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読切 きんいろのナメクジ

 フトシは おこって いた。
 プンプン はらが たっていた。
 おこり ながら あるいて いた。
 だれに ともなく、 このよに いるもの すべてに。

 フトシは ころしたかった。
 だれも かれもを やっつけたかった。
 でも それを したら だめだと わかっていた。
 だから それを しなかったけど ころしたかった。

 あるとき フトシは みちの すみに きんいろに ひかる いきものを みつけた。
 それを てに とって みた フトシは、 びっくりして めを ぱちくり した。

 それは ナメクジ だった。
 きんいろに かがやく ナメクジ だった。
 それを てに したとき、フトシの こころから いらいらや もやもやや ひとを にくむ おもいが
 きえて なくなって いた。

 フトシは そのナメクジを いつも ズボンのポケットに いれて であるく ように なった。
 そうして いると、なぜか こころが やすらいだ。
 なにが あっても、へっちゃらに なった。
 やがて フトシは おとなに なった。

 フトシは だいじな ものを みつけた。
 けっこん して かわいい ふたごの むすめが うまれた。
 ともだちも なかまも いっぱいできた。
 でも その きんいろに かがやく ナメクジを てばなす ことは して いなかった。

 フトシは あるひ きづいた。
 もう このナメクジは てばなさないと いけないのでは ないか。

 ずっと フトシが かいならして いる ナメクジ。
 エサも あたえて いないけど、じぶんの いかりを みんな すいとってくれた ナメクジ。
 なんねん たっても ズボンの ポケットの なかに いる。
 ひかり つづける ナメクジ。

 フトシは そのナメクジを てばなす チャンスが なかった。
 いつか いつかと おもいながら。
 そうして いつしか おじいさんに なった。

 フトシは おそれて いた。
 もし きんいろの ナメクジを てばなしたら。
 じぶんが じぶんで なくなって しまわない だろうか。

 また、いつかの らんぼうで きょうぼうで、
 こころに にくしみや くらやみを かかえこんだ おこりんぼうの フトシに もどって しまうんじゃ ないかと。

 フトシは あるとき さそわれて きょうかいに いった。
 きょうかいで さんびかを きいた。
 そして、じぶんでも うたって みた。
 じゅうじかの いみに ついての メッセージを きいた。

 フトシは ナメクジを すてることに した。
 もとの みちばたに もどしに いく。
 みちは つちが なくなって アスファルトに なっていた。

 ナメクジを てばなす。
 すると ナメクジは まるで しおをかけたみたいに みるみるうちに とけていった。
 そのナメクジは、であった ころと おんなじ きんいろに ひかった まま、とけて きえて なくなって いった。

「ありがとう」
 それをみた フトシは だれにともなく そう いうと、 たちあがって うしろも みないで また みちを あるき はじめた。

 初出 エブリスタ 2021年3月18日
 大也友男名義

 ※友達との新春目標達成ゲームにて、3ヶ月で12作創作という目標を課した中で発表した1作

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