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機械系エンジニアのスタートアップ越境出向体験記

こちらでは、先述の背景に基づき、生時代から機械系生産・製造技術エンジニア一筋だった私が、なぜ1年間HR系SaaSスタートアップに越境出向した経験をnoteしたいと思います。

出向元と出向先の比較

出向先を選ぶ基準として、
・新規事業に取り組んでいること
・自身の持っている機械系エンジニアのスキルが全く生かせない環境で自信を追い込むこと
・事業に共感し、自分事化し挑戦できること
を掲げた結果、以下のように共通項を探すことが難しいぐらい異なる企業に出向できることとなりました。

出向先企業に受け入れてくれて理由を聞くと「自社は大企業向け、BtoBビジネス。大企業の内情を知っている人がいることは、スタートアップ経験者が主要メンバーのこの会社にとって、何かをもたらすはず」とのことでした。


越境の成功をもたらした事前要素と取組要素

手前味噌ではありますが、現時点では他の越境出向者の方のお話等と比較しても、自身は非常に大きな越境をしそれを自身も出向先企業にも良い形で受け入れてもらえた成功事例だと思っています。
けして社内ですごいハイパフォーマーとして扱われてきたわけでも、保守的キャリアの40代の人間というマス層での成功事例は、展開性があるという意味で社会的意義があるのではないかと思い、自身の越境成功をもたらした「事前要素」と「取組要素」を整理したいと思います。

事前要素

越境する際の事前準備として非常に良かった要素として
①挫折経験
事業開発が上手く行かない、プロボノでマッチングが合わない等の経験は、越境出向をする前に、不要なプライドをかなり捨てさせてくれました。この経験が、後述の取組要素の「まずやってみる」にもつながったように思います。
②どれだけ貴重な機会化を正しく知る
自身の成長のためだけに送り出してくれた出向元会社の投資の大きさを理解することは大きな覚悟をもたらしてくれました
・本出向に関わる諸経費
・自身が元部署で働かないことによるリソース不足
・自身が元部署で出したであろう成果の損失
①の裏返しにもなりますが、スキルセットだけでは受け入れようがないはずの人間を出向という形で受け入れてくれた出向先の感謝。
コロナ禍で小さい子供を抱えながら、単身赴任で送り出してくれた家族への感謝。
③プライドを捨てられるぐらい遠く離れた越境
先述のように、まったくもって大きくかけ離れた環境に移ることになりました。そうなると「このスキルに頼ろう」、「この分野で成果を出そう」という逃げ道を自身に作ることができなくなりました。背水の陣の心構えで取り組めるようになり、変な迷いを持たなくてよくなりました。
④出向先会社の理解度
今までは私の要素でしたが、こちらは受け入れてくれた会社の要素です。その一つは、出向先会社が前年に別企業から越境出向を受け入れていたこと、HR領域のSaaSで越境出向などの人材開発や組織開発に対する理解度が高く、私、私の会社の期待値などをくみ取ってくれたこと。
⑤出向先会社の良さ
最後は結局ここに行きつくのではないかと思います。出向先会社は当然事業の成功を強く志向しながらも殺伐とせず、明るくコミュニケーションが取れ、単身赴任でも、全く未知でも前向きな気持ちにさせてくれる環境です。(だからといってなぁなぁの関係というわけではありません)
メンバーは人間的に魅力にあふれて思いやりのある人が多いの同時に、なんらかの自身のキャリアや未来に目指すものや課題感を抱えてそれを克服しようとしている人が多く刺激しあえるのも大きな要因です。

取組要素

続いては、越境体験を成功させていた取組要素です
①意識・知識・行動の高速化
よく言われることですが、意識知識行動の相互関係は出向前の2020年にかなり重要であることは感じていました。同時に出向に際し、出向先の代表取締役の方に、これをどれだけ早く回せるか、特にアウトプットをどれだけ意識できるかが重要と言われました。そして、これは本当に重要でした。これを高速で回すことで成長も早くなりますし、同時に挑戦・学習に対する抵抗感がどんどん減っていくようになっていきます。

②なんでもやる
これは①とも関係があるのですが、自身のやることを定義しない、チャンスがあれば何でも手を出すようにしました。もちろん仕事は常時パンク気味になりましたが、その状態にあること自体が①の高速化にも貢献しましたし、成長する項目を増やすことにもなりました。
またなんでも手を出し、ちゃんと形にまでもっていくことを繰り返すことで、周りからの信頼をもらえるようになりましたし、新しい機会ももらえるようになりました。大企業の新人と同じ状態ですが、中堅の年齢になってもこの初心は忘れてはいけないという良い証左でした。

