オタク語
いわゆるオタク語というのがある。
“アド”とか“板”とか“丸い”とか。
これらの単語はオタク語なので、オタクにしか通じない。
そのため、日頃オタクを隠して社会に溶け込んでいる僕は、この手の単語を使わないように日々気を遣って生きている。
ただ、使わないとなると困ってしまう。
それに代替する一般用語を見つけなくてはならないからだ。
特に僕を困らせているのが“アド”。
万が一オタクではない人がこの記事を読んだ時のために、“アド”の意味をグーグルから引用してこようと思…………。
………………。
どうやらグーグル先生にもオタク語は伝わらないらしい……。
仕方がないので僕のイメージでオタク語の“アド”を説明させていただくこととする。
オタクから見た世界にはアドが溢れているのに、一般人の語彙に、アドに相当するものが中々存在しない。
僕は、一般人のフリをするべく、アドに置き換えられそうな単語を必死に探していた。
そんな折、この話を友人(オタク)にしてみたところ、彼は一般用語で言うところの“アド”とはつまり、“ラッキー”ではないかと言うのだ。
それを聞いて一度は得心したものの、しかしラッキーでは致命的にずれている語義の部分がある。
例えば、歩で飛車を取る行為はアドなのだが、これはラッキーでもなんでもない。
運ではなく戦略でこちらの有利状況を作っているだけのことである。
そんな感じで悩み抜いた挙句、僕が辿り着いた答えは“お得”だった。
僕の中で“お得”は完璧にしっくりと“アド”の代替を果たしているように思えた。
そこからの僕は関数のぶち込まれたエクセルみたいに“アド”と言いたくなった時は“お得”と機械的に言い換えて、私立文系大学生活を乗り切ることにした。
「無くした財布が見つかってさ〜」
「それはお得やね」
「どのルートでいこうか?」
「こっちの方が早く着けてお得よ」
「あの子可愛くない?」
「ほんまや。お得すぎる」
そうして順風満帆キャンパスライフを過ごしていたある日、僕は友人(オタクではない)にこう言われた。
「お得って言う人珍しいよな」
友人の的を射た一言は、的と一緒に僕の帆も貫いた。
“お得”は確かにオタク語ではないが、かといって一般人が使う言葉でもない。
オタク語を使わないことを意識しすぎた結果、僕はそれに気付かず、違和感の塊みたいなワードを連呼してしまっていたのだ。
なんてことはない、僕の“オタク語”は、一般人の語彙になることなどなく、すっかり“オトク語”になってしまっただけのことだった。
う〜ん、ディスアド!
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