐ろしい薬剤であるか、『精神医療につながれる子どもたち』の中で紹介されている例を見てみましょう。小学 4 年生だった 12 歳の少女は、不登校気味で幻聴も有るらしいという事で学校から精神科を紹介され、そこで統合失調症と診断されます。そして 1 年近く入院する事になるのですが、その間に薬がどんどん増やされて、ついには抗精神病薬 6 種類、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬が 5 種類、抗パーキンソン薬が 1 種類など、1 日に合計 50 錠もの薬を投与されたと言います。以前には「暴力」など無かった少女が、向精神薬を飲む様になってから「 物を投げる、壊す、人を蹴る等の暴力行為が出て」きます。病院側は「暴言を吐いた」「ペットボトルを投げつけた」と言ってはその都度薬を増やして行き、ついには 1日 50 錠の処方にまでなったと言うのです。

 抗精神病薬の量が適正かどうかの目安として、CP 換算値(クロルプロマジン換算値:抗精神病薬の効果をクロルプロマジンの用量に換算した概算値) が使われています。一般に、CP 換算値 1000mg 以上は大量投与とされ「イラつきなどの精神症状や、筋肉の緊張、震えなどの身体症状が出やすく突然死」の危険性が高まるとされますが、この 12 歳の少女には 3232mg もの抗精神病薬が投与されていたのです。セカンドオピニオンで相談を受けた笠陽一郎医師は「これは、ほぼ間違いなく医療犯罪ですよ」 と述べています。実は、 日本ではこうした抗精神病薬の大量投与は決して珍しくはなく、読売新聞の佐藤光展記者が 2009 年に行なった調査によると、1 日 1000mg 以上投与の入院患者のいる病院は約 83%(112 病院)、2000mg 以上で約 52%(70 病院)、さらに、精神科の入院患者全体の平均投与量が 1000mg を超える病院も 13 施設あり、最も投薬量の多い患者は6000mg だったと言うのです。日本では、このように杜撰で常軌を逸した精神科医療が平然と行われているのです。

 また別の例では、17 歳の少年が「うつっぽい」という理由で精神科病院にかかり、病名を告げられないまま、抗精神病薬 3 種類、ベンゾジアゼピン系精神安定剤・睡眠導入剤 2 種類を処方されました。そして、1 ヶ月が経つ頃から少年に様々な異常行動が出てきます。「暴言を吐く」「夜中に大きな音でキーボードを弾き、ラジオも大音量」で鳴らす、
「眠れない、死にたいと口にする」「部屋を徹底的に掃除する。せめて最後くらいは綺麗にしておかないと」などと話す、「ベッドの柵に頭を思い切りぶつける」「ベッドの柵にベルトをかけ、首を吊ろうとする」などの奇行が続いたと言います。そして、状況はさらに悪化して「体がだるくて学校に居ることが出来なくなる」「カッターで手首を切り」 ついには母親に暴力を振るうまでになります。そして精神科受診から 1 年が経過した頃、母親を殴り始めた少年は馬乗りになって首を絞め、身の危険を感じた母親は警察を呼ぶのですが、その時駆けつけた警察官が少年に親見に話しかけて諭し、少年も落ち着きを取り戻します。その後、少年本人が「もう明日から薬は飲まない。病院へも行かない」 と宣言して、きっぱりと向精神薬を止めてしまいます。ところが「薬をやめてからは一度も異常行動は起きていない」 と言うのです。 つまり「病気は、薬を止めたらピタリと治ってしまった」訳です。 母親は、その当時の状況を次のように語っています。

「本当に地獄のような毎日でした。私の育て方が悪かったのかと悩んだりもしました。先生はあまり強い薬を使いたくないけどと言いながら、結局どんどん強い薬、たくさんの薬を使う様になっていって、私は何かおかしい、何かおかしいと。でも目の前の出来事に振り回されるだけで、薬の事などしっかり調べる事も出来ませんでした」 (『精神医療につながれる子どもたち』より)

 またある時、少年が「頭が痛い、調子が悪い」と訴えると、 主治医は「そうだろうなあ、 入院中、薬をいっぱい盛ったから」 と答えたと言います。まったく呆れて物も言えませんが、これが日本の精神科医療のレベルなのです。「毒を盛ってやった」と言わんばかりの言い草ですが、実際この主治医は 17 歳の少年に劇薬の抗精神病薬を 3 種類も投与
していた訳で、むしろこれが正直な思いだったのでしょう。普段から、患者や家族を見下している為に、思わず本音が出てしまった訳です。こうした、社会的責任感や他人への思いやりの欠如した無能なサイコパスの人格異常者によって、少年少女に対する劇薬の抗精神病薬の多剤大量処方が行われ、患者・家族に地獄の苦しみを与えているのです。

精神科医のデタラメな処方

 実は、日本の精神科ではデタラメな処方がまかり通っています。 産業医・精神科顧問医として複数の企業の社員のメンタルヘルスを担当し、他の医師の書いた処方箋・診断書を多く見てきた斉尾武郎医師は、精神科でのデタラメな処方ぶりを次の様に嘆いています。少し長くなりますが、現場の医師の感想を実感して頂く為に以下に引用します。

内科にも外科にもありえない、「おかしな薬の処方」が精神科には多すぎるのです。
・・・・・立場上、他の医師が書いた処方箋、 診断書を目にする機会が非常に多くあります。・・・・それらを見るにつけ、「なぜ、ここでこの薬を・・・・?」「これで果たしてうつ病が治せるのかな」と疑問に思うことが多々あるのです。疑問どころか「こんな処方ではかえって悪くなるのではないか・・・・」と呆れ返るようなデタラメな処方がどれだけ有るか分かりません。
私のところに診察で回ってくる社員さんの 8、9割は、薬物療法の基本から逸脱した不適切な処方が行われていると言って過言ではありません。 ・・・・・
うつ病の患者さんに似たような薬理作用を持つ薬が複数、重複して大量に処方され、その結果、副作用でより病状が重くなっていたり、体調が悪くなっていたりするのは日常的に見ます。また、複数の薬がチョロチョロと効きもしない用量で処方されていたり、薬理作用が相反する複数の薬が出されていたりという、誠に奇妙な処方もよく目にします。
また診断自体が間違っているケースも往々にしてあります。精神科の診断は、誤差範囲が大きいのですが、それでも、さすがに「これはひどい」と思うものが少なくありません。例えば 、単に幻聴があるだけで思考の混乱もないのに統合失調症と診断されるというケース。これは後に実は、解離性障害(昔の言葉で言えば、ヒステリー)や、重度のうつ病だと判明しました。あるいは、強迫性パーソナリティ障害が強迫性障害と誤診されるケース。これはとても多く、この誤診の結果、強迫性障害に効くという抗うつ薬が大量投与されて、薬が効きすぎて興奮してしまうのです。(『精神科医隠された真実』斉尾武郎著)

