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トイレの詰まりを解消した長い長い話

もう8割ほど眠りに落ちている。
そんなときに夫に声をかけられた。

トイレ、流れないんだけど…

はあ。
まじか。
この意識を手放さんとする1日で一番気の抜けた時間にわざわざ起こすようなことか?
だいたい起こされたところで私は解決策を持っておらんぞ。
トイレの詰まりくらい、世の中で何百万人と経験してんだろ。
ググれば良い知恵があるはずだ。
妻を起こすより先に君にはやれることがあるはずじゃないかえ?

というようなことを、8割眠っている頭で思った。
もう身体は完全に眠りに入っていて、動かそうと思っても動かせない。
金縛りと同じ状態だ。

とはいえ、トイレを詰まらせたのは夫ではあるまい。
子どもたちが紙を使いすぎて詰まらせたのであろう。
夫は何も悪くない。
排泄は暮らしの中の基本中の基本。
保育指針の養護・生命の保持、
発達支援の5領域でいえば「健康・生活」に入ることだ。
そう、我々家族が健康で文化的な最低限度の生活を送るためにも、トイレが当たり前に使えることはMUST条件なのである。
それが脅かされている今、私が起きられない今、夫は我々のためにどうやら孤軍奮闘しているらしい。

ここらへんで金縛りが解けて、とりあえず起きてみることにした。
何も力になれないかもしれないが、私も自宅のトイレを使うひとりで、この家庭の共同経営者のひとりだ。
無関心ではいられまい。

とりあえずスマホのブラウザで「トイレ 詰まり」を入力しつつ夫に状況を尋ねると、
「ぬるま湯を注いでみている」
とのことだった。
ほうほう。
トイレットペーパーは水溶性で、お湯の方が溶ける速度が高くなるらしい。
ただ、便器は陶器製で熱湯はNG。
40〜60℃くらいのお湯が良いと某大手水道修理業者のWebページに記載がある。
この記載を見たら、私なら給湯器をMAXである60℃に設定してお湯を入れるのだが、
夫は40℃のぬるま湯をゆっくり断続的に便器に注いでいる。
こういうところ、夫と私の性格の違いがよく表れていると思う。

まだあまり覚めてない頭のまま便器の中を覗くと、流れなかったトイレットペーパーが細かく雪のように散り散りになって水中を舞っており、スノードームのようになっていた。
水が外に溢れてはいないが、氾濫危険水位に達しているのは一目瞭然である。
夫によれば、十数分ほどかけて水位は徐々に下がっていくというから、完全に詰まって塞がれてるわげではなさそうだ。

詰まりの原因は大量のトイレットペーパーなのは間違いない。
だとすると、いずれ溶けるはずである。
先ほどのWebによれば、2-3時間待ってみて、自然に解消することもあるらしい。
私はとにかく眠いのだ。
このトイレを使用する当事者として、そして円滑な夫婦関係のために何より寝ることが好きな私が鞭打って起きてきたのだ。
朝になって解消していることを期待して、ここはもう休もうじゃないか。
そう夫に提案すると、
「わかった。もう寝よう。でも明日の朝、直ってなかったらどうする??小はなんとかできるかもだけど、大はできないよ。」
とめっちゃ心配している。
彼は必ず朝に排便をする健康的な生活を送っているからな。
それならそれで、インターネットの知恵を借り、お湯以外の他の方法を試してみるまでだ。
それがダメならプロに頼もう。
そう言って、やっと就寝することができた。
はあ。面倒な問題はあとだあと。
お布団最高である。


翌朝。
私は特に早く目覚めることもなく普段通りに起床し、先に起きている夫にトイレの様子を尋ねた。
元通りになったよ、の回答を期待していたが、残念ながら彼は首を横に振った。
第二の手段であるクエン酸と重曹を使い、汚れや滑りを落として流れやすくする、という方法を既に試してくれていた。
結果は惨敗。
ほぼ状況は変わっていないとのことだった。
気落ちしているように見える夫に、まあ悪化していないだけマシじゃないか、と言ってみた。

さて次の方法は、物理的に詰まりを取り除く方法である。
針金ハンガーを針金に戻して、便器の奥に突っ込み、中に詰まっているペーパーを少しずつ崩していくという方法だ。
この方法を試してはじめて認識したのだが、トイレは流すと奥に吸い込まれて見えなくなったあと、いったん上方に流れ、その後ジグザグに下方に流れていく。
なんとなくそのまま下に落ちていくイメージを持っていたのだが、そうではない。
逆流などを防ぐための構造なのだろう。
知らなかった。知ろうとしたこともなかった。
身近にあるものでも、世の中知らないことで溢れている。
先人たちが100年先に残すために試行錯誤を重ねた結果がこうして我々の快適な暮らしを支えているのだ。
そういう時代の流れの中に我々もいるのだ。
トイレは相変わらず流れてないのだけど。

