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悪夢について

​三十年経っても忘れられない悪夢がある。悪夢の内容は自分の部屋で目覚め、トイレに行こうとすると、風呂場に人の気配を感じる。そこで覗いてみると、鉈を持った旧日本軍の軍服を来た男が立っていて、私に向かって来て、鉈を振りかざし、切られた所で目が覚めた。

今でもその夢をはっきりと覚えている。振り下ろされた鉈から身を守ろうとした左腕に切り付けられた痛みをはっきりと覚えている。とにかくリアリティがあり過ぎで、恐ろしかった。それ以来この悪夢を忘れる事が出来ない。

悪夢の原因は色々あるようだが、精神学的に真っ先に挙げられるのがストレス。それに対して夢占いでは金運の上昇とか問題解決を暗示しているとか意外とポジティブ。私は占い全般を信じていないので、夢占いの内容を鵜呑みにはしないが、それでも精神学と真逆な内容にはちょっと驚いた。

先日編集者と打ち合わせをした際、この忘れられない悪夢の話をしたら、興味深い話を聞かせて貰った。
「私の従姉妹が高校生の頃、悪夢をみました。その悪夢は、どこかのデパートのような売り場でまだ幼い彼女が見知らぬ男に連れ去られそうになって、抵抗したら首を絞められた。そういう夢を見たんです。で、あまりにリアルだったので、従姉妹はその夢の話を母親にしたら、母親が真っ青になりました。どうしたのか聞いてみたらなんと従姉妹は三歳の頃、母親と買い物に行ったデパートで見知らぬ男に拉致されそうになった事があったと。でも母親が気が付いたおかげで男は逃げ去り、彼女もケロッとしていて、外傷も何かいたずらされた形跡もないので、そのまま彼女が忘れるであろうと、あえて触れないでいたそうなんです。本人が大きくなってもその事件の話は、しなかったそうなんです」

編集者の従姉妹は悪夢という形でその酷い記憶が蘇った訳だ。彼女の潜在意識の中、心の根底ではずっとトラウマとなって存在していたのであろう。それが抑え切れなくなって悪夢という形で突然蘇ったのかもしれない。

私の場合、勿論軍人に鉈で切り付けられたなどという経験はない。だから編集者の従姉妹とは違って過去の経験を思い出した訳ではない。でも共通しているのは、顕在意識と潜在意識の違いがあるとはいえ、長い間負の記憶が残っていたという事です。

それにしても私はこの悪夢をなぜ忘れられないのか本当に不思議だ。正直この悪夢は今となってはトラウマになっていると言ってもいい。

悪夢を見る原因はストレスの他に、精神的に不安を抱いている時が挙げられる。人間は常に不安というものを意識の根底に持ち合わせていると幼馴染の精神科医に聞いた事がある。不安というのは、人間が生きていく上で必要な物なのだそうだ。太古の時代に人間は獣に襲われる事もあっただろうし、病気や怪我で簡単に人命は奪われていた。生きていくには、そういった危機・危険を回避しなければならない。のほほんと安心感に浸っていては生き抜けなかった訳だ。その危機を回避する為に、安心とは対照の不安という物が自己防衛、危機回避に役立っていた訳である。痛みが自己防衛の為にあるのと同じだ。ちなみに、その不安が脳内で暴走するとパニック発作となる。

この理屈でいけば私の悪夢は単に精神的に不安定な時期に、ストレスもあって見ただけなのかもしれない。

ただ個人的にやっぱり引っ掛かるのは何で、この夢を三十年も忘れる事が出来ないのか。同じく精神科医の幼馴染曰く、「忘れろ!」との事。そんな簡単に忘れられたら苦労しない。要は彼が言いたいのは、そんな事気にしても結局答えは見つからない。日常生活に悪影響を及ぼしていないなら、放っておけって事何だろうが、そう言われるて、若干心が軽くなった。

ただ・・・・

まさか私の精神は三十年も酷いストレス下にあり・・・・

もしそうだったとしたら、それはそれでゾッとする。

巻頭画像 John Henry Fuseli - The Nightmare
パブリックドメイン File:John Henry Fuseli - The Nightmare.JPG - Wikimedia Commons による


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