初めて死と向き合った12歳の君へ【小説】
何一つ不自由はなかった。
14歳になるまで1人っ子だった君は、
親からの愛も、その血縁からの愛も、
独り占めして生きてきた。
ありがたい事に五体満足に産まれて、
視力も文句なし、勉強も中の上、運動神経はそこそこ良い。
何一つ不自由はなかった。
孤独を知るまでは、
思い通りにいかない世界を知るまでは、
世界は残酷だと知るまでは。
窓から見える景色はいつもと同じ
いつもと変わらない登校班、班長の君。
1年生が線からはみ出ないように、
険しい坂をぐんぐん登る。
「おはよう」
最近転校してきた友達と、
放課後も休みの日も遊ぶ友達、
いつもと変わらない朝、笑顔の君。
今日も窓の向こうの
都会の景色は
いつもと変わらずキラキラしてた。
違和感と虚無感
中休み。
「ドッジボールする人この指とまれ」
目一杯遊んで、汗だくの君。
教室に戻って3時間目の準備。
ヒソヒソ話をする友達。
自分の話じゃなかったかもしれない、
自分の話だったかもしれない。
違和感が背筋をなぞる。
目線を送った。
視線を感じて話がおわる。
ほんの些細な違和感と、
何とも言えない景色に虚無感を感じた。
窓の向こうの景色が
いつの間にか曇っていた。
産まれてはじめての孤独感
「いただきまーす」
牛乳2本目をかけた、給食おかわりじゃんけん大会。
全戦参加の君。
食べ物を食べれば満たされる。
虚無感は牛乳と一緒に流し込む。
昼休みのドッジボール
「今度は勝つぞー」
教室の窓際に集まる友達。
外に駆け出す君。
横目に見えた光景は、気のせいだ。
ドッジボールに誘っているんだ。
産まれて初めての孤独感を、
消し去りたくて、
思いっきり投げたドッジボール。
窓の向こうは、4階から見える景色だ。
小学生には充分過ぎる高さだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?