 そして精神科では、外科や内科の様に治療法がある程度標準化されているという事がないと言います。

ところが困ったことに精神科だけは事情が異なっていて、基本的な診断方法や治療方法が定まっていないのです。もちろん診断基準、治療ガイドラインといったものが有りますが、あまり利用されていません。例えば精神科医 3人が同じ患者を診たら、ケースによっては 3人とも違う診断・処方をしてしまう。そういうことが稀でない。そのぐらいのばらつきが有るのです。そして私の見る限り、本当にきちんとした処方のできる医師は100人のうち20~30人ほどしかいない。・・・・さらにその20~30人のうち、病気がこじれた時、ごちゃごちゃした処方を整理して治療を立て直すことができる医師は 2~3人ほどでしょう。(『精神科医隠された真実』斉尾武郎著)

 また患者を引き継いだ時、「前任医師の薬の処方に愕然とすることが少なくない」と言います。 「いくら何でもこれは!」という処方が結構あると言うのです。「だいたい引き継いだ患者さんの 3人に 1人は「なんだこれは!」と驚くような処方がされています。カルテを何度読み返してみてもなぜその処方がされたかさっぱり分かりません」と書いています。そして、薬の整理をする事になるのですが、「デタラメな多剤投与をスッキリ整理するだけでうつ病が治ることも少なくありません」と言います。30歳代のうつ病の男性の例では 、少量の抗精神病薬を多種類併用していたのをすべて切ると、「人相が変わるほどの別人になってしまった」と次の様に書いています。

この人は最初私が見た時はおどおどして生色に欠ける中年男性だったのが、薬を切っただけでハキハキして表情にもゆとりが出て、いかにも仕事のできそうなエリートサラリーマンに早代わりしてしまいました。・・・・・要するに彼がおどおどしていたのは副作用でしかなかった訳です。彼は 3年も 4年も精神科に通い続けていたのですが、いったい何のために通っていたのかという話です。
こうしてみると本当に必要な薬はごくわずかなのです。 その他は意味のない処方なのに、それが顧みられることなく延々と薬がジャブジャブ出し続けられているのが我が国の日常臨床です。 (『精神科医隠された真実』斉尾武郎著)

また日本では、きちんと治療計画を立てられる医師が少ないと言います。

「あなたの病気はおそらくこれなので、治癒する可能性はだいたい何パーセントです」「この治療をすれば治る確率はこのくらい、治らない場合はこんな経過をたどりますが、こんな風に診ていきましょう」といったような、「診断」と「予後」の「診たて」をはっきり伝えて、患者さんに治療計画を示すことができる先生が、日本には少ない。特に精神科では、滅多にいないと言っていいかも知れません。(『精神科医隠された真実』斉尾武郎著)

 さらに驚いた事には、 意図的に依存性のある向精神薬を多剤投与して、 患者に逃げられない様にしている、有名精神科医が居ると言うのです。

私の友人の精神科医が言うには多剤投与は不合理かつ無意味だと承知の上で、「儲けのために」確信的に行なっている医師(マスコミなどで著名な先生)がいるというのです。
例えばある薬は単剤で十分に治るのに、治って患者さんが来院しなくなったら「商売あがったり」ということで、 わざわざ依存性のある薬を組み合わせて処方して、患者さんがその病院から離れていかないようにしているというのです。(『精神科医隠された真実』斉尾武郎著)

 全く、開いた口が塞がらないと言うのが実感ですが、これが日本の精神科医療の実態なのです。

抗精神病薬はドーパミン遮断薬

 昔は、統合失調症(精神分裂病)と躁うつ病が二大精神病と言われていましたが、その統合失調症の治療薬として開発されたのが抗精神病薬です。以前は、神経遮断薬とかメジャー・トランキライザーと呼ばれていました。これは、統合失調症で見られる幻覚・妄想はドーパミンの機能亢進が原因として、ドーパミン受容体の遮断を狙った事から来ています。抗精神病薬は、文字通りの神経遮断薬だったのです。抗精神病薬のターゲットになっているドーパミンは、意欲・動機・学習・快楽・不随意運動などに関係する神経伝達物質で、脳の 4 系統の神経経路を通じて作用しています。そして、抗精神病薬により遮断される神経経路の違いに応じて、「錐体外路症状」として知られる不随意運動の障害(黒質線条体系)、統合失調症の陽性症状とされる幻覚・妄想(中脳辺縁系)、同じく陰性症状とされる感情の鈍麻・平板化・意欲の減退・思考力の低 下・自閉(中脳皮質系)、などの様々な症状や障害が発生してくるのです。

 中でも、中脳の腹側被蓋野から前頭葉に投射する中脳皮質系が遮断されると、前頭葉の活動が抑制され、特徴的な精神症状を引き起こす事になります。 前頭葉から運動野を除いた前頭前野は、意識や認知・論理的思考・内省・倫理的判断・未来の予測などに深く関わり、自我や意識はこの部分に存在すると言っても過言では無いほど、私達の個性や人間性を担っている領域です 。つまりドーパミン神経系は、前頭葉に作用する事で我々の人間らしい行動そのものを生み出しているのです。ですから、抗精神病薬がドーパミン受容体を遮断してしまうと前頭葉は機能不全に陥り、人間らしい高度で知的な精神活動は失われ、動物の様に単に外界の刺激に機械的に反応するだけの存在に成り下がってしまいます。抗精神病薬は「ある意味何も考えなくさせる鎮静薬」であり、「それはロボットにしているのと同じ」事なのです。そして、抗精神病薬を飲み続けると「まるで知的障害や老人の認知症のようになって」(『心の病に薬はいらない』内海聡著)、ついに は人格そのものが崩壊して廃人の様になってしまうのです。

