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Duolingoを1年間毎日やって仏検3級には通用するか


1.前提と結論

【前提】

◆フランス語は大学で一瞬だけやりました。発音とジュースの頼み方ぐらいしか覚えてません。あれから20年(遠い目)
◆筆者の仕事は英日翻訳文の校正と、たまに英日翻訳、趣味のボードゲームでのみ日英翻訳です。なので英語は少しだけできます。読み書きは概ねCEFR C1、会話はいいとこB2くらいだと思います(CEFRについては後述)。
◆Duolingoは試験日まで473日連続でやってて、うちおそらく50~100日ほどはフランス語に触れてません。ざっと1年強です。
◆仏検3級は2023秋の11/19に受けてきました。問題用紙を持ち帰れることを当日まで知らず自己採点ができませんでしたが、めでたく合格ライン60点に対して76点をとれました。

【結論】

本当にDuolingo「だけ」だと難しいけど、体感7割はカバーできます。初等文法の参考書と、試験用の問題集を1冊ずつ買って1~2ヶ月補強すれば、十分いけます。

2.Duolingoとは

英語を始めとして様々な言語の初歩を学習できるスマホアプリです。一言でいうと語学ソシャゲです。好きなときに開いて、設定されたコースを順番に進めていくことで、その言語の基礎が身につくようになっています。
いわゆるメジャーどころ(たとえば英仏独中韓)だけでなく、ポーランド語やナバホ語など非常に多くのコースがあるのが特徴です。ただし大半は使用言語を英語にする必要があり、2023年12月時点、日本語で学べるのは英仏中韓の4つです。

無料で遊べますが、有料の月額課金もあります。無料だとライフが5個になり、1回間違えるとライフを1つ失います。有料にするとこの制限がなくなります。
私は無料コースで始めて、2ヶ月経ったくらいで有料に切り替えました。うちには5歳の子供がいまして、この子が4歳のときから英語で遊ぶ感覚で一緒に使うようになったので、何回間違えてもいいほうがいいなと思ったからです。最近は音楽や算数のコースもあり、広く浅く遊べるのも子供にとっては楽しいみたいで、親子2人で使ってこの課金は安いと思っています。

これ1つで完璧に文法を学べるアプリではありません。フランス語の場合では日本語によるコースだとセクション3まであり、初等文法の範囲、英語でいうと中2~中3の途中くらいまでは連れていってくれます。でも、ある程度基礎が身につけばその先は自分で参考書を買って進められるので、最初の0を1にしてくれる教材としてとても優秀です。
使用言語を英語にしてフランス語コースを学ぶと、2023年12月現在はセクション8まで行けます。CEFR B2相当(後述)です。

※英語コースは日本語の訳文にちょっとクセがあり、たとえば主語の「I」が明示的に訳されていません。サバイバルイングリッシュを学ぶには決して悪くはないのですが、子供に教えるツールとしては個人的にあまりおすすめしません。

3.CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)

上でちょっと触れたCEFR(セファー、Common European Framework of Reference for Languages)はヨーロッパ言語共通参照枠という意味で、主にヨーロッパ言語をどのくらい扱えるかという物差しを提供しています。「共通参照枠」とあるように、どの言語でも熟達度を同等に測るための尺度です。
低いほうから順に A1、A2、B1、B2、C1、C2 の6段階です。A1がごく基礎で、C2はほぼネイティブレベルです。ブリティッシュ・カウンシルのサイトに説明があります。

CEFR自体の試験があるわけではなく、各種の語学試験に対してCEFRでいうとどのくらいというレベル設定がされることで、この試験を受けたらどのくらいの言語運用能力かというのが異なる試験でも比較できるようになっています。英検だとこんな感じで、3級がA1、準2級がA1~A2、2級がB1、などです。

今回受けた仏検3級はCEFR A1です。仏検のサイトによるとそこから1段階ずつ上がって、1級がC1になります。
Duolingoではセクション1~3がCEFR A1になってて(現在ここまで日本語で学習可)、セクション4がA2、セクション5~6がB1、セクション7~8がB2です。ですから仏検3級と日本語版Duolingoのレベル帯はマッチしています。

4.Duolingoでどう勉強したか

もちろん普通にコースを進めていったんですが、領域に分けて見ていきます。

A)単語

Duolingoはセクションがいちばん大きい区切りです。各セクションにはユニット1、ユニット2…とあって、ユニットごとに「料理を注文する」「学校で勉強する」といったテーマがあります。そのユニットがさらに複数のレッスンに分かれていて、ユニット内で段階を踏んでテーマに関連する単語や文法を覚えていきます。

