消費税率

【不動産業、不動産賃貸業向け】消費税10%の増税前に理解しておきたい経過措置について

こんにちは、税理士のサトウです。

 今回は2019年10月1日以後に予定されている消費税率10%の増税に関する経過措置について、特に不動産業、不動産賃貸業の方に影響がありそうな事例をまとめました。

 なお、この事例は国税庁が公表している経過措置に関するQ&Aから抜粋したものになりますので、全ての事例の内容を確認したい方はそちらをご確認下さい。

■経過措置の概要について

 2019年施行日(2019年10月1日)以後の取引については、原則として、2019年新消費税法(新税率10%)が適用されることとなりますが、こうした原則を厳格に適用することが明らかに困難と認められる取引については、経過措置が設けられており、旧税率(8%)を適用することとされています(改正法附則16ほか)。 
 また、経過措置は強制適用であり、経過措置が適用される取引は必ず経過措置を適用しなければなりません。つまり経過措置が適用される取引の仕入税額控除も新税率により行うことはできず、旧税率により仕入税額控除の計算をすることとなりますのでご注意下さい。
 
 さて、具体的な事例を見ていきましょう。

問1(不動産賃貸の賃料に係る適用税率)

 当社は、不動産賃貸業を営む会社ですが、2019年4月1日以後に契約する賃貸借契約(資産の貸付けの税率等に関する経過措置は適用されないもの)における次の賃料に係る消費税の適用税率について教えてください。
照会①
 当月分の賃料の支払期日を前月末日としている賃貸借契約で、2019年10月分の賃料を2019年9月に受領する場合
照会②
 当月分の賃料の支払期日を翌月○日としている賃貸借契約で、2019年9月分の賃貸料を2019年10月に受領する場合

解答
 2019年新消費税法は、経過措置が適用される場合を除き、2019年施行日(2019年10月1日)以後に行われる資産の譲渡等及び課税仕入れ等について適用されます(改正法附則15)。
 照会①は、2019年10月分の賃料であり、2019年施行日(2019年10月1日)以後である2019年10月分の資産の貸付けの対価として受領するものですから、10月末日における税率(10%)が適用されます。
 照会②は、2019年9月分の賃料であり、2019年施行日(2019年10月1日)前である2019年9月分の資産の貸付けの対価として受領するものですから、支払期日を10月としている場合であっても、9月末日における税率(8%)が適用されます。

問2(貸ビルオーナーがテナントから受け取る電気料金の取扱い)

 当社は、2018年4月から所有しているビルの一部をテナントに貸していますが、ビル全体の電気については当社が電力会社と契約していることから、毎月テナントからテナント使用分の電気料金を受け取り、受け取った電気料金を当社の収入として計上しています(電力会社への支払は当社の費用として計上しています。)。
 当該テナント使用分の電気料金について、2019年施行日(2019年10月1日)から2019年10月31日までの間に確定するものは、電気料金等の税率等に関する経過措置の適用対象となりますか。

解答
 電気料金等の税率等に関する経過措置の適用要件とされる「継続的に供給し、又は提供することを約する契約」とは、電気等の供給を不特定多数の者に対して行う契約をいうこととされています(31年経過措置通達5)。
 照会の貸ビルのオーナーが自己の所有するビルのテナントに限って、電気等の供給を行う事業者から購入した電気等を販売する取引は、不特定多数の者に対して行う電気等の供給契約ではないことから、電気料金等の税率等に関する経過措置は適用されません。

問3(建築後に注文を受けて譲渡する建物の取扱い)

 当社では、一戸建ての建売住宅の販売を行っていますが、2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までの間に譲渡契約を締結し、当該住宅について、顧客が内装等に特別な注文を付すことができる場合には、工事の請負等の税率等に関する経過措置が適用されますか。

解答
 既に建設されている住宅であっても、顧客の注文を受け、内外装の模様替え等をした上で譲渡する契約を締結した場合には、その住宅が新築に係るものであり、かつ、その注文及び譲渡契約の締結が2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までに行われたものであるときは、工事の請負等の税率等に関する経過措置が適用されます。

問4(青田売りマンション)

 マンションの販売を行っている当社では、事前にモデルルームを公開して、マンションの完成前に売買契約を締結する、いわゆる青田売りを行う場合があります。この場合、工事の請負等の税率等に関する経過措置が適用されますか。

解答
 工事の請負等の税率等に関する経過措置の適用対象となる契約には、建物の譲渡に係る契約で、当該建物の内装若しくは外装又は設備の設置若しくは構造についての当該建物の譲渡を受ける者の注文に応じて建築される建物に係るものも含むこととされています(改正令附則4⑤)。
 この場合の「注文に応じて」とは、譲渡契約に係る建物について、注文者が壁の色又はドアの形状等について特別の注文を付すことができることとなっているものも含まれます(31年経過措置通達13)。
 したがって、マンションの青田売りの場合であっても、壁の色又はドアの形状等について特別の注文を付すことができるマンションについて、2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までの間に譲渡契約を締結した場合には、この経過措置が適用されます。
 また、次のような場合の経過措置の適用関係は、それぞれ次のとおりとなります。