 抗精神病薬は、前頭葉の働きを抑える事で感情やその人らしさ、人格や人間性まで奪ってしまう訳ですが、これは 第二次世界大戦中から戦後にかけて爆発的に流行した、ロボトミー手術と全く同じ事を薬剤を使って行っているとも言えます。つまり、抗精神病薬の投与は「薬物的ロボトミー」とも言えるものなのです。このロボトミー手術と言うのは精神疾患の外科治療の一種で、前頭葉と視床とを繋ぐ神経線維を切断して前頭葉を他の脳から分離してしまう前頭葉切除術の事です。これによって患者は人間らしい感情・意志・道徳性・創造性を失い、生ける屍と化してしまい ます。前頭葉は人類に於いて特異的に進化した部位で、人の脳で最大の領域を占めています。文字通り、人を人ならしめている脳の領域であり、この前頭葉を切除する事は人の人としての所以を破壊してしまう行為なのです。前頭葉切除による副作用を全く顧慮する事なく、弱い立場の精神疾患の大勢の患者を廃人にしたロボトミー手術は、人体実験そのものであり悪魔の手術という事ができます。この犯罪的な手術は、第二次世界大戦後に心的外傷後ストレス 障害の兵士が多数復員した事により大流行し、ロボトミー時代が終わるまでに全世界で 11 万人もの患者が犠牲になったと言われます。このロボトミー手術は 1949 年にピークに達し、以後急速にすたれて行きます。実は、同じ 1949 年 に抗精神病薬のクロルプロマジンが開発され、 ロボトミー手術に取って代わって行ったのです。 抗精神病薬はドー パミンを遮断する訳ですが、ドーパミン感受性ニューロンの大半は前頭葉に存在すると言われます。つまり抗精神病薬は、ロボトミー手術と同じ前頭葉を遮断する効果を薬剤で達成するもので有り、批判の高まったロボトミー手術の代替として普及して行ったのです。

 また、抗精神病薬による統合失調症の治療に関しては興味深い事実があります。抗精神病薬は、統合失調症の幻覚や妄想を抑える為に使われる訳ですが、実はいくら強い抗精神病薬を患者に投与しても、幻覚・妄想自体は決して無くならないのです。 患者は同様に幻覚・妄想を見ているのですが、ただ以前ほど気にならなくなると言うのです。 つまり、 抗精神病薬は意識のレベルを全体的に低下させる事によって、幻覚・妄想を見ても無関心になり気にならない様にしているだけなのです。抗精神病薬は、統合失調症の本質的な治療にはなっていない訳です。こうした事実も、抗精神病薬の性格をよく表しています。

過鎮静に悪用される抗精神病薬

 抗精神病薬を過剰投与されると、何かしようとする意欲や感情が失われてロボットの様になり、最後には寝たきりになってしまいます。これは抗精神病薬が、中脳皮質系と中脳辺縁系の 2 つのドーパミン神経経路を遮断して、前頭葉の活動と覚醒レベルを低下させる為です。先に、ベンゾジアゼピン系向精神薬が患者の過鎮静に悪用されている実態を紹介しましたが、上記の様な特性から危険性の高い抗精神病薬も、同様に医療現場で患者の管理の為に乱用されています。

 佐藤光展記者は著書の中で、母親が入院中のため児童養護施設に入れられた中学と小学生の兄弟の例を紹介しています。母親の代わりに精神科医が様子を見に訪れた時、「中学 2 年の兄はよだれを垂らし、小学 6 年の弟は失禁でズボンを濡らしていた」と言います。そして、どんな薬を飲ましたのか職員に詰め寄っても「個人情報なので」の一点張りで教えてもらえず。「だが副作用の出方で薬の見当はついた。 抗精神病薬。2 人は鎮静させられたんだ。抗精神病薬は主に統合失調症の幻聴や妄想を抑える目的で使われる。・・・・・過剰に投与したり、この病気でない人が服用 したりすると過度の鎮静や筋肉の硬直、認知機能の低下など、重い副作用が現れやすい。健康な人が服用すると、 少量でも動けなくなるほど鎮静作用が強い薬だ」。この精神科医は、施設長と粘り強く交渉して兄弟を助け出す事に成功するのですが、「この施設で、2 人の他にも抗精神病薬を投与されているとみられる子供を複数目撃した。歩行機能が衰えて、小さな歩幅で不安定に歩く小刻み歩行などが現れていたのだ。小刻み歩行は、主に中高年で発症するパーキンソン病の症状として知られるが、抗精神病薬の副作用としても現れやすい」(『精神医療ダークサイド』佐藤光展著)。そ して、救出された中学生の兄はこの時の事を振り返って「薬を飲むと苦しくて、だるくて仕方がなかった」と述べています。

 介護施設の場合もそうですが、抵抗できない子供に劇薬を無理やり飲ませて廃人同然にして管理するなど、現在の日本の医療現場の荒廃とモラルの崩壊を象徴しています。こうした現実を知ると、本当に心が暗澹としてしまいま す。 本来、子供の様な弱い立場の人は社会が守って行くべきです。ところが施設の職員や医師・看護婦らは、寄ってたかって身を守る術を持たない子供や老人に、薬物を使って拷問と言っても良いほどの虐待を行なっているのです。しかも、抗精神病薬は長期にわたって服用を続けると薬物依存に陥り、薬を止めようとすると酷い禁断症状に襲われ、さらには不可逆的な脳の損傷を引き起こす恐れも有ります。このような危険極まりない精神病薬を、脳の発達途上にある子供に大量投与している訳です。子供達は誰に助けを求める事もできず、辛い抗精神病薬の副作用をじっと我慢して堪えるしかなかったのです。

 医師・看護婦・施設側が本人や家族の了解を得る事なく、管理をし易くするという自らの都合の為に、毒性の強い薬剤で人の意識を混濁させて管理するなど、人間としての人格を否定した甚だしい人権侵害であると同時に、入所者に深刻な精神的・肉体的なダメージを与える卑劣な犯罪行為そのものです。患者や入所者を家畜同然に扱い、文字通り飼い殺しにしているのです。こうした事を、何ら良心の呵責も感じずに平然と行なえるというのは、どういう人間なのでしょうか。彼らには、他人への思いやりや愛情といった人間らしい感情や心は無いのでしょうか。人としての最低限の良心も失ったのでしょうか。日本は何時から、このような人格異常の人非人ばかりの国になったのでしょう。先にも引用した長嶺敬彦医師は、次の様に書いています。

