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サくら&りんゴ #57 不審者

隣の1歳半の男の子ルカが、ママのお迎えで玄関ドアを出てほんのしばらくしてからである。
外で奇妙なうなり声が聞こえた

先日から時折お隣の子供たちのベイビーシッターをしている。部屋を片付けて、遅いランチを取ろうと座った時である。

声があまりに近く聞こえたので、窓から外の様子をうかがう。
すると見知らぬ男が家の敷地内を歩いているではないか。

だ、誰?


夏場は時折、ビーチにたどり着きたい人が通り抜けてもいいかと聞いてくることがあった。
しかしその男はビーチを目指しているどころか、足元がおぼつかない。
男の顔に見覚えはない。

とにかくさっさと通り抜けてと息を殺して窓から遠目に見ている。

すると男はふらりと踵を返し
玄関側に向かっている。
そして家のドアを見つけるやいなや木製階段を上がって
こっちにやって来るではないか!

いったい何?

私はとっさに
ルカたちが家を出た後ドアロックをしたかどうか確信がもてなくなった。

彼は叫んだりツバを吐いたりしながらガラスドアをたたいてきた。

ドンドンドンドン

心臓が跳ね上がる。
そして次の瞬間 
男はまさにガラスドアのハンドルに手をかける

恐怖!


カチっ
ドアがロックで引っかかった音がした。

私は壁の後ろから安堵の息を吐く。

しかし男はカギがかかっていることを知ってさらにガラスドアをたたく。

ドンドンドンドン

私は縮みあがって、男に見つからないようそうっと後ずさり。
壁の後ろを回ってiphoneをつかむとバックドアから外へ出た。

さっき家を出て行ったばかりのお隣のジュリアを外から呼ぶ。
返答がない。
私は男から見えないように家の反対側をすり抜け通りに出た。
二軒向こうの人が、男の声を聞きつけて外に出てきている。

知らない男が玄関にいるの

そっと伺うと男はガラスドアのところでうずくまっている。

私は911をコールした。


あー久しぶりだ。この番号にコールするのは。もう二年ぶりかもしれない。
夫の病気で何回コールしたことか。
しかし今はそんなこと回顧している暇はない。

Police or emergency?
Police please

11回目の911は救急車ではなく初めての警察。

向こうに住むポールも出てきてくれた。

スマホの向こうから

どうしました?

見知らぬ男が家に侵入しようとして

銃器の所持はありますか?

ないと思います

男ですか女ですか?

男です

何歳くらい?

30-40

どんな状態ですか?服装は?
ポールは男に近づいて様子を確認し私に代わって電話の質問に答えてくれる。

口から血が出ている、ケンカしたかなんかのような、明らかにドラッグ入ってる様子です。

出血と聞いて救急車も送ると電話が救急に切り替わる。

住所は?
   
Adams road……夫のために何度もコールしたおかげで、最近はすんなり通じるようになった子音のつながる発音である(笑)

ほどなくして3台のポリスカーと懐かしの(!)救急車が到着した。
男はドライブウェイでかがみこんだまま。
警官5人が男を取り囲む。
救急車からパラメディックが下りてくる。

ここでやっと大きな安堵。
長袖シャツ一枚で出てきてひどく寒いことに気づく。

とりあえず事なきを得たが、ある意味一気に不安になっている私である。

夫がいるときは、家の建築作業があったのでドアのロックだけでなくバンのロックも開けっ放しが常であった。それでも何もなかったほど、のどかな湖畔の田舎町。
夏場、向かいのジャンが、子供たち(ティーンエイジャー?)が夜、悪さしているようだから、車のロックしておくようにねと言ってくれた。私など、みんなロックしてないのと驚いたものである。
世界一安全な日本の、ちょっとだけ危ないかもしれない東京に30年住んで、ロックをしなかったことなんてないですけど・・。
去年、ビーチクラブがビーチに監視カメラをつけたので、いったい何のために?と聞くと、ビーチのベンチ(!)が盗まれたとのこと。なるほど物騒である・・・・。

そういえば、まだカナダに来たばかりの頃。
夫の仕事に付き合ってトロントに来ていた。
すると若い男性とちょっとしたことが起こって、彼はお詫びに私たちに歌を歌うとギターを持って来た。
へーカナダの人っておもしろいのね~
私はのんきに構えている。
彼はどこかで歌を歌っているらしかった。
夫と私の名前は、世界的に有名なシンガーとその妻の名前と同じで、そのことからいくつか有名どころの歌を歌ってくれて、最後には私たちのためにと即興で作ってくれる。
夫は横目で見ながら仕事を続けている。
私は優しくも無知で彼の歌にずっと付き合っていた。
終わりそうにないので夫がとうとう私に

相手にするな、ラリってるだけだ

私はひょっとして朝からアルコールでも入ってるのぉ?くらいに思っていたのである。

ドラッグからあまりに遠くにいすぎて、そんな見分けもつかなかった私であった。夫に追い払われてもなお、なんだか気持ちよさそうに男は行ってしまった。

今日のガラスドアドンドン男はいったいどんな状況だったのだろう。
こちらは怖くもあったが、警察の人が私の連絡先を聞きながら、多分事件性なく連絡することはないと思うけどということで、ちょっと安心した私である。電話で、年恰好や服装を聞くより早く来てくれと思ったが、指名手配者と比較していたのかもしれない。


昔L.Aに住んでいた時は、安全面が一番の懸念であった。外に駐車するときは車の中のものが外から見えないようにすべてシートの下に隠したり、アパートメントのカギをかけないなんて考えられなかった。ある時、真夜中にヘリコプターが飛んで、上からサーチライトでアパートメントの建物の横や後ろをなめるように照らされたときは震えあがった。容疑者追跡中?玄関ドアドンドンで逃げこまれることはなかったけど。

とにかく不審者要注意となってしまった湖畔。

見張りに長けているグースにでも頼もうかしら(ヘッダー写真)

と、あくまでものんきな私である・・・。
ハイ。注意します・・・。

日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。