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【恋愛対象は必ずしも異性とは限らんやんけ】

短大時代の話をする。

1年生の途中からガソリンスタンドでバイトをはじめた。理由は車系の短大に入っていたから勉強になるなと思ったのと、時給がよかったから。

その前はパン屋でバイトをしてた。店の中は狭かった。でもパンを焼くオーブンは大きかった。
そのせいで夏は室内温度が40度近くになる。やめた理由は、暑かったのと、スタッフの悪口を店長が自分に話してくるのが嫌だったから。

それまで自分は聞き上手だなと思っていた。でも人の悪口まで聞き出してしまうのなら、もう聞き上手やめようって思った。悪口とか不満を話したくなってしまうなら聞く側も悪いのかもね。

でもパンはおいしかったよ。

そうしてガソスタでバイトがはじまった。
特に難しい業務はなくて一ヶ月もたたないうちに慣れた。社員さんも優しくて、独特の方言が好きだったのを覚えてる。

飛騨弁って言うんかな?映画「君の名は」でもこの方言が出てきてたと思う。

ご飯にも連れてってもらったり、何気に会社のBBQにも呼ばれたりして、楽しかったな。

そんなある日のことだ。

あれは、2年の夏くらいだったかな。
失礼だけど、頭が散らかってるおじさんに声をかけられる。お世辞にも服装も綺麗とはいえる状態でもない。
「おーいバイトか?」

はい。と答えると社員さん呼んできてと言われた。

特になんの疑いもなく事務所の方に行く。
お金の計算をしている社員さんに、
「あそこにいる、ちょっと汚めのおっさんが呼んでますわ〜」

我ながらひどいことをいうなあと思う。

ちょうど窓が開いていて、聞こえてたらどうするんやと、少し怒られる。

そりゃあごもっともだ。

まずいことしたなあ…聞こえてたらどうしよう…そう思ってると社員さんが帰ってきた。

「大谷内のこと呼んでるわ。」

怒られるやつやんけ…
悪いのは自分だ。これも経験と言い聞かせおっちゃんの方に向かう。割と広いスタンドなので休憩スペースような場所がある。
そこに、おっちゃんは座っていた。

「まあこれでなんか飲めや」と小銭を渡される。

これは長丁場になるぞ…!嵐の前の静けさ…!まるで豚に餌を与えて太らせてから…
ごめんうまく例えられん。

「どこのもんや?」

えーと高山短大に通ってます…

「いくつや?」

19です。

とまあこういう感じに、調査が進んでいく。
殺るなら、さっさと殺ってくれ!なかなか焦らして怒ってこない。
こいつは逆につらいやんけ…
はよ怒るなら怒ってよ。もう。

「今度飲みにいくか」

え?どんな変化球⁉︎
球筋が全く見えなかった。

目上の人に今度飲みに行くか?と誘われた時の返事は、2種類ある。

はい。か、行きます。だけ

正直、直接誘われてその場で断るのはなかなか厳しい。裏技でドタキャンもあるけど、罪悪感がすごいのでオススメはできない。

びっくりしすぎて、
は、はい〜と答える。

「じゃあ電話番号教えてくれ」

初対面の人に番号聞かれるんて、こんな嫌なもんなん…この反面教師め!

とまあ流れで番号を教えてしまう。え、飲みながらしかられるん?レベル高すぎん?

そう思ってるうちに満足気なおっちゃんは、銀色の軽自動車に乗って帰っていった。

社員さんが近寄ってくる。
「大谷内まさか電話番号教えたん?」

あ、なんか嫌やったんですけど聞かれたんで教えました。

「あのおっちゃんゲイやぞ」

そういうことは先に言おうよ…
ただ言いたいのは恋愛対象が異性以外っていうのはなんにも悪くないことだと思ってる。
それぞれ価値観や恋愛に対する気持ちはそれぞれ違う。

でも、あのおっちゃんはアプローチの仕方は下手くそだった。初対面で電話番号聞くんは早いぞ。
まずはLINEからにしておいた方がハードルは下がる。

バイトが終わり携帯を開く。
LINEを見ると新しい友達に、身に覚えがありすぎるおっちゃんが電話番号から追加されている。
友達自動追加になっていたことを全力で後悔する。

ああ、おれの恋愛対象は女性だな。
再確認させてくれてありがとう。

おっちゃんとこれからどうなったかは、想像に任せる。


おわり。

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