次の物理で殴る手段は、ペットボトルを使って水圧をかける方法だ。
あればすっぽん(ラバーカップ)でやるのがいちばん良いのだが、あいにく我が家には常備されていない。
そういえば子どもの頃には家にあったような気がするので、昔のトイレは水洗でもよく詰まったのだろう。
技術の進歩は素晴らしい。

そしてもうひとつ素晴らしいのは、すっぽんがなくてもペットボトルで代用ができるという知恵がインターネットに載っていることだ。
そう。
我々がぶち当たる問題というのは、私にとっては人生で初の問題であっても、人類にとって初では無い。
こんな凡人がぶち当たる問題、人類にとって初めての問題であるはずがない。
絶対に同じことで悩んだ人がいるはずなのだ。
インターネットには、先に同じ問題に直面した人がどうやってそれを解決したかという情報に簡単にアクセスできる。
すっぽんをペットボトルで代用できるなんて凡人の私には絶対思いつけない。
こういうのが良いインターネットだよな。

使うペットボトルは、サイトによって2Lのものだったり500mLのものだったりと違っていた。
流派があるのか。
ペットボトルすっぽんの流派。

幸いなことに、家にはもうすぐ空になりそうな2Lのやさしい麦茶のペットボトルがあった。
普段であれば、子どもたちが登校する直前に「あ!水筒!!!」と慌てて入れることが多いのに、この日は登校時刻の1時間ほど早く水筒が準備された。
トイレが詰まれば準備が早くなる。
ほんの一瞬、トイレの詰まりもたまには良いことのような気が…するわけない。

空にしたペットボトルを口から便器に突っ込み、中の空気を送り込むようにペットボトルをポンプのように潰していく。
しかしペットボトルはポンプではないので、潰してしまうと形は元には戻らず、すぐに役立たずとなってしまった。
これも失敗だ。

こうしたところで、夫が
オレ、会社どうしよう…
と言い始めた。
いやいや行きなよ。
今日は私が在宅だから対応できるし2人もいたところでトイレはひとつなんだからいても仕方ないでしょ。
それよりも、トイレはいつ復旧するかわからないのだから、会社のトイレで排便するのが良かろう。
そう言うと夫は、
「したくなったら嫌だから、今朝は朝ごはん食べてないんだよね」
と。
そうか。トイレの詰まりは便秘も引き起こしかねないし、朝ごはんも抜かしてしまう。
全く、身体に悪いな。

後は任せとけ!!!
と夫を送り出し、子どもたちも送り出す。
我が家の子どもたちは子どもだけで登校できないので、親が送って行かねばならない。
トイレ問題は一時ストップだ。
途中、チョコが給食袋を忘れたことに気づき、子どもたちを先に行かせて私は取りに戻った。
通学路の1/3ほどをピゴとチョコの2人だけで歩き、無事に登校できた。
これはなんと素晴らしい!
トイレが詰まった日が、ひとり登校に向けての大きな前進が見られた日になったわけで、これは忘れられない日になるだろう。

さて、無駄に時間を食ってしまったが、焦っても良いことはない。
家族を送り出した私は、ゆっくり朝ごはんを食べて朝ドラも見てから、再度問題に取り掛かることにした。
奇跡的に自然解消してないかなと淡い期待をしたが、現実はそう甘いはずもなく、トイレは相変わらずスノードーム状態だった。

もう試せることは一通りやったかな…
家族が帰ってくるまでに出来れば解決しておきたい。
こうなったらプロを頼ろう。
我が家はマンションだ。
管理事務室には、近隣の業者リストがあるはず。
管理人さんもそろそろ出勤している時間だ。
ゴミを清掃業者が持って行きやすいように整理している管理人さんを呼び止め、水道工事業者の連絡先のコピーをもらった。
さっそくその業者に電話をかけたが、小さな会社なので、既に社員は皆現場へ出払っており、当日中に訪問することは出来ないと言われた。
代わりに、管工事組合のフリーダイヤルに電話をかけ、所属する業者を紹介してもらうと良いことを教えてもらった。
管工事組合からは近隣の業者を複数紹介してもらえた。
ただ、水道工事業者というのは小さな会社が多く、すぐ対応してもらえるかはわからないとのことであった。
それでもトイレが使えないのは生活に支障が出まくるので、早急に解決しなければならない。
出来るだけ電話をかけたくない電話恐怖症の私が初めましての会社に電話をかけるというのは、相当にHPを削られることなのだが、背に腹はかえられぬ。
完全にスイッチをオン、モードをビジネスにして電話をかける。

