斎藤真理子さんという翻訳家
ずっと気になっているのに、これまでほとんど読んだことがない、韓国文学。
唯一読んだことがあるのが、チョ・ナムジュのフェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(2018年)。今年のお正月に、たまたま実家の本棚で発見して、夢中で読みました。
『アルジャーノンに花束を』を彷彿させる冒頭から衝撃の結末まで、グイグイ引っ張って行かれます。現在はどうなっているのかわかりませんが、作品で描かれている韓国の男尊女卑の凄さと、作者の筆力と、翻訳の質の高さに頭をぶん殴られた感じ。韓国文学をもっと読んでみたくなった一冊でした。
訳者は、韓国文学翻訳の第一人者、斎藤真理子さん。ちょうど今朝の新聞で特集されていて、人物像を知りました。
考古学を専攻しようと入った大学で、偶然、韓国語と出会い、学び始めて卒業後に留学。編集者を経て、2015年、翻訳デビュー作『カステラ』(パク・ミンギュ)で第1回日本翻訳大賞を受賞。2018年に『82年生まれ、キム・ジヨン』を出版社に自ら提案して翻訳。29万部売れ、日本での韓国文学人気に火がつきました。
10年で60冊の翻訳書、著書を出版。写真に写った60冊の本は圧巻です。ちなみに「自分は何冊訳したんだろう?」と翻訳書を数えてみたら、26年もかかって、共訳を入れてやっと7冊で、通訳メインとはいえ、翻訳者としての生産性の違いに愕然。
『82年生まれ、キム・ジヨン』の斎藤さんの翻訳の質の高さに打ちのめされた私でしたが、ご本人は訳文を「美しい日本語」と言われると、失敗だったと反省するそうです。「韓国の作家は美しく書こうとはしていないと思うので、その印象が付いてしまうのはよくないのではと思う」からだそうです。
ものすごい速度で翻訳し、文章を書くかたわら、「沈思黙読会」という読書会の講師もつとめているとか。週末の一日、携帯電話やパソコンから離れ、自分の読みたい本を静かに6時間読んだ後、トークするという、読書という行為の原点に立ち返ろうとする試みだそう。こういう腰を据えた読書体験から、素晴らしい翻訳や著作が生まれるんでしょうね。でも毎週6時間って……ものすごい集中力!
翻訳だけでなく、韓国の歴史的、社会的背景を丁寧に解説した「訳者あとがき」も高く評価されているそうです。2022年に出版された、初の日本語の単著『韓国文学の中心にあるもの』から最新刊のエッセー『隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ』まで、著書も読まねば!
以上、翻訳書をたった1冊しか読んだことがないのに、斎藤真理子さんのファンになった、というお話でした。斎藤さんの翻訳や著書を読んで、韓国のことを、もっと知ろうと思います。
(タイトル写真は「朝日新聞 be フロントランナー」よりお借りしました)