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おはなし/短編小説

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『風邪を引くのは大変だ』詩人:稲田一馬

『風邪を引くのは大変だ』詩人:稲田一馬

風邪を引くのは大変だ
ハトが公園へやってくる

風邪を引くのは大変だ
男がスーツで空を見る

風邪を引くのは大変だ
水害のない滋賀県のほとり

風邪を引くのは大変だ
救急箱に非常食

風邪を引くのは大変だ
あんころもちが甘くない

風邪を引くのは大変だ
病院の先生顔まるい

風邪を引くのは大変だ
産毛はいつか抜けるだろう

風邪を引くのは大変だ
オンリーワンに大阪湾

あなたと私とそれから玄孫

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【短編小説】ドラネコの鉄男と、ドラ犬のかんぱち太郎

【短編小説】ドラネコの鉄男と、ドラ犬のかんぱち太郎

もし、ドラネコが空を見上げたら、

ドラ犬はこう答えてくれる。

「ドラ犬ってなんだろう。」

ドラネコの鉄男はいつもドラ犬のかんぱち太郎と鉄棒で遊んでいる。

鉄男は今年で4歳。人間でいうと4歳。

かんぱち太郎は今年で5歳。人間でいうと89歳。

鉄男はいつもかんぱち太郎を洗う。

隅々まで洗う。

かんぱち太郎は鉄男を見ながらいつもニコニコしてこう答える。

「ドラ犬ってなんだろう。」

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朝からほっこりするおはなしになりました。

【即興のおはなし】風のない山嵐

【即興のおはなし】風のない山嵐

※こちらは3月11日のラジオを、文字起こししたものです。

風が吹かないことで有名な山嵐さんが、街に住んでいました。

街の中はいつも、山嵐さんが来れば風が吹く、風が吹くと、人々から変な目で見られていました。

山嵐さんは名前だけで判断しないでほしいと街の人に声をかけるのですが、なかなか信じてもらえません。

山嵐さんのお仕事は週刊誌を配ること。

配った週刊誌をめくればめくるほど、風が吹く。風を

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【短編小説】70代のあいうえお

【短編小説】70代のあいうえお

あいつとあいつの分かれ道

いまではすっかり仲が良く

うみを泳げば大はしゃぎ

えくぼが似合う70代

おやおや今夜も70代

かたかな忘れて70年

きのうも夜な夜な勉強し

くいず解くように叩き込み

けってん見つけてもういちど

ことりみつけて焼き魚

さむい冬がやってきた

しめじに勝るきのこなし

すぐに二人で採りに行こう

せいびされないしめじ山

そぐわぬ想いにピザポテト

たぬき

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【短編小説】中学生の悩み

【短編小説】中学生の悩み

僕の名前はたかお。89歳の中学生。

毎日ダラダラしてダラダラしすぎて、幼稚園に通ったのが47歳。友だちはみんな首が辛そうだった。

幼稚園バスに乗って通っている。だけどたまに「お父さんは降りてください。」と言われる。よしてくれないか。僕のお父さんは今年78だぞ。

お歌の時間は「もりのくまさん」をよく歌っていた。だけど僕はこの歌あまり好きじゃない。

サザンオールスターズの「エロティカセブン」を

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【短編小説】隣の病室

【短編小説】隣の病室

「ごめんなさい。」
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
「お願いします。お願いします。」
「すいません。すいません。」

隣の病室で声が聞こえる。

低音で響く太い声。
さほど大きな声ではない。
音量で言えば、普通に喋る程度。
聞くからに、おそらく60代〜70代のおじいちゃんだろう。

夜も朝も聞こえる。
ずっと何かを語っている。

看護師さんが来たようだ。
何かやり取りしている。
どうやら会話はで

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【短編小説】ガードマンのおじさん

【短編小説】ガードマンのおじさん

僕は毎日、朝から歌の練習をしている。

昔は家で練習していたが、さすがに大声を出すわけにもいかず、
数ヶ月前から近くの空き部屋で歌うことにした。
空き部屋は1回500円で貸してもらっていた。

歌の練習は毎日だ。
土曜も日曜も祝日もない。
僕は歌が苦手だから、とにかく歌がうまくなりたいのだ。

いつものように練習で空き部屋へ行った。
すると部屋の管理人さんからこんなことを言われた。

「毎日毎日使

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【短編小説】じじいのめがね

【短編小説】じじいのめがね

「じじいはめがねの一部でもあり、めがねはじじいの一部である。」

わしの街ではこんな言い伝えがある。

わしももうすぐ78歳だが、そろそろ白髪が目立ってきた頃だ。

老眼でよく見えないが、めがねをかけるほどではない。
というのも、わしは昔からすこぶる目がよかった。

右目4.0。左目3.8。
ゲートボール中は誰よりも早く飛行機を見つけていた。
ボールには当たらない。

刺された蚊は一撃で仕留め、ば

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こんな日は小説でも書こう!!(三吉のポッポ編)

こんな日は小説でも書こう!!(三吉のポッポ編)

三吉のポッポ。

昔々、今から約4ヶ月前に、
『三吉のポッポ』と呼ばれる78歳のおばあさんがおりました。

三吉とは、三つの吉をもたらすという意味を指し、
ポッポとは、おばあさんの頬骨を見て小鳥たちが名付けました。

小鳥「やあ、今日はええ天気だがや。」

小鳥たちは言います。
すると、これを聞いた三吉のポッポがこう言いました。

三吉のポッポ『酒がうまいよのう。』
(以下、”三ポ”)

三吉のポ

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