フィリップ・ピネル(1745~1826)は、フランス革命時代の 1793 年、「精神病者も人間として処遇されるべき だ」とビセートル病院で永年鎖で繋がれていた精神障害者を解放し、精神医学史上、新しい時代を画する 象徴的な行動として後世に影響を及ぼしました。彼は 盲目的に多くの薬を使うことにも反対していました。 不適切な抗精神病薬の使用は、鎖と同じです。抗精神病薬の多剤併用は化学的拘束を起こし、 患者さんを病院に鎖で縛り付けているのと何ら変わりはありません。今、我々に求められているのは、ピネルが鎖を 切ったのと同じように、「薬物による過鎮静」という鎖を、勇気を持って断ち切ることではないでしょうか。 (『抗精神病薬の身体副作用がわかる』長嶺敬彦著)

 弟の入院していた緩和ケア病棟でも、抗精神病薬を使って患者を過鎮静にして管理しています。入院してすぐに気付いたのは、他の病院とは全く違う独特の雰囲気です。丸尾多重子介護士が体験した特別養護老人ホームの場合と同様に、 病棟内はいつもシーンと静まり返り、患者の話し声が全く聞こえてこないのです。私と弟はリハビリの為に、ほぼ毎日病院の廊下を約 1 時間かけて歩行訓練をしていたのですが、廊下に出ているのは私達だけで他の患者に会う事は全くと言っていいほど有りません。たまに出会っても、車椅子に乗せられて移動している患者なのです。

 カルテにも過鎮静を窺わせる記述が残されています。5 月 6 日に看護婦は、「松野氏はぼーっとした状態 であり、冷静に状況を判断する事が困難な様子。・・・・今は松野氏は混乱している事もあり、・・・・しっかりとご自分の 考えを訴える事が出来るまで覚醒して頂いてから、また兄弟で話し合って頂けたらと考える」と書いています。つまり、弟が「ぼーっと した状態」で「混乱して」おり、「話し合う」には「覚醒」が必要と述べている点から、この看護婦は患者が薬剤の影響で過鎮静の状態になっていると認識していた事が分かるのです。

 また看護婦といえば、どこの病院でも忙しく立ち働いているのが当たり前ですが、入院した緩和ケア病棟ではそんな様子が全く見られません。何人もの看護婦が、手持ちぶたさそうにナースステーションでたむろしているのを良く見かけました。そのうちの一人がカルテに記入しているのでしょう、パソコンに向かって盛んにカタカタと打ち 込んでいる事も良く有りました。ここの看護婦にとっては、患者と家族の会話から情報収集した内容をカルテに打ち込 むのは、ちょうどいい時間つぶしになっているのでしょう。弟は歩行訓練の途中で、そんな時間を持て余し気味の看護婦と、ナースステーション前でよく立ち話をしていました。

 緩和ケア病棟では週に 1~2 回、午後の 1 時頃から 1~2 時間程度会議をしていたのですが、その間は看護婦は全員出席で、患者がナースコールで呼んでも代わりに介護スタッフが来て「看護婦は今会議中で来られません」と言うだけで、会議が終わるまで患者は待たされる事になります。私達も何度か経験させられました。これはカルテにも記録されています。例えば 4 月 2 日には、看護婦が次の様にカルテに書き込んでいます。

13:40、キリキリする痛みにて、オキノーム 5mg 内服される。カンファレンス中であったため訪室するのが遅く、15 時前になった為「心配しました」 と。

 つまり、13:40 にお腹がキリキリ痛み、ナースコールを押しても看護婦は来ず、自分で 痛み止めを飲んだと言う事です。そして、看護婦が来たのはナースコールを押してから 1 時間 20 分も後の 15:00 前で、その間弟は「心配しました」という訳なのです。患者よりも会議の方が大事だとは一体どんな病院なのでしょう。ここは末期がんの重症の 患者が入院しています。にも拘わらず、ナースコールで呼ばれても患者を放置して平然と会議をしている訳で、「ここの連中はいったい何を考えているのか!」というのがその時の私の正直な感想です。

 元々、緩和ケア 病棟では治療は行いません。入院してから主治医が新たに行った「医療行為?」は、向精神薬を大量投与して患者を薬漬けにする 事だけだったのです。したがって、そもそも患者を放置し 1 時間以上もかけて会議を行わなければならない様な理由が有るとは思えません。実際、私自身ナースステーションの奥で行なわれている会議を何度も廊下から見ていますが、 いつもシーンとしていて活発に議論されているような様子は全く無いのです。 こんな杜撰なやり方で病院運営が回っているのは、入院患者を抗精神病薬で過鎮静にし、一日中意識が朦朧とした状態で管理している為に、患者自身が不具合を訴えること自体が難しいのでしょう。 一方、医師や看護婦にとってはこれほど楽な仕事はありません。薬剤で意識の レベルを落とされている患者は、一日中ベッドでウトウトして何の訴えも出来ず横になっているだけですから 、医師や看護婦は時々巡回して様子を見るだけでいいのです。ナースコールなど、いちいち気にする必要は無いという訳です。

酷い倦怠感を生む抗精神病薬を悪用

 これまで私は、緩和ケア病棟の主治医が弟を「安楽死」に追い込む目的で、向精神薬の多剤併用大量処方を行ったと述べてきました。その根拠として、一か月以上も前から必要のない劇薬の抗精神病薬の投与を始め、以後段階的にその種類と量を拡大して「持続的深い鎮静」へとつなげている点。また、酷い副作用の頻出に驚いた家族が服薬の停止を訴えても、主治医は反対に家族の留守を狙って投薬量を激増させるなど、投薬の継続に異常な執着を示していた点などです。向精神薬特有の酷い副作用で、患者が苦しんでいた事はカルテにも記録されており、主治医も当然熟知していたはずです。にも拘わらず、家族の訴えを無視してまで、劇薬を投与し続けるどんな理由が有ると言うのでしょうか。しかも、4月30日~5月1日の2日間、体調の悪化で服薬が激減した直後に、弟の体調が劇的に改善していたのです。ところが、症状が改善したまさに同じ日に、主治医は大量の向精神薬を投与して弟の状態を一気に悪化させているのです。こうした点を総合的に考えると、主治医が隠された意図を持って、抗精神病薬の多剤大量処方を強行したとしか考えられないのです。

 主治医が固執した抗精神病薬の大量投与の狙いは、一つには意識レベルを低下させて患者を自らの意図する方向に誘導し易くする事。 もう一つは、抗精神病薬の目立った副作用である酷い倦怠感によって患者を心身ともに追い詰め、「持続的深い鎮静」という名の「安楽死」に追い込む事です。

