どこかのだれかの日々の記 池松アメリ その1

自分の考えや感じた事を、形式にとらわれないで書いたもの。

※三省堂現代新国語辞典 第5版

2041年6月

ひとりでいることが多かった。

私の家は常に高い所にあった。高層マンションの最上階に見晴らしの良いだけの丘の上に建てられた戸建て。誰も入ってこられない場所。暮らしに不自由する事はなかった。学校にも通っていたし欲しいものだって買えた。無かったのは人との関りだけ。

人との繋がりに憧れを持ち始めたのは中学生の頃。領貴スズ先生のエッセイを読んだのが始まり。軽快に描かれるスズ先生とご友人たちの穏やかな日々、何気なくも素晴らしい日常。私の中に無かった世界に初めて触れた時の衝撃と感動は今でも覚えている。自由に暮らしたいと何度か両親に話してみたが、生まれ持った私の性質で私が傷つく事を恐れた両親はそれを良しとしなかった。仕方ない。

それから数年が経ち、同級生たちがそろそろ大学受験を本格的に考えなければいけないという時期になった頃、両親が海外へ出張に行かなければならなくなった。最初、両親は断りを入れたそうだがどうしても無理だったようで3年ほど行かなければならなくなった。私は体質の事があるから海外には行けない。これは好都合だった。私は大学に関する様々な情報を集め、両親を説得し、遂に自由を手に入れる事が出来た。

決まってからは早かった。両親が出張に出立するまでに大学の近くの高校に転校し、私の一人暮らしが始まった。

自分の特殊な性質のせいで何かと制約が多かったが、それなりに楽しく過ごし勉学に励み、大学にも合格する事が出来た。

初めて大学へ行った時の衝撃は今でも覚えている。どこを見渡しても人、人、人。映像や画像越しにしか見たことのなかった人混みとの邂逅は私の心をワクワクさせるには充分だった。と言ってもまだ入学して3ヶ月も経っていない。けど、そう言えるほどの衝撃だった。

ただこれまで他人との関わりが極端に希薄だったせいで「友人」というものの作り方が分からなかった私は、今まで読んできた様々な書籍の知識を総動員して「サークルに入る」という選択をとる事にした。思い立ったが吉日。様々なサークルを見て回った中で、一つだけ良さげなサークルを見つけた。「私小説研究会」は女性しかおらず、私の体質にとってはとても好都合だった。早速サークルに入る事にした。

サークルに入ってからまだ2週間ほどしか経っていないこともあり、まだ「友人」と呼べる人はいない。サークルの活動や課題で使う書籍を探したり単純に趣味の本を読む為だけに最近はよく図書館に通っている。そういえば昔読んだ小説に主人公が図書館で後に親友となる人と出会うというシーンがあった。意識した事はなかったが、もしかするとそれを心のどこかで待ち望んでいたのかもしれない。

もうすぐ夏休みになる。「友人」と呼べる人に早く出会いたい。


※ この文章はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。

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