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ロシア語ロシア文学事始め2

 ところが、1年生の秋から第三外国語として学び始めたロシア語に、私はすっかりはまってしまったのです。ロシア語の何にそんなに惹かれたのかは、今でもよくわかりません。見慣れない文字や複雑な語尾変化? それともエキゾチックな発音? 第三外国語のロシア語の担任だった、ドストエフスキーやニコライ堂のニコライ宣教師の研究で知られる中村健之介先生に憧れた、というのも理由の一つですし、北海道はサハリンに近く、ロシア語やロシア人を身近に感じられたからかもしれません。

 北大は、入学時には文系か理系かを大まかに選び、細かい専門は2年生の夏に決めればよい、というシステムでした。つまり、専門を決めるまでに1年と少しの猶予期間があったせいで(あるいは“おかげで”)、当初文学部の動物生態学講座に進もうと思っていた私は、ロシア語に出会ってひとめぼれし、文学部文学科露文専攻課程へと針路を変更したのでした。

 ただ、ロシア語を第二外国語として学んでいない学生が露文専攻課程に進学する例はほとんどなく(そりゃそうですよね! 文学部では、いきなり難しい文章をロシア語で読むのですから)、挨拶に行ったときの教授のセリフは「まあ、来る者は拒めませんからね」でした。

 でも、実際2年生の秋に露文に進学してみると、教授が私一人のために、ほかの学生が1、2年生で終えていた文法のテキストの課外授業をしてくれる、という、今思えばものすごく手厚いサポートが待っていました。千本ノックのように次々と繰り出される問題に一人で答えなければならず、かなりつらい時間でしたが、これは本当にありがたかったです。ほかの授業では、当然のように、難解な詩や小説や研究論文をロシア語で読んで訳さなければならず、私は最も基本的な前置詞ですらいちいち辞書を引いていて、1段落翻訳するのに数時間かかることもしばしばでした。

 露文専攻課程の授業の基本は、ロシア語の文献を日本語に翻訳することでした。でも、授業を受ければ受けるほど、「机に座って本を読んだり翻訳するよりも、ロシア語でロシア人としゃべってみたい」という気持ちが強まりました。文学部には会話の授業がなかったので、ロシア語会話サークルを作ってネイティブの先生に会話を習ったり、日ソの親善団体が主催するロシア語講座に通って、ロシア語スピーチコンテストに出たりしていました。そんななか、どうせならロシアに留学したいと思うようになったのです。

(写真はモスクワ 赤の広場にある聖ワシーリー大聖堂)


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