 私がそう考えるのは、入院初期からこの主治医が、病状が進行すれば耐え難い酷い倦怠感に襲われると繰り返し私達を脅していたからです。主治医は入院初日に、今後の病状の進行で胃から大出血が起こる可能性と、今後急激に体力が落ち極端な倦怠感・だるさが出てくる可能性を説明しています。実はこの時、私は説明を聞きながら強い違和感を覚えた事を記憶しています。というのも、私は両親をがんで亡くしていますが、2人とも最後は眠る様にして亡くなり、「極端な倦怠感」や痛みなど全く無かったからです。 しかも、弟がまだ元気にしている時に、将来ひどい苦しみに襲われるなどと患者を脅し、希望を打ち砕く様な説明を、入院初日に何故わざわざ話す必要が有るのか、非常に不思議に思ったのです。今から考えると、将来の「持続的深い鎮静」の説得を容易にするの為の伏線だったと思います。つまり、長く生きていると今後とんでもない酷い苦痛に襲われる事になるから、そうなる前に早く生きる事を諦めて「安楽死」を受け入れよと言う訳です。この後も、主治医は繰り返しこの「極端な倦怠感」を持ち出して、私達に脅しを掛けてくる事になります。つまりこの医師は、患者に「安楽死」を同意させる為に未来の倦怠感で脅しながら、同時に劇薬の抗精神病薬を投与して倦怠感そのものを意図的に創り出していた訳です。これは極めて卑劣で悪質なマッチポンプ商法そのものです。

 弟には、4種類の抗精神病薬が処方されていた訳ですが、抗精神病薬は非常に強い倦怠感を引き起こします。先に、児童福祉施設に入所していた兄弟が助け出された後に、「薬を飲むと苦しくて、だるくて仕方がなかった」と話していた事を紹介しました。また、鬱っぽいというだけで抗精神病薬を 3 種類も投与された 17 歳の少年も、「体がだるくて学校に居る事が出来なくなる」と言っていました。実は、こうした事は多くの抗精神病薬の服用者が経験している事なのです。

 先にも引用した『精神医療ダークサイド』で取り上げられている例を見てみましょう。中学 1 年生の少年がいじめで不登校になり、受診した大学病院で統合失調症と診断され抗精神病薬を処方されます。 薬を飲み始めるとすぐに変化が現れ、少年は「1 日の大半を眠って過ごし」、以前にも増して感情 を昂らせて喚き散らす様になります。それを聞いた主治医はさらに薬を増やし、その結果、少年は「活力を失い、よだ れを垂らして失禁」する様になってしまいます。「薬の服用を始めて一週間」で、少年は「ひどい倦怠感に苦しみ、呂 律が回らなくなった。歩くとよろけて倒れた」と言います。治療に不信を感じた父親が試しに一錠、抗精神病薬を飲んでみると、「あまりのだるさで腕も上がらなくなった」と言うのです。つまり、抗精神病薬は健康な人が飲んでも耐えられない様な倦怠感を引き起こす、極めて毒性の強い薬剤なのです。こうした酷い倦怠感は抗精神病薬のありふれた副作用で、弟が処方されていた全ての抗精神病薬の添付文書に、副作用として倦怠感が明記されています。抗精神病薬が劇薬であり、ドーパミン神経経路を遮断して脳を機能不全に陥らせる危険な薬剤である事を考えれば、このような酷い倦怠感が出るのはむしろ当然と言うべきでしょう。

 服薬によって体内に入った薬物・毒物は、肝臓と腎臓で分解・解毒されて排出される事になります。その際、水溶性の薬物は腎臓から直接尿の中に排出されますが、脂溶性の薬物は肝臓で薬物代謝酵素によって水溶性の分子に 変換・解毒され、再び血液中に戻って腎臓から排出されるか、胆汁に入り十二指腸に排出されます。血液中に直接注入される注射や点滴は水溶性の薬剤ですが、胃腸の粘膜から血液中に吸収される経口薬や座薬は、細胞膜の脂質二重層を通過する為に脂溶性でなければなりません。こうした高脂溶性の薬剤は肝臓で分解・解毒されるので、抗精神病薬の様な毒性の強い薬を服用すると肝臓に大きな負担が掛かる事になるのです。弟には、5 月 7 日の「持続的深い鎮静」開始までに、4 種類の抗精神病薬も含めて 6 種類もの劇薬の向精神薬が処方されていました。 末期がんで栄養状態も悪く、体力も消耗して体の生理機能が大きく低下してる患者に、多くの劇薬を含む大量の向精神薬が投与さ れていた訳で、その処理を担う肝臓は大変な負担を強いられたはずです。

 実は、抗精神病薬を始めほとんどの向精神薬には、肝機能障害を引き起こす副作用が有ります。実際、弟に処方されていた14種類全ての向精神薬が、肝機能障害の副作用を持っていました。 長嶺敬彦医師によると、精神科では「抗精神病薬が原因あるいは誘因であろう皮膚疾患が多い」と言います。そして「薬の使用量が多い事が一つの原因で」薬へのアレルギー反応としての薬疹が多く見られ、そのかなりの症例で 「薬物性肝障害」が認められると言うのです。内海聡医師も「向精神薬に限らず脂溶性の毒物のほとんどが肝臓で分解される為、これらの脂溶性毒物を日々摂っている人は、その分、肝臓を疲弊させている。そのため、肝機能障害を 起こす人が多い」(『睡眠薬中毒』より)と書いています。 そして弱った肝臓で代謝しきれなかった薬物は、有害物質として体内に蓄積されて行く事になります。抗精神病薬のドーパミン遮断による副作用に加えて、肝臓の疲弊による薬物性の肝機能の低下と、体内への有害物質の蓄積が複合して酷い倦怠感を憎悪させていたと考えています。

 入院中に行 った血液検査では、アルブミン値の低下とアンモニアの上昇、そして AST ・ ALT・γ-GTP も正常範囲内とはいえ、じわじわと上昇してきており、これらは肝臓の代謝機能の低下を窺わせます。以前に、アルブミン値の低下が入院後の急激な栄養状態の悪化によるとして取り上げましたが、それに加えて多量の向精神薬の投与による薬剤性の肝機能障害の可能性も有る訳です。また、アンモニアはタンパク質の代謝過程で生まれ、肝臓で尿素に合成される為に、肝障害があると血液中にアンモニアが溜って来るとされます 。以下の(表 2)が血液検査の結果で、3 月 27 日以降が入院後の記録です。