レッスンでは単語の発音や意味、単文の和訳/仏訳がランダムに出題されます。最初のうちはレッスンを順番に進めるだけで必要な単語は覚えられます。フランス語は動詞の数・人称による活用が多く(というか他のヨーロッパ諸語と同様にあり)、1人称単数から3人称複数まですべて活用語尾が変わります。レッスンごとにそれぞれの数・人称の活用をしつこく出題してくれるので、単語は比較的覚えやすいと思います。
ただ、和訳や仏訳は語群選択が多くて、ふっと単語の綴りを書かされると「あれっ!? なんだっけ」ってなるので、プレイしながら綴りを覚える意識は少しあったほうがいいです。

レッスンを進めていくと、単語を重点的に覚えられる無限カルタがランキング画面に解放されます。
すべてのレッスンではXP(経験値)がたまり、毎週の合計XPによってランキングと所属リーグが上下します。このへんがソシャゲっぽいですね。普通のレッスンでもXPはもらえますが、無限カルタはXPが通常レッスンの4~10倍もらえて非常に効率がいいです。もちろん意図的な設計で、旅行や食事に使う語彙、初歩のあいさつ等が集中的に出題されるため、嫌でもそれらを覚えます。

とにかくこのアプリは出題がしつこいです。1レッスンで何度も同じ単語を出してきます。これは褒め言葉で、語学に必要なのはこのしつこさです。「またこの単語出てる、もういいよ飽きた」と感じたときがその単語を本当に覚えたときであり、そこまで叩き込んでくれます。後になって忘れたら前のレッスンの復習ももちろんできます。単語学習はDuolingoの強みで、仏検3級=初歩の範囲は概ねカバーしてくれます。

B)文法

逆に弱いのが文法、というと語弊がありますが、日本語版Duolingoはレッスンの中で文法の説明を一切しません。英語版には説明の短いイントロがありますが、それでもこのアプリは説明よりも体で覚えることに重点を置いています。

もちろん、文法事項はきちんと考えられた配列で登場します。動詞の数・人称による活用、名詞の数・性(男性名詞と女性名詞があるんです)による活用、過去形、近い未来を表す言い方、助動詞、そういう要素が段階的に出てきます。
ですが、名詞が性をもつ、これが助動詞である、みたいなことははっきり言われず、"Je dois travailler."という出題文から「このdoisは『~ねばならない』で、このとき『働く』のtravaillerは活用しない形になるんだな」というのを自分で考えて推測しなくてはなりません

ですから、英語や他のヨーロッパ言語に慣れていると大きなアドバンテージになります。フランス語は英語と似たような文法規則だからです。私が【前提】として自分の英語力を書いたのはこのためで、文法的な推測はほとんど苦労しませんでした。一部の単語も同じように英語と重なる語彙があるため、例えば immédiatement(副:すぐに、ただちに)は初見でわかるなど、覚える負荷は少なめだったと思います。

それでも確認のために、田中善英『つぶやきのフランス語文法』という文法のリファレンス本を1冊購入しました。初級~中級に対応しており、頭から読むのではなく不明点を引く本です。例文のセンスは好みではありませんが解説自体は良く、過去形、前置詞、代名詞の確認に役立ちました。

もし自信がなければ、より易しい入門書を1冊買って参照しながら進めるほうが、文法は覚えやすいかと思います。

C)リスニング・スピーキング

Duolingoだけで、試験レベルよりも上まで引き上げてくれます。

ただし条件があり、各問題を解くときにお手本の発音を聞いて自分でも真似して喋りながらレッスンを進めてください(家でやるときの話ね!)。これは私が塾講師だったときにも塾の英語チーフにまず強調されたことで、極力すべての文を自分で何度も声に出すことが大切です。読めない単語や文は絶対身につきません。Rの発音とか難しいんですが、完璧にできなくてもいいから真似してください。

そして、Duolingoの読み上げは速いです。もちろんネイティブの本当の日常会話よりは遅く丁寧だと思いますが、最初から割と手加減がありません。ですから、最初の最初からそれに慣れておきましょう。自分でお手本と同じスピード感で何度も聞いては読み、口が慣れるようにします。
仏訳の問題では音声入力も使えるので、積極的に使ってみるといいです。だいたい合ったものを出してくれるので、活用の間違いとかだけを直せば正解になります。また、リスニング/スピーキング問題だけを集中的にやれる機能もあります。問題数が少ない割にXP効率がいいので、手でスペル書きたくないときにおすすめです。

