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白蛇とおばあちゃんの不思議な夜

あるところに赤い大きな鳥居がある古い神社がありました。

神社はとても古く今にも崩れそうでした。

そこに一匹の白い蛇が住んでいました。

蛇の身体は透き通るように白く、まるで雪のようでした。

蛇が境内で太陽の光を浴びていると子どもたちがやってきました。

「あ!蛇がいる!」と一人の子供が言うとぞろぞろと子どもたちが集まってきました。

「なんだか白すぎて気持ち悪いわ」と誰かが言いました。

「だったら黒くしようぜ」と太っちょの子供が言いました。

太っちょの子供が白蛇に近づきました。

白蛇は必死で逃げようとするが捕まってしまいました。

尻尾を掴まれて泥に叩きつけられてしましました。

白蛇の鱗は傷ついて泥だらけになり泣きそうでした。

子どもたちが面白がって笑っていると。

「なにやってんだい、お前たち!」と大きな声がしました。

赤い袴をきたおばあちゃんが子どもたちの方へやってきました。

「鬼ババァだ!逃げろー!」と子どもたちは一目散に逃げていきました。

「誰が鬼ババァだい、ハアハア」とおばあちゃんは息切れしながら言いました。

白蛇はおばあちゃんに警戒しました。

「あんた、大丈夫かい?おや怪我してるじゃないか。わたしゃ何もしないよ。せっかくきれいな白なのに泥だらけで。こっちへおいで、うちに動物用の薬があるからさ」

白蛇はなぜかおばあちゃんの声に懐かしさを感じて警戒をときました。

おばあちゃんに優しく抱きかかえられておばあちゃんの家に行きました。

おばあちゃんの家は古い屋敷でした。

白蛇は身体の泥を落としてもらい、傷ついた鱗に薬を塗ってもらいました。

いつの間にか夜となり月の光が屋敷を照らしました。

白蛇はご飯をもらっておばあちゃんのそばで休んでいました。

おばあちゃんは野菜スープを飲みながら、白蛇はお肉を食べていました。

それから白蛇は傷が治るまでおばあちゃんと暮らしていました。

どうやらここにはおばあちゃん以外誰も住んでいないようでした。

白蛇はおばあちゃんがなぜ一人なんだろうと疑問に思って首をクネクネしました。

「なんで老いぼればあさんが一人でこんな屋敷に住んでいるかって?」

どういうわけかおばあちゃんは白蛇の考えがわかりました。

「そうだねえ、もう何十年も昔の話さ」

おばあちゃんには息子がいました。

旦那さんは戦争で命を落としていたので一人で育てていました。

「あの子は、外で遊ぶのが好きでねえ、よく膝小僧に怪我をして泣いていたよ」

おばあちゃんは白蛇をなでながら言いました。

「あと、アンタみたいにお肉が好きだったよ、野菜嫌いで困ったもんだった」

おばあちゃんはふと言葉を切って月を見上げました。

「あれはこんな月のきれいな夜だった、突然息子が苦しみだして病院行ったのさ。でもあの当時は今ほどに医療も発達していなくて、どの医者でもあの子を直せなかった。まだあの子は8歳だったのに」

そういっておばあちゃんは仏壇に飾ってある子供の写真を見ました。

「それから何十年たってもわたしはあの子と過ごしたこの家を離れられないのさ。近所の人は早く出ていってほしいみたいだけどね。老いぼれが死んだら気味が悪いからって」

おばあちゃんはそう言うと激しく咳き込みました。

「最近体の具合が悪くなってきて嫌なもんだよ。先に寝かせもらうね」

白蛇は黙っておばあちゃんの話を聞いていました。

数日後白蛇の傷が治り、神社に帰りました。

しかしおばあちゃんはさらに体調が悪くなり寝たきりになってしまいました。

おばあちゃんが体調が悪いと近所の人は噂をしはじめました。

「おばあさん、病院へ行きましょう」といろいろな人がおばあちゃんの屋敷にやってきましたが

「うるさい!わたしは絶対に出ていかないよ」と言って譲りませんでした。

おばあちゃんは病院に行きたくもないし、一人で最後まで生きたいと思っていました。

ある月が綺麗な夜でした。ふとおばあちゃんは屋敷の庭に出ると白蛇がいました。

白蛇は「ついてきて」と言っているようでした。

おばあちゃんは白蛇に黙ってついていくと神社につきました。

おばあちゃんはこの神社でよくあの子と遊んでたときのことを思い出しました。

「アンタ、恩返しのつもりでここまで案内してくれたのかい?優しい白蛇さんだねえ。たしかに老い先短いばあさんがここに来られるのも今日で終わりかもね」

おばあちゃんがそう言うと白蛇は神社の境内の中心で止まりました。

すると雲が月にかかりあたりが真っ暗になりました。

おばあちゃんは一瞬だけ懐かしい匂いを感じました。

雲がもう一度境内を照らすと、白い服を着た少年が立っていました。

おばあちゃんは「こんなところで何しているんだい?ぼうや」と言いました。

すると少年はゆっくりと振り返り顔を向けました。

おばあちゃんは少年の顔を見た瞬間、目を疑いました。

「あんた」と言って涙がこぼれました。

少年はおばあちゃんの方に歩いてギュッと抱きしめました。

おばあちゃんはこれはきっと夢に違いないと思いました。

しかし、それでも、だからこそおばあちゃんは少年の頭をなでながら、あの頃に戻ったように優しく言いました。

「ごめんね、一人で寂しかったね。大丈夫、もうどこにも行かないから」

それから二人は月が照らされている間、ずっと一緒に過ごしました。

おしまい


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