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 肝臓は有害物質の解毒だけではなく、胃腸で消化・吸収した栄養から身体に必要な様々な物質を合成し、栄養素を貯蔵したり血液中へ放出するなど、身体を維持していく上で無くてはならない機能を果たしています。肝臓はタンパク合成・ 栄養貯蔵・エネルギー供給・有害物質の解毒と、生命活動を支える化学工場として生命維持に直接関わる重要な働きをしているのです。したがって、肝臓の機能が低下して代謝異常が起こると、食事をしても身体に必要なタンパク質 や栄養素・エネルギーが充分供給されず、酷い倦怠感に悩まされる事になる訳です。

 また、肝臓の代謝機能が低下すると、解毒されずに残った薬物が体に蓄積されて行く事になります。向精神薬の様に脂溶性の薬物は、体中の脂肪組織の中に蓄積して行きます。脂肪といっても皮下脂肪や内臓脂肪だけではなく、脳自身が脂肪の塊であり、水分を除くと約 60%が脂質で出来ています。「しかも、脳は余った分が蓄積しやすい場所の一つでもある。シナプスとシナプスの間にも脂肪組織はある。細胞膜も脂質でできている。毒の貯金箱は全身のいたるところにある」(『睡眠薬中毒』内海聡著)のです。脳が脂肪の塊である事は、神経細胞同士が電気信号 をやり取りする事で脳が機能している点を考えると良く理解できます。 脳の約 80%は水で構成されている為、神経細胞が電気信号を送ろうとしても、そのままでは漏電してしまうのです。この電気信号を確実に送るために、絶縁体として機能しているのが脂肪なのです。この脳を埋め尽くす脂肪組織に、脂溶性の向精神薬が溶け込み蓄積していく事を考えると、その恐ろしさが理解できると思います。

 さらに、向精神薬は脳を萎縮させる事が知られています。 アイオワ大学のナンシー・アンドリーセン医師が、統合失調症患者の脳を、14 年にわたり MRI(核磁気共鳴画像法)でスキャンして経年変化を調べた研究では、「最も脳質量の減少(萎縮)が大きかったのは、集中的に抗精神病薬の薬物治療を受けた患者で・・・・・精神症状の重要度、違法薬物、アルコールなどの乱用よりも抗精神病薬による薬物治療の方が、はるかに脳を萎縮させることが判明した」と言 います。「つまり精神病薬が、脳細胞を殺し、脳の萎縮を進めている張本人だった」訳です。「抗精神病薬は・・・・体 の代謝を変え脳を破壊萎縮させ、さまざまな副作用と依存と不可逆的な損傷をもたらす危険な毒物」(『精神科は今日 もやりたい放題』内海聡著)なのです。

 また、弟が苦しめられた酷い倦怠感が抗精神病薬などの薬剤性のものである事は、倦怠感の出現が抗精神病薬の投与量の急増と相関している事からも明白です。弟が、酷い倦怠感を訴えたのは 3 回だけです。1 回目は、4 月 30 日早朝の発作の時。2 回目はセレネース・ヒベルナ点滴の始まった翌日の 5 月 3 日。最後が「持続的深い鎮静」開始の 翌日の 5月 8 日、 つまり亡くなる前日です。 1 回目を除き、あとの 2 回は抗精神病薬の投与量が一気に激増した直後に発生しています。セレネースは、ドーパミン遮断作用の強い定型抗精神病薬で、ヒベルナはその副作用止めの抗パーキンソン病薬です。

 次に、抗精神病薬の投薬量の変化を、最初の抗精神病薬であるクロルプロマジンの用量に換算した CP 換算値(クロルプロマジン換算値:単位 mg)で以下の(表 5)に示します。4/30 と 5/1 で数値が急減して いるのは、4 月 30 日早朝の発作で倦怠感が強く、予定通りに薬の服用が出来なかった為です。図2)劇薬量・CP 換算値の推移のグラフも再掲しますが、2回目の酷い倦怠感は最初のピークの翌日、3回目は最後のピーク当日です。2回目が投薬量の急増した翌日で、3回目が当日と1日早くなっているのは、3回目の方が CP 換算値で倍になる程投薬量が激増していた点と、それまでの一週間で急増した薬剤が体内に蓄積していた影響と思われます。

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Cp換算値グラフ

 またグラフを見ると、2つのピークの直前に2つの大きな谷が形成されていますが、実はこの時、弟の症状が劇的に改善していたのです。最初が5月2日の早朝で、3:00頃に目を覚ますと今までになく体調が良く、ジュースや果物を次々と「美味しい、美味しい」と言いながら食べ出したのです。さらには、イチゴやリンゴも買ってくる様に要求したのです。前日から病院に泊まっていて安堵した私は、 看護婦に強い薬は出さない様に依頼して自宅に帰り、午後に果物を購入して病院に戻ると、私の留守中に(表5)の様に大量の向精神薬が投与され、弟の状態が一変していたのです。以後、弟は酷い不眠・倦怠感・不安・極端な精神的動揺などに襲われ続ける事になります。また 5 月 3 日以降は、抗精神病薬の副作用による精神症状が頻発しています。3 日の早朝には「呂律回っておらず」とカルテに記録されており、4 日 の深夜と 6 ・ 7 日の早朝には、ベッドから急に起き上がり、幻覚・妄想のような言辞を発しています。2回目の改善は5月7日の夜、「持続的深い鎮静」が 始まる直前です。この時も弟は、 ジュース・シャーベット・果物などを大量に食べ、不眠や倦怠感、不安から解放され、精神的にも安定して穏やかに看護婦と会話を楽しんでいたのです。

 つまり弟は、グラフの2つのピークで酷い倦怠感に襲われ、反対にその直前の2つの谷間で症状が劇的に改善していた訳です。 したがって、弟が苦しめられた酷い倦怠感や不眠・不安・極端な精神的動揺などが、大量投与された向精神薬の副作用である事は明白なのです。

 実は、抗精神病薬などの薬剤が強い倦怠感を引き起こす事は、緩和ケアの現場では良く知られている事なのです。 日本医師会監修の『がん緩和ケアガイドブック』にも、倦怠感の原因として、抗ヒスタミン薬・ベンゾジアゼピン系抗不安薬・抗精神病薬・制吐薬・オピオイド・鎮痛補助薬などの薬剤が挙げられています。そして倦怠感の原因として「特に薬剤、貧血、高カルシウム血症、抑うつを見逃さないように留意する」と注意を促し、その原因治療として「眠気を生じる薬剤で減量中止できるものがあれば中止する。日中に投与されているベンゾジアゼピン系抗不安薬、オピオイドの開始から継続されている制吐薬は中止できることが多い」と勧めているのです。

