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南イタリアの分散型ホテル。地方の宿場町を通して人が水平に集い、賑わうしくみ。【プーリア州・モノーポリ】

デジタルとアナログ。

メディア・コミュニケーションを専攻する上、この二区分をよく意識するのですが、イタリアは特にアナログな国だなと実感します。チケット販売機が故障していて、タバコ屋のおじいさんから逐一切符を買ったり…。

「デジタル化で効率化されたもの」とは、だいぶ隔たりを感じるこの国で。逆に、何か得られるヒントがあるのでは? 院での学期を終えて、そんな思いから特にアナログな傾向が強そうな、南イタリアを旅していました。

行った場所はプーリア州の「モノーポリ(Monopoli)」という町。国土がブーツに喩えられるイタリアで、カカトに値する部分ですね。

町の名前の由来は、ギリシャ語で「ユニークな町」。古来から宿場町として栄えて、軍人や商人、奴隷に巡礼者、さらには異民族もが行き交ったといいます。

モノーポリ市内の様子。

なぜそんな多種多様な人々が集ったのか? ローマの時代、地中海への街道が二つありました。ひとつが、最初に創られた「アッピア街道(下図:緑)」。最古なため「街道の女王」とも称されます。

CoinTalk (2019) Trajan the road builder.

…が。より短距離で地中海の港にアクセスできた方が、帝国的には便利であると、当時の皇帝(トラヤヌス)が新たに街道を設けます。それが「トラヤナ街道(赤)」でした。

モノーポリはその街道上に栄えたため、海運の中継地としても、軍隊の通り路としても人が行き交いました。現在の人口は50,000人近くですが、その宿場町的に発展した歴史を受け継いでか、今では多くの観光客が押し寄せています。

実際に町の中を歩き回った印象としては、小さい規模ながら探索するのが楽しい! 日が沈んでも歩行者でたくさん賑わっていて、地元民も観光客も混じり合い、活発な印象です。

これほどの人を魅きつける町の魅力、取り組みとは? そのひとつのヒントが、分散型宿泊施設とも言われる「アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)」でした。

Associazione Nazionale Alberghi Diffusi (2015) より。

地域に散らばっている空き家を活用し、建物単体ではなく地域一帯を点在型ホテルとするイタリア発祥の取り組みのことです。

まち全体をホテルと見立て、レセプション、宿舎、レストラン等の構成要素がまち中に広がっています。地域に暮らすような滞在スタイルであり、地域の「水平的発展」を実現する観光地域づくりのモデルとして注目されています。

「アルベルゴ・ディフーゾとは」アルベルゴ・ディフーゾ インターナショナル 極東支部(ADIeo)より。

始まりは1970年代半ば頃。北イタリアのフリウリ地震によって、持続可能を意識した地域づくりの流れで生まれたといいます。

一泊滞在したAlbergo Diffuso Monopoli。受付(レセプション)、寝室のある部屋、食事のダイニングルームと、建物がそれぞれ分散している。

最安値の日を狙って一泊したところ、とても新鮮な宿泊体験に。町の中で住民を一日体験してみるような感覚でしょうか。

受付の空間も古民家的で、スタッフさんの気の楽さも居心地が良い!(写真もOKしてくださいました)

確かに、都市圏にある従来のホテルだと、高層なビルでエレベーターを使い、プライベートな空間に閉じこもって…という印象です。

'A sustainability point of view on horizontal and vertical urban growth' (ISEE Africa 2019) より借用。

垂直に伸びて、大量の宿泊客を収容・1つのビルで自己完結。それよりも街の面積を幅広く活用させて、歩行者を水平に埋めることで、地域全体を賑わせていく

歩いていて楽しくなる仕掛けがチラホラ。
色彩豊かな帽子が吊るされている。
町のメイン広場。レストランや銭湯を完備のホテルにではなく、
人の賑わいを街頭に散らせることで、夜に出歩く人へ安心感をもたらす効果もありそう。

地域づくりの一環として、とても興味が出たので調べてみたら、日本においても事例があるそうでした。アルベルゴ・ディフーゾ協会が初めて認定したという、岡山県の矢掛町です。(ぜひ一度訪れてみたい…!)

矢掛町も宿場町として、モノーポリとどこか似たものを感じさせます。江戸大名による参勤交代の時代ですね。ローマでも軍隊が行進し。兵士に武士が行き来し、その家来や家族が付き添い、商人が集まり、宿泊業が発達する。

デジタルで垂直なもの (資本主義的で拡大されたビル)に対して、アナログで水平なもの(伝統チックで歴史的な街並み)。

21世紀、日本はまさにデジタル化で遅れを取りました。GoogleやAmazonなど、ほとんどの世界的プラットフォームは海外に。GAFAMの時価総額だけで東証2,170社の合計を上回るという、恐ろしいデジタル経済圏です。

もはや同じ土俵に立つのは無謀な気も。では、デジタルではないものの価値とは?今の日本では円安が加速し、インバウンドが大きな需要を飲み込む産業となるはず。とすれば「アナログさ」に価値を移して闘うことに活路を見い出せるのでは。

まさしく、歴史遺産の保存に長けた観光立国・イタリアを模倣として。ローマ帝国のトラヤナ街道に、江戸幕府の山陽道。ひとつのヒントが垣間見えそうです。

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