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ゆく夏

コン

軽い音がした

一陣の風が吹いて
コン コンコン コン

メープルの種ヘリコプターだ。
見上げるとお隣の家のメープルツリーが
色づき始めている。

この夏最後になるかもしれない。
そう思って湖に入ったのは二日前。

湖水はわずかに夏の温かさを残していて

太陽の光さえあればまだ十分に魚になれる
大きく息を吸い込んで水の中へ
子どもたちの声が遠のく
吐いた息があぶくになって昇ってゆく



Go swimming(泳いで来い)
あの日
夫のジェイは命令のような口調で
行き渋っている私の背中を押した

ジェイはもう息が苦しくて
車いすに座っているのもつらそうだったのに
私は水着に着替えてビーチへの階段を駆け下りた

ジェイを強く強く抱きしめてから

それが最後になるかもしれないと
私が泳いでいる間に
ジェイは逝ってしまうのではないかと

そう思いながら私は泳いだ
いつものカナダの旗のところまでと

本人もそのつもりでいたのかもしれない




ひとりで過ごす4年目の夏
あの日と同じ場所に
ボートは変わらず停留していて
やっぱりカナダの旗が揺れている

なんて気持ちいいんだろう

手足を思いっきり伸ばして
水の中を進んでゆく

今年最後になるかもしれないと
旗まで泳ぎ切る
そばのドックでくつろいでいる人がこちらを見ているのがわかっていて
Uターンの前に手を振ってみる
サングラスの初老の女性が笑顔で手を振り返してくれる
あれ、知っている人だったかな?

湖は凪いで
穏やかで
遠くでモーターボートの音がすると
しばらくして波が押し寄せる
私の体がふわりと揺れる


あの日
結局カナダの旗まで泳ぐことができなかったのだ
泣きながら泳いで苦しくなって
途中で引き返してしまった
ジェイは生きていて
私は濡れたまま、満足そうにうなずくジェイの頭を抱いた


幾度目の夏が来ても
あの泣いて泳いだ日のことを
必ず思い出す

そして多分
これからも

あと何度この地で夏を迎えるのかわからないけれど


近くのビーチパークでは夏の最後を楽しもうとボートを引いた車が長い列。

いつも感心する、ボートを引いたままうまくバックできるんだなあって。

駐車場はトレーラだけになったトラックでいっぱい。

裏庭ガーデンでは勢いを失いつつあるスクワッシュの葉っぱ。

そして湖畔の家の南側ではリンゴが色づきはじめている。

こちらはリレイカ。ちょっと小ぶり。

こちらは青りんごのグリーンキャット

いくつなっているかなあ~
ひとつ、
ふ、・・・・・・

えっ!ひ、ひとつ・・・・😅

やれやれ。。アップルサイダーを作るのはいつになることやら・・・。




日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。