1件目、今日は対応できない。他を当たってくれ。
2件目、今日は無理だと思うが、お困りなのはよくわかる。
ダメ元で調整してみるからしばし待て。
3件目(2件目の結果を待てなかった)、今日は対応できない。

惨敗じゃないか。。。
どうするよ。。。


トイレを詰まらせたことは、実はこれが初めてではない。
数年前、ピゴがまだ幼児でチョコがまだ影も形もない頃に、一度発生した。
流せるおしり拭きを詰まらせてしまったのだ。
その時は、冷蔵庫に貼ってある「水のトラブルはこちら」というよくあるマグネット広告の業者に頼んだ。
数時間後に来てくれて、一瞬で解決した。
でも数万かかった。
広告には数千円と書いてあったのに。
あとで調べて、悪質な業者のよくある手口だと知った。
もう二度とマグネットの業者には連絡しない。
そう誓ったのだ。
水道修理業者のマグネットはそれ以来、貼るのをやめた。

そういうことがあったので、今回はわざわざ正規ルートで紹介してもらったというのに。
正規ルートでは業者がつかまらないなんて。
闇米を拒否して亡くなった判事と同じじゃないか。だいぶ違うか。



というわけで途方に暮れかかった矢先。
そういえば、ペットボトルすっぽんには流派があったのだったと思い出す。
先ほどは2Lペットボトルを使ったが、冷蔵庫には一本だけ500mLのペットボトルもあったはずだ。
あれを使ってみよう。
中身は水だったのだが、それを空にしようとして気づく。

私、今日薬飲んでないじゃん!!!!

やっぱりいつもと違う、他に気を取られることがあると、こういういつものルーチンがすっかり抜けてしまう。
ADHDあるあるだ。(よね?)
でも水を飲むという行動で思い出せたのだからえらかったよ私。

んで、無事に薬を飲んで、水もガブガブ飲んで、はあーっ!
…で、なんだっけ?
そうそう、このペットボトルをすっぽん代わりにするんだった!
何をしようとしてたかすぐ忘れるのもADHDあるあるだ。(よね?)

さてダメ元で試したペットボトルすっぽん500mLバージョン。
説明にある通り、底を切ったペットボトルを抜き差ししていると…
ん??
んん???
便器の奥から、チョロチョロと水の流れる音が聞こえる。
これは!もしや!!
ふと見ると、便器内の水位も大幅に下がり、もうほぼ底をつきそうだ。
おそるおそる、水洗レバーを小の方に回してみると…

流れた!!!

流れたよ!!!!!

わー!!!
ついにやってやったぜ!!!
めっちゃ感動!!!
ハイタッチしたい気分だったがあいにく家には誰もいない。
なので思わずインスタにあげちゃったよ。
いいね!してくれた友人たち、感謝でございます。
志半ばで離脱した戦友(夫)に、君の遺志を継いでついにやったぞ!とLINEすると数分後に
「Hooray!」
と返信があった。
彼の職場の公用語は英語なのである。
それはわかるが、妻へのLINEまで英語でなくても。


もう今日はかなりの大きな仕事をしたんじゃないかな!
無事に解決できると気分いいね!!

詰まりの原因を作ったであろう子どもたちにママはやったぜ!!とアピってみたが、反応は極薄だった。
彼らは今回の問題で特に大きく困った瞬間はなかったし、
解決に向けての苦楽を共にしていないので当然である。
それでも少しさびしい。


ところで、こういう突発的なイレギュラーが発生し、それを無事に乗り越えられるとテンションは上がるものである。
普段ではしないようなこともしてしまう。
この日は、朝にご飯を炊いて冷凍していたのに、それをすっかり忘れて夜にもご飯を炊いてしまった。
炊き忘れることはしょっちゅうある私だが、
炊いたことを忘れるのは初めてだ。
とりあえず米を食べねば!!!と、夕飯は、夫の好物でもある炒飯になった。
炒飯のレシピは、料理研究家のリュウジさんの至高のチャーハンだ。
かなり雑に真似をしたが、じゅうぶん美味しかった。
インターネットのおかげである。


夜。
インスタにアップしたおかげで、トイレ詰まり解消のプロを自称する友人からメッセージがあった。
お湯やクエン酸など化学的アプローチはやはりあまり有効でなく、すっぽん一択ということであった。
すっぽんの1回の圧をどれだけ無駄なく掛けられるかが勝負だと。
なるほど。
これもインターネットのおかげである。


トイレ詰まり、またなっても今度はもっと短時間に上手く解消出来る気がする。
どんとこい!
いや、もう詰まらせないでくれー!!!!


次のタスクは、◯×メモか四コマメモあたりで、トイレットペーパーの適切な使い方を再度書いて貼っておくことだな。
再発防止策を講じねば、意味ないからね!!

今回使った物たち


はいおしまい!

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