自殺を誘発する抗精神病薬

 抗精神病薬は、自殺を誘発する事でも知られています。 抗精神病薬には「アカシジア」と呼ばれる特徴的な副作用が有り、それが自殺や暴力行為・犯罪を引き起こすのです。これは、クロルプロマジンと並ぶ初期の抗精神病薬のレセルピンの使用から判明してきました。レセルピンには血圧を下げる効果が有り、高血圧症の患者に降圧剤として処方されていたのですが、レセルピンを服用した高血圧症患者がうつ状態になり、自殺すると言う事態が相次いだのです。同様の傾向はクロルプロマジンにも認められ、患者を無気力・無感動にしたり、不安を起こさせたりする事が分かってきました。レセルピンを投与された患者は、心配や不安に駆られ、落ち着きを失い、異常な衝動に襲われ、中には パニックに陥る場合も有ったのです。 こうした、うつ病とは異なる目新しい現象に「アカシジア」と言う分かり難い名前が付けられたのです。「アカシジア」とは「静かに座っていられない」 という意味で、「落ち着きのなさ」と訳されたりしま すが、本質的には「精神的動揺」と捉える方が正確です。抗精神病薬を服用すると精神状態が異常に不安定化し、精神的動揺が引き起こす強い不安・衝動が自殺を誘発するのです。こうして「アカシジアは、自殺や殺人をも引き起こす抗精神病薬の危険な副作用として認識」(『抗うつ薬の功罪』デイヴィッド・ヒーリー著)される様になったので す。また、このアカシジアは抗うつ薬でも起こります。抗うつ薬の「SSRI も神経の不調を持たない人の自殺を誘発する。それは主として、治療の早い段階で精神的動揺を引き起こす事による」と考えられているのです。

 弟も、向精神薬の種類・量ともに増やされた 4 月下旬以降、 様々な認知障害や幻覚・妄想などの精神症状が出現すると同時に、精神状態が異常に不安定化し、将来に対する不安や恐怖に襲われパニック状態になる中で、主治医の執拗かつ言葉巧みな説得に騙されて、実質的な「安楽死」である「持続的深い鎮静」に同意させられたのです。5 月 7 日の話合いでは、弟は病院の 4 階から飛び降りて自殺すると仄めかしてい ます。それに対して主治医は、自殺に代わるものとして「持続的深い鎮静」を勧め同意させているのです。「死にたい」と言っている人間に、自殺の代わりに「お薬で眠る」「お薬でウトウト過ごす」などと「持続的深い鎮静」を勧め、同意を取ること程簡単な事は有りません。そのため「自殺念慮・自殺企図」を引き起こす抗精神病薬や抗うつ薬は、患者を「安楽死」に追い込もうと躍起になっていた主治医にとって、願ったり叶ったりの悪魔の薬剤だったのです。実際、主治医が投与していた 4 種類の精神病薬の添付文書には、「自殺念慮・自殺企図」の副作用が明記されています。

 突然死と寿命を縮める抗精神病薬

 抗精神病薬は、副作用として不整脈による突然死を引き起こす事が有り、特に多剤併用と大量投薬でそのリスクが高まる事が知られています。弟に処方されていた 4 種類の抗精神病薬も、副作用として心停止や原因不明の突然死が添付文書に明記されています。実際、抗精神病薬を投与された統合失調症患者に相当数の犠牲者が出ている様なのです。統合失調症患者の家族会「あやめ会」がまとめた調査では、2006 年から 2010 年までの 5 年間に会員患者 260 人の内 24 人が亡くなっており、これは同世代の国民と比較して 8倍も死亡率が高いそうです。そして、死因で最も多かった突然死 12 人の内 11 人が心疾患で、「あやめ会の患者が 1 年間に心疾患で亡くなる割合は、同世代の 28 倍に達していた」と言うのです。

 抗精神病薬の大量投与が、不整脈の危険性を高める事が分かっています。実際、統合失調症の患者では、不整脈で QT 延長と呼ばれる心電図異常の出現は決して珍しい事ではなく、この QT 延長が出現すると心室細動などが誘発され、突然死を招く危険が有るのです。そして「抗精神病薬の量は突然死に関連し、QT 時間とも相関します。・・・・ QT 延長は抗精神病薬の多剤併用療法で問題となる身体合併症です。突然死を防ぐ意味でも多剤併用は避けるべき」(『抗精神病薬の身体副作用がわかる』長嶺敬彦著)とされるのです。安易な抗精神病薬の多剤処方や大量投薬が、多くの統合失調症患者に突然死をもたらしている可能性が高いのです。

 内海聡医師によると、こうした抗精神病薬による突然死に関連して、精神科病院では驚くほど多くの患者が死亡していると言います。アメリカでは 1965 年から 2005 年までの間に、精神科病院で約 110 万人もの患者が死亡しており、これは 1776 年から2005 年までの戦死者数 74 万人を大きく上回っているのです。 日本に於いても、2011 年 6 月の 1 か月間で 1635人が精神科病院から死亡退院しているそうです。日本には 31 万人を超える精神科の入院患者がいるとされますが、そのうち 2 万人近い患者が一年間に死亡している訳です。 2011 年の東日本大震災での死者・行方不明者数が約 18000 人ですので、この大震災を上回るような死者が、毎年精神科病院から出ている訳です。精神疾患が直接患者の生死に結びつく病気でない事を考えれば、これは極めて異常な事態と言わなければなりません。佐藤光展記者は、日本の精神科病院における驚くべき投薬の実態について次のように書いています。

CP 換算値が 1 日 1000mg 以上になると大量投薬とされる。1000mg を超えると、いらつきなどの精神症状や、筋肉の緊張、震えなどの身体症状が出やすく、突然死を招きかねない QT 延長の発生率が急増することが海外の調査で確認されているためだ。精神科がある全国の病院を対象に、2009 年に私が行った調査では、1日 1000mg 以上の抗精神病薬を投与する入院患者がいる病院は、回答した 135 病院の約 83%(112 病院)に達し、2000mg 以上も約 52%(70 病院)にのぼった。精神科の入院患者全体の平均投与量が1000mg を超える病院も 13 施設あった。いずれの病院も、数種類の抗精神病薬を組み合わせて総量が増えており、投与量が一番多い患者は 6600mg だった。2012 年にも同様の調査を行ったが、公立病院に 1万 mg の患者がいることが分かった。 (『精神医療ダークサイド』佐藤光展著)

