『公民連携まちづくりの実践〜公共資産の活用とスマートシティ』

まちづくりを進めていく上で「公民連携」は既に欠かせない考え方なのだけど、幅が広い言葉でもあり、全体的な概念と具体的なイメージの両方を同時に把握できない状態になりがちで、結局混乱してしまうことも多々あった(ちょっとSDGs状態?!)。
この本の著者である越直美さんは、元大津市長として、全体的な自治体経営と個々の具体的なプロジェクトで公民連携を推進してきたので、共通概念(空間と情報の解放)と、個々のケースにおけるポイント(イシュー・アクション・スキーム・アウトカム)が非常にわかりやすく描かれていると感じたので、自分なりのポイントをメモ。

▼自治体としての基本的なあり方の変革|「自治体は、公共事業の主体から、民間事業者や市民に空間と情報を開放するプラットフォーマーへと形を変えていかなければならない(P.14)」

この本のメッセージを一言で示せば、「はじめに」に書いてあるこの言葉に集約されるだろう。「開放」するということは、言い換えれば「持たない、ただし、つなげる」マネジメントと言えるかもしれない。
例えば、自治体が持っていて使いこなせない空間は手放す(売却、コンセッション、テナント退去…)のだが、そこで縁を切るのではなく、民間を活用したり、周辺の整備を行うことで、総体としてよりよい都市空間や活動をつくっていく。また、主役を民間や市民に移行しつつ、独占していた情報をオープンにすることで新たな価値を創出するなど、自治体が持つ空間と情報を活用することが「プラットフォーマー」のイメージと言えるか。

▼公民連携による「まちづくり」像|「新しいまちづくりは、自治体が何でも税金を投入するのではなく、民間事業者と連携し、試行錯誤しながら、市民が「面白い」「楽しい」と思って集う空間づくり(P.52)」

「まち」は「面白い/楽しい」ものであることが一番大事だ。それは、数値で示すよりもそこに行けば一発で感じられることで、理屈やデータ(は使いつつ)を越えた「まちづくり」の魅力だ。なお、ここで著者は「空間づくり」という言葉を使っているがソフトやアクティビティも込みで考えていることは言うまでもない。
「面白い/楽しい」は、財政難や多様化するユーザーの生活スタイルを考えると、もはや行政には難しいという守りの側面と、このような価値観は民間事業者とユーザーの直接的なやりとりの中でプランニングする方が適切という攻めの側面、両方が背景にあるのだろう(もちろん、公共的な意義は担保しつつ)。

▼行政としての動き方の変革|「無謬性からの脱却(P.13)」/「失敗を許容できるシステム(P.157)」

新しいテクノロジーの発展において、失敗なくして成功はないというスマートシティの文脈の中で挙げられているのだが、多様化する生活スタイルに対応するための地域経営として共通に言えるのではないかと感じた。
また、失敗の許容を、職員のメンタリティではなく「システム」として整理しているところに一歩踏み出したものを感じる。そのシステムは、第一に「検証と公表」であり、第二に「予算」の支出(本書では3パターンを挙げている)の工夫である。個別には各地で取り組まれているのだが、フレーム化したことで横展開が可能になる。

▼ケースに応じたポイントの例

この後は、個々のケースから個人的に興味を惹かれた視点や事例。証跡には、公共空間の再編からスマートシティまで幅広いプロジェクトが掲載されているので、読者によって参考になるところも異なるとは思うが、前述のような全体的な概念と呼応させて考えてみると面白い。

「コンセッション方式であるからこそ民営化が実現できる(P.63)」

公共インフラの老朽化、人口減少によるユーザーの減少…。だからといってなくせはしないのが難しいところ。特に行政が運営するライフライン(水道は多いけど、大津市では珍しくガスが自治体事業だった)は、一口に民営化といっても、市民の不安感、担当職員の処遇、地元事業者の反発…等々色々なハレーションが起きる。ここでは、所有権を自治体が保持したまま運営権を民営化するコンセッション方式を使って民営化(の第一歩)を踏み出した、そのポイントが紹介されている。

「市民も職員もともに働けるコワーキングスペース」(P.127)

東海道五十三次でも最大の宿場町であった大津では町家が地域の資産であったが、ご多分に漏れずその活用は簡単ではない。民間による活用の施策は他の地域でも色々あるし、大津市でも宿場町構想として総合的な施策を行っている中で、ピンポイントではあるが気になった事例が、都市再生課のオフィスを中心市街地の町家に移してしまった町家オフィス「結」。ここで面白いのは、市民が使えるコワーキングスペースを併設し、職員と市民の自然なコミュニケーションの場としたこと。ウェブを見ると残念ながら3年で閉館してしまたようだが…(その理由はちゃんと知りたいところ)。

「寺町BASE(P.136)」

町家オフィスの一方、そこで働いていた職員が個人的行動として町家の再生と運営を行ってしまったというすごい事例も生まれた。これこそ正に「アーバニスト」と呼ぶにふさわしいのではないかな。

「国と連携する多様な意義(P.154)」

本書のテーマは当然ながら「公・民」の連携なのだが、実はその背後にある「公・公」の連携の重要性にも触れられている。技術的支援と法的整理、財政的支援、また、これらから得られる市民や市議会からの信頼…。自治体がプラットフォーマーへと変革していく時に、国の役割もまたさらに変化していくのかもしれない。

https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761527891/


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