Duolingoでリスニング(とスピーキング)をやっておけば、仏検3級のリスニングは相当に遅く聞こえます。語彙さえ増やしておけば楽勝です。

D)その他

DuolingoはスマホでもPCでもできますが、どちらもフランス語キーボード入力を入れておくほうが困りません。私はiPhoneで専らやっていて、フランス語(フランス)のキーボードを追加しています。フランス語(カナダ)のほうが少し使いやすいとも聞きますので、好みで選ぶといいはずです。

それから、ずっとやってると絶対モチベーションが落ちるときは来ます。いや何度も来ました。そういうときは無理にやらずにログボだけ回収、つまり1回レッスンして10XPだけ取って終わりましょう。2~3分です。フリーズというアイテムでレッスン忘れによる連続記録ストップは1日回避できるので、多少は忘れても大丈夫です。私もたぶん20回ぐらいはフリーズを使いました。

5.試験対策に足りないものの補完

最初に「体感7割はカバーできます」と書きました。残りの3割は、文法、語彙、試験対策です。

文法は文法書(リファレンス)でカバーします。これは3級以降の勉強も見越してのことです。また上述のように、初等文法でつっかえてモチベを落とさないように最初は入門書もあるといいでしょう。試験を受けようと思うまでは文法書は必要なく、入門書1冊だけで事足りるはずです。

語彙は、私の場合は試験対策とあわせて行いました。仏検3級の問題集として、白水社の『仏検対策3級問題集[三訂版]』を購入しました。仏検公式の問題集もあるんですが、書店で見たら非常に内容が薄くて、こちらのほうをおすすめします。
Duolingoだけだと出題範囲の慣用句が弱く、動詞の文法も未来形やジェロンディフが足りません。復習にもなりますから、最低1周、できれば2周はしておくといいでしょう。私は同人イベント出展と重なって半周で力尽きました

フランス語にはDELFという試験があり、これはCEFRと段階が対応するように作られているようです。私は未購入ですが、DELF A1の問題集も役立つかもしれません。

長文問題はどうかというと、いや長文というか短文なのですが、結局文章は文の積み重ねでしかないので、単語を覚えて文に慣れてさえおけば困りません。過去問対策でカバーすると万全ですが、私は結局過去問を解かずに試験を受けたので、ここはなんとも言えません。

試験はなんでもそうですが、参考書をあまり多数買う必要はありません。1冊を2~3周して、なんならその本を暗記するまで持っていくほうがずっと有意義です。Duolingoもその点では同じで、最初はこのアプリだけを繰り返しやっていればいいです。足りないと感じたら入門書を1冊だけ買う、試験が近くなれば問題集を1冊だけ買う、それで十分です。

6.おわりに

今回はぜんぜん試験対策ができず、当日は沈んだ気持ちで受験会場に行ったのですが、問題冊子を開いてみると「あれ、意外といける……!?」という驚きがありました。Duolingoの語彙、特に名詞と動詞は文の意味をつかむのに想像以上に役立って、1年ちょっと続けて勉強した経験も当日の自分を後押ししてくれました。リーディングは試験時間の半分くらいで解けたと思います。文法問題へのケアが足りず、まだまだ力不足ではあります。

仏検3級は本番のリスニングを聞いたときに正直ちょっと不満があり、巷間言われる「学校英語の弱点」と同じようなこと、つまり文法偏重で会話力へのサポートの弱さを感じました。次に受けるならより実践的な試験にしたく、A1の次であるDELF A2に挑戦してみようと思います。

それでも、最初に目指す目標としては、仏検3級や4級は抵抗がなくていいと思います。実際私も今回3級をとれたことで安心したというか、自信になったことは間違いありません。勉強にはマイルストーンがあるほうがよくて、もちろん試験だけでフランス語が使えるようにはなりませんが、成果を形として残しておけば、なんていうか、学習へのモチベが落ちたり中断したりしても帰ってこられる拠り所があると思うんです。3級までは取ったからまた始めようか、っていう。

ということで、なんとなくフランス語の文章を見ても構造が察せられるようになったのは1年少々遊んだソシャゲのおかげで、Duolingoさまさまです。語学ツールとして非常に有用です。実質これだけで試験を乗り切りました。今はセクション3の終盤で、そろそろ日本語コンテンツが終わりに近づいており、英語に切り替えてフランス語を習うことになるのでだるいなあと今から思ってますが、せっかく始めた勉強ですからもう少し続けていきます。

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