 しかも、犠牲者は入院患者だけでは有りません。精神科に通院して治療を受けている患者にも、多くの死者が出ている可能性が高いのです。東京 23 区内で起きた不審死や事故死の死因を調べている東京都監察医務院の統計では、2013 年に起こった不審死の内、中毒死は 80 人だが、違法薬物によるものは 1 人だけで、 ほとんどが医薬品(36 人)とアルコール(25 人)によるものと言います。この医薬品中毒死の中には多量服薬による自殺は含まれないので、医師の処方通りに飲んで中毒死したケースであり、中毒死した人から検出される医薬品のほとんどが精神科領域の薬だと言うのです。「東京 23 区内だけでも、毎年、数十件の医薬品による中毒死が報告されているということは、全国では 1000 件規模の中毒死が起こっていることが推測される」(『睡眠薬中毒』内海聡著)と言う状況なのです。

 また、抗精神病薬は人の寿命を縮める事も分かっています。2009 年のフィンランドの研究では、67000 人の患者を11 年間追跡調査し、抗精神病薬を飲んでいる人と飲んでいない一般の人との 20 歳時点における平均余命を調べた結果、「飲んでいない人が 59.9 年生きられるのに対して、服用者は 37.4 年」と 22.5 年も短命であることが判明した
と言うのです。また、同じ年のアメリカ、テネシー州の調査では、抗精神病薬の服用者は飲んでない人に比べて「心臓突然死(心臓麻痺)のリスクが 2 倍程度高くなる」とされます。 CP 換算値 300mg 以上の定型抗精神病薬で 2.42 倍、非定型抗精神病、薬では 2.86 倍、 CP 換算値 100mg ではそれぞれ 1.31 倍と 1.59 倍になるとの事です。

 このように抗精神病薬は、脳を機能不全に陥らせ、精神を狂わせ、人格を破壊し、自殺を誘発し、酷い倦怠感を生み、過鎮静で意識を朦朧とさせ、さらには 脳そのものを萎縮させ、 寿命を縮め、最後には突然死に追い込むなど、危険極まりない薬剤である事がお分かり頂けると思います。

統合失調症患者とは心優しき人々

 私達は統合失調症患者に誤った偏見を持っている様です。 かつては精神分裂病と恐ろしそうな名前で呼ばれ、幻覚や妄想などの症状から気味悪く感じる人も多いと思います。しかし、本当は思いやりの有る、心優しき人々なのです。日々彼等に接している精神科医がどのような印象を持っているか、以下に2つ引用したいと思います。

長い間、精神医療の主な対象は統合失調症(精神分裂病)だった。この病気の患者の性格的な特徴を「内向的」「思いやりがある」「優しい」などと見る精神科医は多い。病気の症状で一時的に荒れることはあっても、統合失調症患者は総じて「真面目」「控えめ」だと言う。
「最近は、一方的に話し続けるなど疲れる患者が多いので、こちらの多忙な状況を察してくれる統合失調症患者が来るとほっとする」と語る精神科医もいる。そうしたいわば「羊」のような人たちを相手に、多量の薬と長期収容中心のゆがんだ精神医療は成り立ってきた。 (『精神医療ダークサイド』佐藤光展著)

 次は、精神科医の馬場尚平医師が、研修医として精神科病院を訪れた時の経験です。初めて統合失調症患者に会った時には、妄想延々と喋り始める患者に不気味な恐怖を感じていたのが、徐々に変化して行ったと次の様に語っています。

ところが何日か経ち、 泊まり込みも経験した後になると、統合失調症の患者に対して親しみのようなものを感じるようになってきた。もっと言えば、彼らと接していると、癒されるのである。
何年か経ってから知ったことだが、多くの精神科医が同じような思いをしている。どういうわけか、リストカット癖のあるうつ病患者などを外来で診察した後に統合失調症の患者と接すると、救われたような気分になるというのだ。
しかしどうしてそんな想いになるのだろう。これは現在の私の推測だが、統合失調症の人は、およそ社会性というものがない。それが競争社会に生きる私たちには新鮮に映ると言うか、心の故郷のように感じるのではないか。統合失調症の人は、人の足を引っ張ることもないし、裏切りとも腹芸とも無縁である。言ってみれば、純真であり無垢なのだ。(『アブない精神科医』馬場尚平著)

さらに馬場尚平医師は、「統合失調症は直す必要はあるのか?」と問いかけています。「確かに薬によって直そうとすることはできる。でもそれが患者にとって良いことなのか」 と。 これも以下に引用します。

私はかつての患者に70歳を過ぎたおばあちゃんがいた。彼女には自分が妊娠しているという妄想があって、我が子が生まれてくるのを生きがいのように楽しみにしていた。・・・・・なんとなくホッとする話ではないか。少なくとも患者本人は幸せな気分なのである。
こういう患者に対して、私はできるだけ薬でいじらないようにしている。妄想が体系化されるほどのレベルになると、薬が効きにくいという事情もあるのだが、患者の頭から妄想を消してしまうというのはどうかと思うからだ。
これはアメリカで実際にあった話だが、統合失調症の患者が妄想の中で美女に囲まれて、まるで竜宮城の浦島太郎のように暮らしていた。そんな彼の妄想を、精神科医が新しい薬を投与することで消してしまったのだ。
すると患者の彼はどうしたか。「なんということをしてくれたんだ。現実の世界に戻ってしまったではないか」と、医者を訴えてしまったのである。(『アブない精神科医』馬場尚平著)

 そして馬場尚平医師は、「統合失調症の患者に画一的に薬を投与して、妄想や幻聴を消すのが医師として正しい行為なのか、分からなくなることがある」と書いています。先に述べたように、抗精神病薬は統合失調症を治療している訳ではなく、患者の意識を落として無関心にしているに過ぎません。しかも、抗精神病薬は脳を萎縮させ、寿命を縮める危険性もある極めて危険な薬剤です。深刻な副作用のある向精神薬を、多剤大量投与して患者を苦しめているだけの治療?に、どんな意味が有るのでしょう。患者にとって何が幸せなのか、もう一度問い直してみる必要が有るのではないでしょうか。


(続く)

医療現場で乱用される向精神薬 ③
医療現場で乱用される向精神薬 ①

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