③いっぱい話し、いっぱい聞く
事業を作ることの肌感覚のなさを課題に感じて出向した自分ですので、対話の機会は本当に大事でした。また、後述しますが越境でマインドに成長をもたらすものは「自分事化」「葛藤」でした。これを生むためにも多くの人との会話は大前提です。

④時間は大事に
越境出向は当然ですが期限があります。とても貴重な機会です。時間を大事にし、めいっぱい費やせる時間を費やし、しっかり休むときは休んで回復に努めました。また、いつもと異なる環境にいるので休日も普段の環境ではできない体験(現代アートを見る)などに時間を費やしてもきました。

越境ジャーニーマップ

私の越境した1年間の業務と学びの段階、そしてテンション(モチベーションではない)をマップにすると以下のような感じになります。

業務は先述の通り、「なんでもやる」を実践した結果、多くのチャンスをいただき、どんどん拡大して行きました。こちらに書いていない仕事もたくさん挑戦させてもらいました。

学びの段階は3段階に分かれています。

①強みの自覚と弱点の気づき

第1段階では、自身のポータブルな強みが浮き彫りになってきました。何一つ使えるものがないと思った遠い越境先業務に取り組み中で、自身が機械系エンジニアとして培った論理的分析力など、じつはポータブルな強みをいくつか身に着けていたことを知り、それを活かし成果が少し出せるようになり、自信が少しあげってきました。
その一方で、3か月くらいたったときに自身は弱みも新たな強みをなにも身に着けていないことに気づきました。自身のポータブルなスキルを新しい業態にフィットさせて成果を出しているだけだったのです。それ自体はもちろん素晴らしいことなのですが、本来の越境出向で身に着けたいと思っていた事業を作るための力、その背景となる多様な力、顧客起草の視点などはなにも成長しておらず、むしろ弱点として浮き彫りになってきました。
これを受けて、テンションが最初の大きな谷間に落ちました。

②弱みの克服

第2段階では弱みの克服に着手しました。最初は顧客視点です。ひたすらトライアンドエラーを繰り返しつつ、周りとの対話でフィードバックをもらいました。このタイミングで意識したのはとにかく高速で回すこと、そして一喜一憂を大げさにすることで、自身のペインとゲインを最大化することでした。なんだかんだで4ヶ月くらいかけて徐々に改善をしてきました。今もまだまだ足りておらず、これからも持続的に成長を続けていくつもりですが、それでも弱点とならないレベルまでは克服できたように思います。

③新たな強みの創出

第3段階は新たな強みの創出です。これは必ずしも第2段階の弱みの克服を経由しなくてはいけないものではないと思いますが、私の場合価値を作る、事業を作るという観点で、顧客視点の弱さは難しさを伴うため先に弱みの克服からスタートしました。このあたりは、私が自分でコントロールしたのではなく、出向先のメンバーが私の状態と私の目標を理解してくれたうえで一緒にプランニングしてくれました。このあたりが先述の「越境の成功をもたらした事前要素」の④出向先会社の理解度⑤出向先会社の良さなのだと思老います。
ここでも行ったことは、トライアンドエラーとその高速化です。とは言いながらもまだまだ、遅く、引き続き取り組んでいかなくてはいけないポイントです。

越境で得たもの

越境では多くの物を得ました、それを整理したものが以下になります。
抽象度の高い順に、「マインド」「思考法」「スキル・知識」と並んでいます。それに対して、出向元で得ていたポータブルなもの、アンポータブルなもの、新たに得たものなどをまとめています。各々の詳細は、いずれどこかで記載するかもしれませんが、この場では割愛いたします。

上記の多くのポータブルスキルがあることへの理解は、それをもたらしてくれた自社の良さの理解、エンゲージメントの向上につながったように感じます。正直ベースでいうと、出向前は転職の自身がありませんでした。そのため転職という選択肢からは目を背けてプロボノ等に目を向けるようになりました。しかし、今は自身のポータブルな強みを知り、新たな強みを得、越境することへの抵抗感も減り、転職できる自信度は得ました。しかし同時に出向元会社の持つ成長機会、活躍機会、社会環境をより深く理解できるようになりました。これにより私は、出向元会社でもっとしっかり挑戦しようと考えられるようになったのも越境がもたらした効果だと思っています。