①建物の購入者の注文を付すことができる青田売りのマンションであるが、購入者の希望により標準仕様(モデルルーム仕様)の建物を譲渡した場合
・・・購入者が「標準仕様」という注文を付したのであるから、2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までの間に契約をしたものであれば経過措置が適用されます。なお、2019年指定日(2019年4月1日)以後に仕様の変更を行った場合、当該仕様変更により、譲渡対価の額が変わらない限り、経過措置が適用されますが、譲渡対価が増額した場合には、その増額部分については、経過措置は適用されません。

②建物の購入者の注文を全く付すことができない青田売りマンション(設計図どおりの仕様で建築するマンション)を譲渡した場合
・・・購入者が注文を付すことができないことから、経過措置が適用されません。

③②のマンションで、契約後、購入者が内装等の注文を付すことを認め、その仕様に基づいて内装等をして建物を譲渡した場合
・・・既に締結している契約を2019年指定日の前日(2019年3月31日)までに変更して、購入者の注文を付して建築した建物を譲渡する場合については、経過措置が適用されます。

問5(工事の請負等の税率等に関する経過措置が適用される建設工事の値増金の取扱い)

 工事の請負等の税率等に関する経過措置が適用される建設工事について、値増金(資材等の値上り等に応じて授受する一定の金銭)が発生した場合の取扱いはどうなりますか。

解答
 値増金は、建設工事の対価の一部を構成するものであり、工事代金が増額されたこととなるため、増額部分については、工事の請負等の税率等に関する経過措置の適用はありません。
 なお、この場合の増額部分については、建設工事の目的物の引渡しの時の税率が適用されることとなります。
(注) 工事進行基準を採用している場合の増額部分に係る対価の適用税率は、資産の譲渡等を行ったものとした時(工事進行基準を適用する課税期間の末日)の税率となります。

問6(自動継続条項のある賃貸借契約)

 当社が貸し付けているテナントビルに係る賃貸借契約は、2019年指定日の前日(2019年3月31日)までに締結しており、その契約内容は、資産の貸付けの税率等に関する経過措置の適用要件を満たすものです。
 ところで、この賃貸借契約には、自動継続条項が定められており、いずれか一方からの解約の申出がない限り、当初条件で自動的に賃貸借契約が継続されます。
 例えば、当初の貸付期間が2019年施行日(2019年10月1日)を含む2年間で、その後2年ごとに自動継続する場合、自動継続期間を含めて、経過措置が適用されますか。

解答
 2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、2019年施行日(2019年10月1日)前から引き続き当該契約に係る資産の貸付けを行っている場合において、当該契約の内容が一定の要件に該当するときは、2019年施行日(2019年10月1日)以後に行う当該資産の貸付けについては、資産の貸付けの税率等に関する経過措置により、旧税率(8%)が適用されます。
 照会の場合、自動継続条項があるとしても、契約における当初の貸付期間は2年間ですから、その2年間のうち、2019年施行日以後に行われる貸付けのみがこの経過措置の適用対象となります。

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(注) 自動継続条項のある賃貸借契約で、例えば、解約する場合は貸付期間満了日の○月前までに申し出ることとされている場合、解約申出期限を経過したときに当事者間の合意、すなわち新たな契約の締結があったものと考えるのが相当ですから、2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までに解約申出期限が経過して自動継続された契約に基づき、2019年施行日前から2019年施行日(2019年10 月1日)以後引き続き貸付けを行う場合には、その自動継続後の貸付けで2019年施行日(2019年10 月1日)以後行われるものについてこの経過措置が適用されます。
 なお、2019年指定日(2019年4月1日)以後に解約申出期限が経過して自動継続された場合には、その自動継続後の貸付けについてこの経過措置は適用されません。

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問7(貸付期間中の解約条項がある場合)

 当社が貸し付けているテナントビルに係る賃貸借契約においては、貸付期間及び貸付期間中の賃料が定められており、かつ、賃料の変更はできないこととなっていますが、やむを得ない事情が生じた場合には、いつでも解約することができる旨の特約が付されています。
 このような解約条項がある賃貸借契約でも、資産の貸付けの税率等に関する経過措置が適用されますか。

解答
 2014年指定日(2013年10 月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31 日)までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、2019年施行日(2019年10 月1日)前から引き続き当該契約に係る資産の貸付けを行っている場合において、当該契約の内容が次の「①及び②」又は「①及び③」に掲げる要件に該当するときは、2019年施行日(2019年10 月1日)以後に行う当該資産の貸付けについては、旧税率(8%)が適用されます(改正法附則5④、16①、改正令附則4⑥)。
① 当該契約に係る資産の貸付期間及びその期間中の対価の額が定められていること。
② 事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと。
③ 契約期間中に当事者の一方又は双方がいつでも解約の申入れをすることができる旨の定めがないこと並びに当該貸付けに係る資産の取得に要した費用の額及び付随費用の額(利子又は保険料の額を含む。)の合計額のうちに当該契約期間中に支払われる当該資産の貸付けの対価の額の合計額の占める割合が100 分の90 以上であるように当該契約において定められていること。

