南イタリアの分散型ホテル。地方の宿場町を通して人が水平に集い、賑わうしくみ。【プーリア州・モノーポリ】
デジタルとアナログ。
メディア・コミュニケーションを専攻する上、この二区分をよく意識するのですが、イタリアは特にアナログな国だなと実感します。チケット販売機が故障していて、タバコ屋のおじいさんから逐一切符を買ったり…。
「デジタル化で効率化されたもの」とは、だいぶ隔たりを感じるこの国で。逆に、何か得られるヒントがあるのでは? 院での学期を終えて、そんな思いから特にアナログな傾向が強そうな、南イタリアを旅していました。
行った場所はプーリア州の「モノーポリ(Monopoli)」という町。国土がブーツに喩えられるイタリアで、カカトに値する部分ですね。
町の名前の由来は、ギリシャ語で「ユニークな町」。古来から宿場町として栄えて、軍人や商人、奴隷に巡礼者、さらには異民族もが行き交ったといいます。
なぜそんな多種多様な人々が集ったのか? ローマの時代、地中海への街道が二つありました。ひとつが、最初に創られた「アッピア街道(下図:緑)」。最古なため「街道の女王」とも称されます。
…が。より短距離で地中海の港にアクセスできた方が、帝国的には便利であると、当時の皇帝(トラヤヌス)が新たに街道を設けます。それが「トラヤナ街道(赤)」でした。
モノーポリはその街道上に栄えたため、海運の中継地としても、軍隊の通り路としても人が行き交いました。現在の人口は50,000人近くですが、その宿場町的に発展した歴史を受け継いでか、今では多くの観光客が押し寄せています。
実際に町の中を歩き回った印象としては、小さい規模ながら探索するのが楽しい! 日が沈んでも歩行者でたくさん賑わっていて、地元民も観光客も混じり合い、活発な印象です。
これほどの人を魅きつける町の魅力、取り組みとは? そのひとつのヒントが、分散型宿泊施設とも言われる「アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)」でした。
始まりは1970年代半ば頃。北イタリアのフリウリ地震によって、持続可能を意識した地域づくりの流れで生まれたといいます。
最安値の日を狙って一泊したところ、とても新鮮な宿泊体験に。町の中で住民を一日体験してみるような感覚でしょうか。
確かに、都市圏にある従来のホテルだと、高層なビルでエレベーターを使い、プライベートな空間に閉じこもって…という印象です。
垂直に伸びて、大量の宿泊客を収容・1つのビルで自己完結。それよりも街の面積を幅広く活用させて、歩行者を水平に埋めることで、地域全体を賑わせていく。
地域づくりの一環として、とても興味が出たので調べてみたら、日本においても事例があるそうでした。アルベルゴ・ディフーゾ協会が初めて認定したという、岡山県の矢掛町です。(ぜひ一度訪れてみたい…!)
矢掛町も宿場町として、モノーポリとどこか似たものを感じさせます。江戸大名による参勤交代の時代ですね。ローマでも軍隊が行進し。兵士に武士が行き来し、その家来や家族が付き添い、商人が集まり、宿泊業が発達する。
デジタルで垂直なもの (資本主義的で拡大されたビル)に対して、アナログで水平なもの(伝統チックで歴史的な街並み)。
21世紀、日本はまさにデジタル化で遅れを取りました。GoogleやAmazonなど、ほとんどの世界的プラットフォームは海外に。GAFAMの時価総額だけで東証2,170社の合計を上回るという、恐ろしいデジタル経済圏です。
もはや同じ土俵に立つのは無謀な気も。では、デジタルではないものの価値とは?今の日本では円安が加速し、インバウンドが大きな需要を飲み込む産業となるはず。とすれば「アナログさ」に価値を移して闘うことに活路を見い出せるのでは。
まさしく、歴史遺産の保存に長けた観光立国・イタリアを模倣として。ローマ帝国のトラヤナ街道に、江戸幕府の山陽道。ひとつのヒントが垣間見えそうです。
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