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夜明けのグレイs

灰色がこんなに美しい色だったとは


たとえば闇色が薄まってゆく湖面の


インク色へとにじんでゆく空の


ほとんど夜色を失った空気の


そのグレイたちの魅力と言ったら!


ときに透明より透けて
静寂より音がなく
鏡よりも滑らかで
種を携えたディルの頭を傾げさせて
グレイを匂い立たせもする


こんな風にグレイsはその存在をアピールするのに

太陽が近づくと瞬く間に

色を獲得して


さらには季節に
秋色を塗るのを許してしまう

グレイsなんてなかったような鮮やかさで


私の知らない間に
時だけが流れていた


夫のいない3回目の秋だった

時が私の許しもなく勝手に
鮮やかだった記憶の色彩を奪っている

その色を取り戻そうとすると
苦しいほどの寂しさが私の胸に舞い戻ってくる


あの
夫を亡くしてひとりになった初めての朝の
呆然と眠らずに迎えた夜明け前のその色が
色もないのに
まるで色彩を得たかのように鮮やかに
脳裏に蘇ってくる


でも今は
夜明け前のグレイsが
こんなにも美しいことを
ちゃんと目に映して
心に落とすことができるようになった


陽が昇れば
また新しい彩の1日が来ると
体のどこかで
わかっているから


夜明けの湖を見ながら
ウェディングバンド(wedding band 結婚指輪)に触れる
薬指で緩くなっても
それは変わらずそこにある


湖面のグレイsに朝の陽がともるころ


ふっと思う

夫と出会えた奇跡を



日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。