 照会の場合には、解約の申入れをすることができる旨が定められていますから、③の要件を満たしていませんが、①及び②の要件を満たしていますので、この経過措置が適用されます。

問8(賃貸料の変更があらかじめ決まっている場合)

 当社が貸し付けているテナントビルに係る賃貸借契約は、2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までの間に締結しており、その契約内容は、貸付期間を2年間とし、その期間中の賃貸料につき最初の1年間は月20万円、残りの1年間は月15万円としています。
 この賃貸借契約について、資産の貸付けの税率等に関する経過措置が適用されますか。

解答
 資産の貸付けの税率等に関する経過措置の適用要件の1つとして、「対価の額が定められていること」とされています(改正法附則5④一、16①)。
 照会の場合には、貸付期間中に賃料が変動しますが、貸付期間及びその期間中の対価の額があらかじめ定められていることから、「対価の額が定められていること」に該当します。
 したがって、照会の場合、他の適用要件を満たしている場合には、この経過措置が適用されます。

問9(「協議により同意があった場合に対価を変更することができる」旨の定め)

 資産の貸付けの税率等に関する経過措置の要件に、「事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと」とありますが、契約書等に「賃貸人は賃借人と協議の上、もしくは、賃借人の同意が得られた場合に変更できる」と定めている場合、この要件に該当しますか。

解答
 資産の貸付けの税率等に関する経過措置の適用要件の1つとして、「対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと」とされています(改正法附則5④二、16①)。
 照会の場合には、賃借人の同意を得られることを条件としていても、事業者が対価の変更を求めることができる旨の定めがあることとなり、「事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと」の要件に該当しないこととなります。

問10(「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」旨の定め)

 資産の貸付けの税率等に関する経過措置の要件に、「事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと」とありますが、資産の貸付けに係る契約において、資産を借り受けた者が支払うべき消費税相当分について「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」旨を定めている場合、この経過措置が適用されますか。

解答
 資産の貸付けの税率等に関する経過措置の適用要件の1つとして、「対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと」とされています。
照会のような「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」旨の定めは、「事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定め」に該当しないものとして取り扱われます(31年経過措置通達17)。
 したがって、資産の貸付けに係る契約において「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」旨の定めがあったとしても、当該契約の内容が他の要件を満たす場合には経過措置が適用されます。
 なお、経過措置の対象となる資産の貸付けについて、当該資産の貸付けに係る契約における「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」旨の定めに基づき、2019年指定日(2019年4月1日)以後に賃料を変更した場合には、変更後の資産の貸付けについては経過措置の対象となりません(改正法附則5④ただし書、16①)。

問11(正当な理由による対価の増減)

 資産の貸付けの税率等に関する経過措置が適用される資産の貸付けについて、2019年指定日(2019年4月1日)以後に賃貸人が修繕義務を履行しなかったことを理由に賃貸料を減額した場合、この経過措置が適用されることになるのですか。

解答
 資産の貸付けの税率等に関する経過措置は、2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日の前日(2019年3月31日)までの間に締結した契約に基づき、2019年施行日(2019年10月1日)前から2019年施行日(2019年10月1日)以後引き続き行われる資産の貸付けのうち、一定の要件を満たすものに適用されますが、2019年指定日(2019年4月1日)以後に資産の貸付けに係る対価の額が変更された場合には、その対価の額を変更した後の貸付けについて、この経過措置を適用することができないこととされています(改正法附則5④ただし書、16①)。
 これは、資産の貸付けに係る契約においてその対価の額について変更を求めることができる旨の定めがないとしても、諸般の事情が生じたことにより、当該対価の額が変更された場合には、それにより、事実上、新たな貸付契約が締結されたと同視し得ることから、その変更後の貸付けに係る対価の額の全額について経過措置の対象としないこととするものです。
 この場合の対価の額の変更には、増額することのほか減額することも含まれますが、その対価の額の変更が、例えば、賃貸人が修繕義務を履行しないことにより行われたものであるなど、正当な理由に基づくものである場合にまで、新たな貸付契約が締結されたと同視するのは適当ではありません。
 したがって、その対価の変更が正当な理由に基づくものである場合には、その対価の変更につき、資産の貸付けの税率等に関する経過措置が適用されないこととなる「当該資産の貸付けの対価の額の変更が行われた場合」に該当しないものとして取り扱われます(31年経過措置通達19)。
 なお、物価変動、租税公課等の増減を理由とする対価の額の変更は、正当な理由に基づくものには該当しません。

■最後に

 基本的には前回の8%増税時の経過措置と同様の内容です。前回の増税時に既に不動産業、不動産賃貸業をされていた方は問題なく対応できますが、そうでない方にとっては初めての経験ですから自分への影響がわからない方もいるのではないでしょうか。
 消費税は1つ1つの取引に係る消費税は少額でも、年間を通すと資金繰りに影響が出る税額になりますから、新税率になる前に少しでも経過措置を理解していただき、今後の不動産業、不動産賃貸業に役立てていただけますと幸いです。
 もし何かご質問やご不明点などございましたら、下記よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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本日は以上になります。

最後までお読みいただきどうもありがとうございました。
参考になりましたら幸いです。

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