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自立と尊厳とおにぎりと 〜虎に翼64-65回が良すぎて感想を書かずにはいられなかった話

「いい母になんてならなくていいと思う。自分が幸せじゃなきゃ、誰も幸せになんて出来ないのよ、きっと。」

連続テレビ小説「虎に翼」第65回より

そう!!そうだよ!!!!!!!


梅子のこの言葉は子育てに奮闘している全ての母親に届いてほしいし、特に障害児を育てている母親にこそ届いてほしい。
障害児を育てるということは、毎日生きるために自分の尊厳を削りがちなのだ。
奴隷になったのではと思えるほどの日々を送っていることもある。
毎日生きるか死ぬかの瀬戸際にいるような家庭ではこの言葉も空虚な綺麗事にしか聞こえないかもしれない。
それでも、届いてほしい。
あなたにも、私にも、幸せに生きる権利があると。


「虎に翼」第13週の第64・65回は驚きの展開で情報量も多くて、感情を揺さぶられっぱなしであった。

第64回。
手塩にかけて育てたはずの三男があろうことか夫の妾と男女の仲になっていたいたことが明らかになった。
その後の、梅子の狂気を含みながらどこか軽やかな泣き高笑いからの敗北宣言、そして以下の台詞。

「育ててあげられなくてごめんね。
お互い誰かのせいにしないで
自分の人生を生きていきましょう。

ごきげんよう!」

「虎に翼」第64回より

母・妻・嫁などの自分に課せられた役割を遺産ともども全部放棄して、襖を開け放ち、明るい外の世界へ出て行った梅子に「よくやった!!」と画面の前で拍手喝采であった。
平岩紙さんのお芝居が圧巻すぎた。

梅子が出ていけたのは、彼女が法を学び、知識を身につけていたからだ。
梅子さんは大庭家で声を奪われていたが、彼女が身につけた知識は誰であっても奪えない。
知識があるだけの頭でっかちを冷笑する向きが平成の頃はあったと思うが、令和の今は学問や知識を身につけることへのリスペクトがきちんと表現されている作品が多いと感じる。
知識があれば、取れる選択肢が見えてくるのだ。

梅子の選択は、現代であっても良しとしない人はそれなりにいるだろう。
子どものために自分が盾となり戦い続けた人ほど受け入れられないのではないか。
子の立場からしても、母から直接「子育て失敗した」と告げられ捨てられるのはあまりにも残酷だ。
それでも私は梅子を支持する。


理由は2つ。
子育ての仕上げは、親離れ・子離れであるからだ
既に仕事をして結婚もしている長男はもちろんだが、
アルコール依存であるように見える次男は、梅子が家出の時に置いて行ってしまったと言う後悔からイネイブラーになってしまっていたし、
三男は梅子と距離が近過ぎて自他境界が溶けて共依存となっているようであった。
そんな息子たちを母の方から突き放し、強制的にでも母子分離をしたことは、彼らに必要なことであったと思う。(母子分離の重要性!)
事実、彼女がすべて放棄したあと、3兄弟に遺産が等分される方向で話がまとまったと語られた。
梅子は親としてやるべきことはやったと思う。
彼女の子育てが本当に失敗したのか。
まだ答えは出ていない。
それは、息子たちがこれからどんな人生を送るかにかかっている

もうひとつは、梅子の決断が、彼女の尊厳を守ることとイコールだったからだ。
母・妻・嫁と様々な役割を押しつけられている女性も、中身は尊重されるべき1人の人間。
まさに

「生まれた時から私でいたんだ 知らなかっただろ」

本作の主題歌「さよーならまたいつか!」の歌詞の一部

ということだ。
昨今、「毒親」という言葉が認知されているように、その特権的立場を使って子の人権を無視して搾取する親からは逃げていいというコンセンサスが広まりつつある。
この場面では、親の立場にある人であっても、自分の尊厳を擦り減らしてまで家や子に滅私奉公しなくて良い、「それは搾取だ」と明確に示してくれた。