身に着けた要因

ここで何が、越境での習得をもたらしたのかを振り返ってみたいと思います。
スキル・知識は、学ぶと決め、手を出すと決めた時点から身に付き始めたように思います。具体的であるため知識⇔行動の繰り返しで比較的早く向上するように感じます。
思考法が、抽象度が高くなりますが、これも学ぶと決め、世の中にある実例を自分の環境に置きかけつつ、知識⇔行動で身に着いたように感じます。

一方でマインドは非常に習得が難しいものであったように感じます。特にマインドは「頭ではわかるけど、心に落ちていない」状態になりがちです。これを心の部分までももたらしたものは「自分事化」「葛藤」の原体験にあるように感じます。これこそが越境出向で得る最も大きな経験であり、学びだったように感じます。

具体例として、自身に「事業(会社)の使命・成長達成」のマインドをもたらした経験を記載すると、出向先の会社では週に1度のOKRミーティングや普段からの会話で、何が上手く行っていないか、それに対して自身の業務がどんな影響を与え、受けているかが明確にわかりますし、それに対する議論自体もなされます。このあたりは大企業にいた時は組織が巨大すぎ、関係者も多すぎて体感できていませんでしたが、常駐社員が数名程度の出向先企業ならではの体感でした。
またスタートアップである出向先は、常に二律相反との戦いです。事業を成り立たせるためには、時には厳しいことをお互いに言わなくてはなりません。組織課題も出てきます。ここで組織を優先し事業を疎かにすれば、破綻しますし、使命を果たすこともできません。事業のみを追えば、人がいなくなってしまいます。あるいは、経済的成長をとるのか使命実現をとるのかも同様です、使命実現だけに染まり、経済性をおろそかにすると資金がショートして破綻します。しかし実現したいことがあってのスタートアップで使命をないがしろにしては、本末転倒となります。これらの二律相反に迷い、そのうえでも達成しようとした原体験を得て、初めて「事業(会社)の使命・成長達成」は知識ではなく、マインドに落ちたのだと思います。

越境出向経験の持ち帰りと維持

2021年の末をもって越境出向を終え、元会社に戻ります。多くのスキル・知識・思考法・マインドを見に着け、それを出向元で実行していく予定です。このあたりも確定しすぎずトライアンドエラーで取組つもりです。

その中で、気を付けなくてはいけないのが学びの巻き戻りだと思っています。スキル・知識・思考法あたりはテクニカル要素が大きいため失われにくいように思いますが、マインドは原体験を通じて得たものです。特に1年間という短期で、それまでの15年の社会人経験に書き加えるという荒療治をおこなっているため、容易に巻き戻るのではないかと懸念をしています。例えるなれば急激にダイエットした後のリバウンドです。これを克服するためには、原体験を継続する必要があると感じています。それに対して求められるのは何らかのかたちでの「行動」の継続だと思っています。下記のように多数の行動の場が今の社会にはあります。その中で私は出向先会社でのプロボノを選択しました。0ー100ではなく、グラデーションのある越境を続けることで、本当に自身にマインドが定着するまで継続をしていきたいと思います。

越境経験の選択肢について

自身の可能性を広げる選択肢は上述のように多様な行動の場があります。出向もプロボノも副業もボランティア・地域活動も同様に実際に働く環境をもたらします。そのなかで、どのように越境経験先を選択するのでしょうか・私自身を振り返ってみると、
越境出向前
・転職  :外で活躍できる自信がない
・プロボノ:機会がない
・ボランティア・地域活動:求めている機会とは異なる
・越境出向:機会がある
により、越境出向を選んだように思います。
越境出向後
・転職  :外で活躍できる自信は得たが、越境体験で中でやれる可能性に気づいたので、転職する意思は今のところない
・プロボノ:機会がある、機会が作れそう
・ボランティア・地域活動:求めている機会とは異なる
・越境出向:機会終了
により、プロボノを選びました。

大事なのは、自身のキャラクターや目的、課題感、環境などを踏まえて最良のものを選択すべきだと思っています。どれかが全員にとっての共通の正解なのではなく、一人一人に適した越境の方向と距離があるのだと感じています。

#日経COMEMO #出向という選択肢

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