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“パンパンガール”を語る「金ちゃんの紙芝居」11~【 ハニーさんたちの愛称と、セーラー服】

冒頭は、金ちゃんの自宅でもある「貸席」の縁の下に寝泊りしていたハニーさん(=パンパンガール)。
大柄だったことから、皆んなから「相撲(すもう)」と呼ばれていたことは以前、紹介した通り。

誰が「相撲」と名付けたかは不明だが、前回も紹介した、次の絵に描かれた5人の愛称の名付け親ははっきりしている。金ちゃんの母親・いねさんだ。

今回は、それぞれの愛称について、金ちゃんにもう少し解説していただく。


「赤ちっち」

━━ いねさんがつけた愛称は、それぞれ、とてもユニークなんですが、例えば、いちばん左の「赤ちっち」さんは、赤い服だからこういう名なんでしょうか?

金ちゃん ) そう。「あの人は、いつも真っ赤なものを着ているお姉さんだね」っていうんで、母親は最初、「真っ赤ちっち」って言ってましたけど、いつの間にか「赤ちっち」に変わり、周りの人も「赤ちっち」って呼ぶようになってました。

本人も「赤ちっち」で承認していたみたいです(笑)。

入れ墨

━━ 太ももに…。これは入れ墨ですか?

金ちゃん ) その人は、そこに入れ墨をしてたんですね。花の入れ墨だったと思うんですけど。

━━ 花?

金ちゃん)  牡丹だと思うんですけどもね。
それが自慢だったみたいで、何かあれば、それをペッと見せて…。
仲間内では、ちゃんとした(笑)…お姉さんだったみたいです。

「ちゃんとした…」というのは、「いっぱしの…」とか「一目置かれる…」とかいったニュアンスだろう。

「おっかあ」

━━ その隣の方は「おっかあ」。貫禄が…。

金ちゃん ) この人はかなり年配で、仲間から「お母さん」とか「婆さん」とかって呼ばれていて、私の母親は「おっかあ」と呼んでました。

「ゆうれい」

━━ その隣の方が「ゆうれい」…。

金ちゃん ) その人は見た目で…(笑)。細くて顔色が青くて、静かというか寂しい感じの人でねぇ…。それで「ゆうれい」。

━━ ちょっと気の毒な気も(笑)…
金ちゃん) そうですね。でも、ウチ(=貸席)に訪ねて来たときなんか、
「こんにちは」、母親が「誰だい?」、「ゆうれいです!」なんてやってましたからね(笑)、案外、本人も気に入っていたのかもしれません。

按摩膏

━━ 「赤ちっち」と「おっかあ」、それに「ゆうれい」、このお三方は、腕の所に黒いサポーターのようなものを付けていますよね。これは何でしょう?

金ちゃん ) それは按摩膏(あんまこう)といって、消炎鎮痛剤ですね。
でも、実を言うと、本人は腕が痛いわけでもない。

━━ というと?

金ちゃん) 入れ墨隠しです。

━━ あっ、そうなんですか?

金ちゃん)  入れ墨隠しに、按摩膏を貼ってる人は多かったです。

━━ 「ゆうれい」さんは、按摩膏の上の方にハート型…、これは入れ墨ですか?

金ちゃん ) うん、そうですね、それはあえて隠さない(笑)。オシャレのつもりかもしれません。

━━ なるほど。「赤ちっち」さんも太ももに入れ墨がありましたけど、隠す入れ墨と、隠さない入れ墨があったんですね。

「お人形さん」

そして、「ゆうれい」さんの右隣の人は「お人形」さん?

金ちゃん)  うん。「お人形」って言われるくらいカワイイ、色の白い、お姉さんでした。
で、いつのまにか、アメリカ兵にも「オニンギョサン」「オニンギョサン」と呼ばれるようになって、結構、モテてましたよ。

写し絵

━━ 「お人形」さんの肩の所にピンクの蝶々のような…、これも入れ墨ですか?

金ちゃん)  それは「写し絵」というんです。ご存じないですか?

━━ 初めて聞いた気がします。

金ちゃん) 薄いセロハンに図柄が印刷してあって、それにちょっと水をつけて腕に貼って、しばらくして剥がすと、印刷した絵がそこに残るんですよ。

━━ へぇ~。言ってみれば、入れ墨を簡単に作るみたいな…。

金ちゃん) そうです。

━━ じゃあ今でも、芝居とかドラマで、こうやって入れ墨を…。

金ちゃん ) 多分、そうだと思います。
当時は駄菓子屋とか、学校の前のちっぽけな文房具屋で売ってましたよ。もともと、子どもたちがよくやっていたんですよね。

━━ 写し絵をですか?

金ちゃん) うん、僕なんかもやったことあります。

━━ へぇ~。

そこまで聞いて思い出したが、僕の子ども時代(昭和40年代)にも、ガムのおまけか何かで、透明な紙に掻かれた絵を、指などで上からこすると、転写されるものがあった気がする。おそらく、それに近いものだろう。

最後に解説してもらったのが、前回の主人公、2年経っても立つことができなかった少女「どんぐりちゃん」。
田舎から来た、丸くてコロコロして小っこい子だから「どんぐりちゃん」、ということは前回、説明した通り。

この後、何気なく聞いた質問から、話は意外な展開を見せる。

「どんぐりちゃん」のセーラー服、実は…


━━ 「どんぐりちゃん」は制服を着てる時もあったんですか?

金ちゃん ) あのね、その制服は自分の制服じゃないと思います。

━━ えっ、そうなんですか!?

金ちゃん) 朝霞に着いてから、どこかで手に入れた制服だと思うんですよね。

「どんぐりちゃん」だけじゃなくてね、当時ね、制服…セーラー服を好んで着るハニーさんって、何人かいたんですよ。

見せてくれたのが、セーラー服のパンパンガールの絵、2枚。

セーラー服の魔力!?

金ちゃん) セーラー服っていうのは、あれなのかな…、やっぱりいいのかな?

━━ (笑)

金ちゃん) 私はよくわからないけど、セーラー服って言うのは多分、万国…

━━ 万国共通の…

金ちゃん) いいのかな? 「若い」っていう何か…なのかなぁ。

━━ そういうのが好きなお客さんもいるってことですかね?

金ちゃん ) うん、そうなんですよね。

きれいごとだけでは、まとめまい

前回、「どんぐりちゃん」について、

立てない少女は、ここにいる女性たち全員の心情を象徴する光景と言えるかもしれない

と、格調高く(?)締めくくったが、今回は最後になって、スケベなお客さんに「どんぐりちゃん」も対応していた、みたいな話になってしまった。

矛盾しているようだが、ある意味、それが現実だったのだと思う。

もっとも、「どんぐりちゃん」に関しては、おそらく自分の意思というより、「白百合会」の先輩に着るよう命じられたのだとは思うが、それはそれとして、性を巡る話には、絶えず、こうしたアンビバレントというか、二律背反的な要素が付いてまわる。

そういうものなのだ。

だから、安易に、きれいごとでまとめてそれで良し、とすべきではないのではないか?

迷いながらもそう思う。








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