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なぜ東大は男だらけなのか(2)

『なぜ東大は男だらけなのか』
矢口祐人著 集英社新書 2024年

 この本の話をもう少し。

 著者が提案する、東大の一定の入学枠を女性学生にあてる「クオータ制」には、男女双方からの反対意見があり、その中に「男性の受験生に対する逆差別ではないか」という声があるそうです。

 でも、本当にそうなんでしょうか?

 著者は、東大の女性比率が低いことの要因を二つ挙げています。 

(1)東大の教員、職員、学生が、男性が多い状況をそのまま享受し続けていて、強い問題意識がないこと
(2)「女の子だからそんなに勉強しなくていい」とか「一流大学に行ったら嫁の貰い手がなくなる」といった、社会にずっとあった考え。社会的な要因。

 注目してほしいのは、この二つ目の要因。つまりは、そもそも東大を受ける女性そのものが少ない、東大に合格する学力のある女子高校生が、大学に進学しなかったり、東大以外の国内外の大学を選びがちだという現実です。

 「自分の意思で選んでいるのだから個人的理由じゃないの?」と思うかもしれませんが、個人、なかんずく経済的に大人に依存している高校生の思考や行動は、社会状況と切り離しては考えられません。高校生のみならず、人生における一人ひとりのそれぞれの選択の裏には、親や社会からの有形無形の圧力や制限があり、女性は男性と比べて、そうした圧力や制限をはるかに多く受けています。

 女性の学力が男性に劣っていないことは、明らかです。その例として、数年前明らかになった、複数の医学部受験で女性が「女性は結婚出産で退職するから医師の人数確保が難しくなる」という理由で、点数を故意に下げられて多数不合格にされていた事件や、我が家の子どもたち3人が通った都立高校の選抜時の男女比調整の問題が挙げられます。

 都立高校では、純粋に受験と内申点だけで選抜すると、女子の割合が多くなってしまうのですが、男女比を半々にするために、合格点に達している女子を落として、本来なら合格していない男子を合格させています。これって、問題じゃないんでしょうか?

 著者は「クオータ制」導入に当たって、そもそもこうした社会的圧力で少数にとどまっている女性の受験生を増やす努力をしようと提案し、実際に東大は、全国の高校に現役の女性東大生を派遣して、大学生活や進路について説明し、女子高生が東大を受験してくれるよう呼びかけています。

 東大が、国内の他の大学が、ひいては日本の官庁や企業、社会全体が、男性も女性も含めて、既存の男性中心の考え方やルールをおかしいと感じ、脱却しようとしなければ、いまの男女比の不均衡はなかなか変わりません。誰かが実際に一歩を踏み出さなければならないとしたら、東大はその誰かに相応しい、大きな影響力を持った組織です。

 本著でなされている、「最初の一歩を東大から踏み出そう」という提言は、そのためのきっかけを作る意味でとても重要だと思うので、できるだけたくさんの人にこの本を読んでほしいです。

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