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熊と高菜明太マヨおにぎり 2

絵に描いたような、まさしく風雲急を告げる、だった。 (これは事実をほぼありのままに書いています)。
熊と無言で睨みあう時、 空にいきなり暗雲が立ち込め強い風が吹いてきた。是不思議。
木々のこすれる重低音の音。僕らは逃げろ!と叫び登山道を走って下山した。体はどんどん加速していく。 必死に足でそのスピードのバランスを取りながら走る。というより、落ちているといったほうが正確。木の根っことかに足を引っかけて転倒したらすべての終わり。結構な怪我も避けられない。
高校球児だった友達は先に行ってしまった。
おのれ、 ゆーじ!、勢いで実名で登場させてしまったが、ま、いいや。 ゆーじ君は脳みそは少ないが足腰は丈夫だった。
悪いときには悪いことが重なる。落ちている途中、幅員2メートル位の山道を遮断するように何かが横たわっているのが見えた。 ぼくはそれがなんであるか瞬時に理解した。クマ出没で脳内麻薬が出まくっていたからだ。
その正体は体長2メートルを超す青大将と理解するのは容易かった。 かま首をもたげ僕を見ていた。
青大将はその冷酷無比な目で落ちてくる僕にこう言った。「ちょいと兄さん、そんな怖い顔してなにを急いでいるんだい? 寄っていくならいくではっきりしてちょうだい、今なら60分飲み放題で1980円ポッキリ、しかもあんた、この界隈で いちばんの器量好しのあたしと逢えたんだからラッキーよねふふふ、今日は日替わりサービスで山菜の天ぷらがつくのよ」
青大将ママはそう言った、
注)このへんはイメージです。
その傍らにスナック蛇園と書かれた傾いだ看板があった。その止まらない勢いでぼくは仕方なくその蛇の上をジャンプして飛び越えた。少しだけその店によってみたいと思った。久々にカラオケでチャゲアスのひとり咲きを歌ってみたいと思った。その時、何かが踵にコツンとあたった感覚があった。

熊から逃れ登山道をすぎ、整備された道に出た。空は急速に晴れてさっきまでの喧騒がウソのようだった。小さな橋を渡り車をとめた場所に戻った。傍らの河原でゆーじは昼寝をしている。

今度こそやつを丸太で殴り倒すと誓った。前から薄々そう思っていたが、ついにその日が来たのだった。

そして古木の洞に落ちていった高菜明太マヨおにぎり(280円)、その先にはムササビの家族がいたに違いないと思った。ムササビの家族にしたらさぞかし驚いたことだろう。空から高菜明太マヨおにぎり(280円)が降ってきたのだからね。みんなで食べて幸せいっぱいになったのでしょう。よかった。
あとからわかったが踵に何かがあたった感覚、あれは蛇が咄嗟に噛んだのでしょうね。
オレは寝ているゆーじの背中の中にトカゲを入れた。
少し離れた河原に寝転んだその時、森を引き裂かんばかりのゆーじの悲鳴が聞こえた。
みんな生きるために必死なんだなと思った。
2002年の夏の話。
      おわり

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