どこかのだれかの日々の記 布寺童ミキ その2

随筆:文学の一ジャンルで、自然や人生などに関して、見聞や感想・批評などを、筆のおもむくままに記述したもの。

三省堂 全訳読解古語辞典 第四版


2041年12月22日

姉さんへ

 今日はサク先輩と買い物に行ってきました。以前の手紙でサク先輩が栄熨眞先輩に告白をして付き合いはじめたという事を書いたと思います。私としては姉さんが取られた気分で正面から喜ぶにはまだ少し時間がかかりそうで、サク先輩の表情が今までに比べて少し晴れやかになったのを見ていると筆圧が少し強くなってしまいます。本当はたくさんお祝いがしたいのに、中々難しいです。

 そんな中でサク先輩がクリスマスにデートするという話を聞いた事が今回の買い物の発端でした。きっと初めてのクリスマスデートは特別になると思うから、多少なりともファッションセンスに自身がある私が服を選びたかった。サク先輩に精一杯のキラキラした思い出を作ってほしくて。

 ごめん、嘘です。本当は姉さんにしてあげたかった事を、代わりに先輩にやっただけです。嘘を書いちゃ、姉さんにも先輩にも良くないね。ごめんなさい。けど、先輩に素敵な思い出を作って欲しかったのも本当。その思い出の中に私がちょっとでもいられたら良いなって気持ちも少しはあったけど。気持ち悪いかな。委員会も明日で引き継ぎだし、年が明ければ先輩たちは大学受験の本番が始まる。そうなったら卒業まですぐ。今のうちに先輩との思い出を作りたかっただけなのかもしれません。もしかするとこれが最後になってしまうかもしれないし。

 服を選ぶついでに沢山お喋りしてたくさん笑って、今まで以上の思い出を作れたと思う。写真は一枚しか撮ってない。姉さん知ってた?私って写真を見る才能があるんだよ?自分で撮った写真限定だけど、撮った時のいろんな事を鮮明に思い出せるの。レンズの外側で起きてた事も、音も、温度も、匂いも、自分が何を思ってたのかも、全部。すごいでしょ。だからいつもいっぱい写真を撮るんだ。いっぱい思い出せるように。でも今日の事は、出来たら褪せていってほしい。消えそうな記憶が、たまに思い出せたらいい。多分、そうしないと眩しすぎて進めなくなるから。こんな事、姉さんに言っても仕方ないよね!ごめんね。

 そうそう、先輩の服はバッチリだよ。栄熨眞先輩の好みはリョー先輩から聞いてたしサク先輩からも聞いたからね。安心してください。先輩は緊張してたけど、きっと大丈夫。なんてったって私が選んだ服だからね!

じゃあ、またお手紙書くね。お姉ちゃん。


2042年3月1日

姉さんへ

 今日はサク先輩たちの卒業式でした。よく晴れていて、日差しも強すぎず弱すぎず、とても清々しい一日でした。今日初めて知ったけど、どうやらサク先輩と栄熨眞先輩は卒業したら一緒に住むそうです。

 いや、一緒に住むというと語弊があるかもしれません。正確には県外への進学で大学近くのマンションの別々の部屋に引っ越すそうです。どうやら同じ所に目星をつけていたみたい。しかもお互い打ち合わせも何もなしでそうだったらしいです。幼馴染だからって限度がある気がします。その上2人は付き合ってるんだからほぼ一緒に住むと言ってもいいと思ってそう言いました。姉さんもそう思いませんか?

 少し話が逸れました。ごめんなさい。卒業式での先輩たちの表情はとても晴れやかでとても綺麗でした。式の後、校舎のあちこちで写真を撮り合ったり話したりしてる先輩たちはとても楽しそうで、素敵で。だから私は誰にも見えない場所でこっそり1人で泣いていました。誰にも聞こえないように静かに。姉さんも知っているように、私は小さい頃から何回も1人で泣いていたから泣いていた事に気付かれない方法も体得しています。泣いていたのをバレるのは恥ずかしくて。ひとしきり泣いてから先輩の所に向かいました。けど先輩には敵いませんでした。バッチリの笑顔で行ったのに、「また1人で泣いてたな?」ってちょっと叱られました。バレてました。今までにこっそり泣いてたのもお見通しだったみたい。今までバレたのは姉さんだけだったのに。やっぱり先輩と姉さんは似ています。そう思った途端に流しきったはずの涙がまた沢山出てきてしまって、先輩を困らせてしまいました。けど、ざまーみろ!って感じです。

 先輩の予定が詰まっていたからたくさんは話せなかったけど、先輩の引っ越し先に栄熨眞先輩より早く入場する権利を貰えました。しかも栄熨眞先輩公認です。そこは少しムカつくけど、先輩の顔に免じて許そうと思います。色々あった今日だけど、初めて先輩の前で泣いて、ちょっと気分が晴れやかになりました。写真は一枚しか撮れなかったけど、今日はこうで良かったのかも。

 じゃあ、またお手紙書くね。お姉ちゃん。ありがとう。


※この文章はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。

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