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サくら&りんゴ #30 カナダのマリファナ事情

それ、何の匂い?

朝から素晴らしい天気である。空は少し濃い目のベイビーブルー。
絶対夕方になったら泳ぎに行こうと思いながら、PCを広げて東京の教室の仕事を始める。するとふと

晴れている日は朝がイイよ泳ぎに出るのは。ボートやジェットスキーも出てないしね。

斜め向かいに住む、ズッキーニのパルメジャーノローストを教えてくれたKeithが言っていたことを思い出した。

そうだ、朝泳ぎに出よう。
私はPCをぱたりと閉める。
なぜ朝から仕事をして泳ぎに行くのは夕方だと勝手に思い込んでいたのだろう。水温が上がっていれば朝の方がむしろ快適かもしれない。
日本にいるときは
“こうすることになっている”ことに拘束されてきたが、今の湖畔生活ではどれもこれも意味を持たなくなっていたのに。
私は一応水際で湖水の温度を確かめてから水着になった。



もちろん吸ったことがない
そう夫に言ったら、信じてもらえなかった。
マリファナの事である。
今回のカナダあるあるはマリファナ。

日本では違法ですから。

そうきっぱり言っても、一度も吸ったことないって冗談だろ~と軽くあしらわれる。

夫が生まれ育ったのはアメリカバモントの田舎町で、にもかかわらず(?)学生時代にはたいていの人が一度は経験済みらしい。
以前夫は14歳の時に止めた(quit smoking)と言っていて、その時はたばこの事だとばかり思っていたが 今思い起こせばマリファナの事だったかもしれない。

そんなマリファナがここカナダで合法化(2017年)された直後のこと。
私はトロントからの直行便で羽田空港に降り立った。バゲージクレームからスーツケースを引き上げカートに積み上げる。すると麻薬犬が私に突進して来たのである。それもかわるがわる3匹も。
それまでも麻薬犬が乗客の荷物の間をフンフンと嗅ぎ回ってお仕事をしているのは見かけたが、その勢いで来るのは初めてである。それもカートに乗りあがらんばかりの入れ込みようである。どゆこと?と思いつつ、マリファナは私とはあまりに無関係だったので、その時は合法化された直後であることにも気づいていなかった。
夫は吸っていなかったし、なにかにつけお惚け母さんの私は、マリファナがこんなに生活の身近にあるとはそのころまだ知らなかったのである。

ずっと前、近くに住む夫の友人がひとり暮らしの自宅に私たちを招待してくれた。
マリファナをすすめられて私たちが断ると、彼はひとりで吸い始めた。クレージーな人だと眉をひそめたが、思い起こせばその時である。マリファナの匂いを初めて知ったのは。認識できるようになると、あら不思議。それ以降はあそこでもここでも、その匂いが漂ってくるではないか。それまで知らなかったので気づいていないだけであった。
その上、会話の中でmarijuanaと言う単語を使っている人などいないわけで、現時点で認識できるようになったマリファナを意味するものとしてpot, grass, weed ,herb そしてcannabis。きっともっと色々あって会話の中に入っていてもお惚け母さんは気づかないだけである。

例えばpot(ポット)いる?
と言われて、調理鍋(cooking pot)かしらそれとも植木鉢(flower pot)かしらと考え巡らし、相手がherbと言いなおせば、こちらはもう確信してハーブの鉢ね!オレガノ?バジル?
欲しい、欲しい!
なんて言ったらややこしいことになりそうだ。

以前にも書いた、家賃を17か月滞納して大型犬2匹と生まれたての赤ちゃんを含めた幼子3人がいたお隣の家からは始終その匂いがしていた。合法化される前からガレージで栽培もしていたと思う。
さて、そんなお隣は引っ越してしばらく空き家になっていたのが、先日大型荷物搬送用の車が止まっていた。新しい住人が来るとこっそり窓からのぞき見る。トラックのドアが開いて真っ先に、観葉植物らしい鉢が大切そうに運び出される。新しい住人は植物好きなのかもしれない。
と思ったらそれらはマリファナの苗木であった。
きっかり5鉢。
自分の嗜好用に栽培を許されている分量である。

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マリファナを吸うことを嫌っていても、医療用として使っている人が周りにいる。関節炎に効くとクリーム状のものを擦り込んで使用している人や、睡眠導入剤として液状のものをスプーン一杯寝る前に飲んでいるという人。30年以上前からの付き合いで、度々このnoteにも登場してきたKimもそのひとり。彼は医療用にと申請して5鉢以上栽培できる許可証を取得した。職業はフィルムメーカーで自分の健康上の出来事をきっかけに興味を持ち、マリファナの医療目的使用に関してのドキュメンタリー映画を作った。

日本にいれば マリファナ=違法。ハイおしまい。だったのが一歩外に出ると黒白つかない灰色の部分が見えてくる。今まで知らなかっただけだ。カナダでは合法に売買されることで税収につながると言う政府の思惑もあるらしい。その一方でかわらず嗜好目的ではその依存性や、思考力が低下するなどマイナス面ももちろん指摘されている。

しかし日本で違法であることに変わりはないわけで、例えばトロントの空港で別れ際ハグハグしてくれた友人の腕にたっぷり関節炎用のマリファナクリームが塗りこまれていたりしたら、羽田空港での麻薬犬はいったいどういう反応を見せるのだろう。夫がしょっちゅう吸っている友人に話すと、私が空港で逮捕される様子を想像して大笑いしている。いや笑えませんから...。
そんな風に付着した匂いはどれくらい持続するのだろう。
あぶないあぶないと私は真剣である。

その後KimのフィルムJack’s Garageはコロラドで行われたショートフィルムフェスティバルでLaurel Awardを受賞した。

http://www.jacksgaragedoc.com/?fbclid=IwAR2aWOZy5jjhpgLqPFeUB8cgxGclgV4x0GrT0n-P4in4CI5lk8J-rLygfjk

夫のオーガニックコットンカンパニーで扱っていたフーディを販促用に6箱提供する。映画のトレードマークの刺繍が施される。

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そういえば中学1年生の時。
ある同級生に近づいて、それまでに嗅いだことのない匂いに気づいた。タバコだろうか。そう思って私は驚いた。その彼女はクラスでもおとなしい存在だったので、タバコとはどうしても結びつかなかったのである。しかし父がその頃まだヘビースモーカーだったから、彼女から漂ってきた匂いはたばこの様でたばこでもない気がした。だからそう言う匂いの香水を使っているのかと不思議になった。自分で香水を買う年齢になるといつもその匂いが思い出された。しかしその後その匂いに出会うことはなく、一連の出来事は頭のどこかに仕舞われてそれっきりとなった。

あれってマリファナの匂いだったかな

カナダに来て夫の友人宅で初めてマリファナの匂いを知った時、急にそのことを思い出した。

中三になったころ、クラスが変わってしばらく見かけていなかった彼女に会ったとき、私の中にあった大人しい女子中学生像からは一変していて、ひどく驚いたことも蘇って来た。

その後の彼女の事を私は知らない。

どうしてるのかなあ。そう思って私は湖面を背にし青空を仰ぐ。どこまでも続いているベイビーブルー。

まぶしい空の光とは対照的に朝の湖水は静かにひんやりとしている。


日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。