どこかのだれかの日々の記 緒風岐ハヤト 編 その1

思索や意見、感想などを形式にとらわれず、簡潔に述べた文学の一ジャンル。エッセイまたはエセーは日本語では一般に「随筆」の意味で用いられ、文学の一ジャンルとして確立している。
日本大百科全書(ニッポニカ)「エッセイ」より


日記 #1 08/12/2041(月)

どうやら俺には日々の感動を覚えておく能力が欠如しているらしい。

子供の頃から薄々感じていたが、先日、担当と話していてようやく腑に落ちた。

担当が言うには俺の漫画は淡々としすぎているらしい。

言われてすぐは納得がいかず、打ち合わせの空気を悪くしたままにその場を後にしてしまったが、帰りの電車の中で思い返してみると私の中に「感動を覚えておく能力」が欠如しているのが悪いのだ。担当が悪い訳ではない。

しかし、元から欠如しているのだからしょうがないだろうと悶々としていると同じ車両で俺の対極に座っていた若い女性2人が日記を書くとかどうとかという話をしているのが聞こえてきた。

そこでハッとした。

日記に感動を記しておけば覚えていなくても読み解けるのではないだろうか、と。

その気付きから今まで少し時間が経ってしまっているが問題ない。

書き始める。

もう30歳をとうに回っているが、今からでも遅くないだろう。



日記 #2 08/13/2041(火)

休憩時間に公園を散歩した。

夏休みだからか、子供が多かった。

俺があの子たちくらいの頃には地球温暖化だとか色々言われていたが、いろんなブレイクスルーが起きた事で今の時代でもまだ子供たちは夏に外で遊べている。

逆に俺は子供の頃は外で遊ばなかったように思う。

それがなんでだったのか。単純に外が暑すぎただけだったからという気がする。

世間でも「夏に屋外は危険!」と言われ始めていた時代だったから、夏に外に出向く時は必ず帽子と飲み物を持たされていた事も覚えている。

あの頃に比べて今の方が夏の平均気温が下がっていると知ったらあの頃の人たちはどう思うだろうか。きっと信じられないだろう。俺もまだ信じられていない。

そんな事を考えながらベンチに座っていたら休憩時間が終わってしまっていた。



日記 #3 08/14/2041(水)

今日から短めの盆休みだ。

大雨が降っていた。

11月末の打ち合わせまでには原稿を完成させておかなければならないが、今日は何もやる気が起きなかった。

雨のせいもあったが、単純にやる気が起きなかった。

夏バテだろうか。

日記を書く事も憚られるほどにやる気がない。

特に書く事もないから今日の日記はこのくらいでいいだろう。

明日には洗剤を買ってこないとダメだ。



日記 #4 08/15/2041(木)

盆休み2日目。

明日から3日間ほど実家に戻るから今日のうちにこっちでやっておくべき事をやらねばならない。

若い頃は盆休みと言えば正月休みと並んで街の営みが変則的になるものだったが、もうどちらも損な事はない。

技術の発展で、人間がいなくともある程度機能するようになってきている。売買はもちろんの事、役所の煩雑な手続きもツールがアシストする事でかなりスマートになった。

未だに人間が仕事を完全に奪われた事はない。

そんな事はどうでもいいのだが、旅行用のカバンを出したら見事に底が抜けていたから買いに行った。

毎年の事ながらこの時期のショッピングモールはひどく混雑していたが、あれくらいがちょうどいい。

人が居なさすぎるよりもいい。

だからつい本や雑貨を買ってしまう。

甥や姪へあげよう。

姉や弟は多分いらながるだろうが。

それにしても昨日の雨はなんだったんだろうか。

今日は雲一つない晴れ空だった。



※この文章はフィクションです。実在の人物・団体などとは関係ありません。

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