ブギウギの茨田りつ子様のクロスオーバー再登場も大変嬉しかった。
オープニング飛ばして見ていたので、驚きすぎて画面の前でリアルに声出たわ…
りつ子は、ブギウギの中で自分が生んだ子を自分では育てず、死ぬまで歌手として生きることを選んだ人であること、
そして、戦時中は慰問先で若く幼い特攻隊員たちが出陣していくのを見送るしかなく深い悲しみと後悔を抱えている人であることが描かれていた。
りつ子本人も「絶対引き受けていた」と発言していたように、多岐川の「愛の裁判所」の理念に共感して出演を引き受けるのも納得だ。
単なる視聴者サービスではなく、全く脚本に無理がない。
おそらくりつ子は、子育てしながら働く寅子に、どこかスズ子を思い出していたのかな…と想像が働く。
ブギウギ本編では確か一度しか流れなかった雨のブルースが再度聞けたのも嬉しかった。



全てを放棄して籠から飛び立った梅子と、ワンオペに苦しむ花江の邂逅。
花江は誰かから主婦としての役割に押し込められていたのではなく、自ら望んで主婦になった人だ。
しかし現実はやってもやっても終わらない家事に忙殺される日々、余裕などどこにもない。
そこで、梅子が
話なら聞くけど?
である。
梅子は人の心の機微に気づくことができ、柔らかく話しやすい人柄だ。
人の話を深く聞く必要がある職業に向いていると思う。
轟弁護士事務所でも、轟とよねの足りない部分を補って余りあるのではないか。

話が逸れたが、花江である。
花江は、完璧であった義母・はるの代わりにならなくてはと奮闘していた。
それが冒頭に引用した梅子の言葉で、はるの代わりになるという自分に課した足枷から方向転換するのである。
茨田りつ子がラジオで「困ったご婦人方は佐田さんをお訪ねになって」と呼びかけていた。
困ったときには助けを求めてよいし、他人を頼ってよい。
りつ子がラジオで語った言葉は、花江が子どもたちに「お願い」をする最後の一押しになったのだろうと思う。

お願いされた子どもたちは、とても嬉しそうだった。
誰だって人の役に立ちたいのだ。
それが大好きな人ならなおさら。
子どもだってそう。
「大好きなお母さんの役に立てる」と子どもたちはやる気になった。
家事の一部を子どもたちが担うことは、子どもたちの自立(精神的にも家事スキル的も)にも良いことだ。
(余談だが、発達に特性のある子を育てていると、心理士や作業療法士などの専門家から「お手伝い」を勧められる。その理由は上記である。)

お義母さんは、私みたいに甘えるのは上手じゃなかったものね〜
と軽やかに言える花江、一晩でキッパリ切り替えたところが清々しい。
そう、花江は元々こういう人だった。
自分を受け入れ、得意なことをして、自己肯定感高く生きていってほしい。
やっぱり花江は本作のもう1人の主人公だ。


そして、おにぎり!!!!
梅子のおにぎり、私も食べたい!!!
ってことで、ひとつだけだけど作っちゃった。
大きくてまんまるなおにぎり。
もちろん自分で食べるためだけにね!

梅と少しシラスを入れてみた

何が嬉しいって、梅子のおにぎりが寅子と汐見を経由して、香淑(香子)にも届いてること!!!
自らの選択とはいえ、素性を隠して外国での初めての出産と育児。
汐見と多岐川はあの時代にしてはとても協力的で理解のある家族だと思うが、それでも、日中は乳児と2人きりなわけで、心細くないはずがない。
女子部時代、梅子と香淑は特に仲が良かった。
梅子が無事で寅子とも繋がりがあることが、香淑にだけわかる形で伝えられた…!
そりゃ香淑も静かに泣きながらおにぎり頬張るよね…!!!
おにぎりの差し入れが香淑の負担を軽くするものだってことも含めて、胸がいっぱいになった。
今はまだ無理でも、梅子と香淑が劇中で再開する日を心待ちにしている。


ところで、虎に翼ってまだこれで折り返し??
既にぎゅうぎゅうに詰まっていて、まだあと半分残っているの???
なんて贅沢な2024年度上半期だ!!!!
14週からはついにあの人も登場するみたいだし、これからもずっと目が離せないね。

虎に翼に限らず毎回思うことだが、朝ドラが面白いと生きようと思える。
日々の生活に精一杯であっても、ぜったいひとつは楽しみがあるから。
明日からも楽しみ!!

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