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医療系ドラマで描かれない事実

医療系ドラマは演者も患者もうつくしく描かれるので、本筋の人間からすると「ん?」ってなるときがある。

親戚の医者曰く、手術中に2階の窓越から喋ったりするどこかのドクターXを見て「あんなの存在しないから」と笑っていた。

オペ看の友人の体験では「手術中に会話なんかあり得ないし、少しでも手際が悪いと先生によっては檄が飛んでくる」なんて言われたことがあって、私は少しビビってしまった。

人命をあつかうだけに厳しいのは当然なのだけど、それ以上に厳しいのは、一命を取り留めた『患者』と、その患者の『見えない取り組み』だ。

ドラマだけに映像による巧妙なリアルさも相まって「医療は派手」と信じ込んでしまう人もいるのでは。

事実、描かれない部分はシビアで悲惨だったりする。


個人的に印象に残っているやり取りは、急性期から上がってきた患者さんとその家族の会話だ。

「あんた…これからどうすんのよ」
「家買ったばっかじゃない…」

ベッドに横たわる患者(旦那)さんに、面会に訪れた奥さんが開口一番に言い放ったひとこと。奥さんの暗澹たる表情がいまで私の脳裏に焼き付いている。

旦那さんは重度のマヒを負ったために、家族ともども今後はまったく別の生活を強いられることになる。連れ添う家族としてはあまりにも突如のことなので混乱を隠せずに、「未来が失われた」と憔悴してしまうケースはめずらしくない。


脳の障害のせいで、別人のようになってしまった患者さんがいた。

その方は昼夜問わず病棟をさまよってしまうため、リスク回避目的でベッドに拘束されたものの、その状態では大声を張り上げるので、看護師さん見守りのまま廊下を散歩をすることになった。

しかし見守りにも限界がある。

そこで睡眠薬が処方されたのだけど、そのせいで日中帯も寝てしまうためにお互い手も足も出せず、状態のコントロールがむずかしいと医師も悩みに悩み。

そんな日に日に変貌していく患者の姿に「こんなんじゃ…」と擦り切れたような声で、奥さんが小さくつぶやいた。


いまの医療制度上、入院期間はそれぞれの症状に応じて決められているので、医療チームが対応できる時間はそう長くはない。

つまり患者にとってみれば、退院後の生活のほうが長く、地味でひたむきな取り組みを延々と続いていくことになる。そこにはドラマのような派手さはなく、社会復帰に向けた患者やその家族の「見えない努力」がたくさん存在する。

ある意味、退院後こそが本番なのだ。

個人的な意見としては、医療系ドラマは救急や手術ばかりではなく、仮にもリハビリのような『患者のひたむきで、陽に当たらない』部分にもフォーカスしてほしいなと思うときがある。


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