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起業は、サイテーでサイコーだ。

どーも。ジョージアの缶コーヒーが大好きな起業家、吉田です。社内のナレッジ蓄積ツール「Qast」を運営しています。
2018年も年の瀬という事で、1年を振り返ろうと思ったらあまりにも(スタートアップらしい)いろんなことが起こりすぎた1年だったので、慣れないけど平成最後にnoteを書く。

これから起業しようと思ってる方や、スタートアップに転職を考えている方が、「最初の頃ってぶっちゃけどうなの?」っていうのをイメージしてもらえたらと思う。※まだまだ道半ばなので、成功のためのハウツーやノウハウを共有するためのものではない。

先に結論を言っておくと、スタートアップの起業家は、“サイテーで、サイコー”だ。「もうダメだ。。」と思うようなHARD THINGSが山のように降りかかってくる一方で、「生きててよかった」と思えるような瞬間が、たまーーーにある。

という訳で、会社を起こして2年目の起業家が何を考え、日常でどんなことが起こり、どんな意思決定をしてきたのかを、完全ノンフィクションでお届けする。

2017年12月「何か始めないと!衝動に駆られる」
当時のanyは、マンガアプリを運営していた。ギリギリ自分一人が食っていけるだけの売上になりかけてはいたが、「このままでいいのだろうか」と考えるようになる。
そもそもマンガアプリを始めたのも、その前に動画のサッカーメディアを始めたのも、一番大きな理由は「食っていけそうだから」。自分の経験則から市場を見た時に、いずれも業界のトレンドであり、市場でトップを取らなくても一定数のユーザーが獲得できると思ったからだ。

それがこの時期になると、第一子が誕生したこと、お金2.0を読んだこと、東京の慌ただしさから離れた福岡の実家で一人考える時間が増えたことなどがきっかけで、「このままではダメだ」と考えるようになった。
会社としても、個人としても、せっかく起業したからにはやっぱり何かを残したい。二番煎じ、広告モデル、食うため、、、今までの思考回路は一旦捨てて、文字通りゼロイチでサービスを作ろうと決めた。(※もちろんマンガアプリで成功してるところに尊敬の念もあるし、自社だけでは成立しないこの市場でお世話になった取引先には感謝しかありません。)

思いたったらすぐ行動に移せることだけが強みの僕は、天神(福岡)のビックカメラへ出向き、ノートのような書き心地を実現するというiPad PROとペンシルを買いに走った。そこにひたすら思いつくだけの新規事業のアイデアを書いていき、実現の可能性を探っていった。


2018年1月「これだ!!」

100個ほど出したアイデアの中で一番自分が当事者として課題を感じ、且つ可能性がありそうだと思ったのが「社内Q&A×社内通貨」のサービスだ。
何を隠そう、これがウチの会社が今人生を懸けてやっているQastの原型となっている。
自分が会社員時代に感じたのは、IT業界の中でも、職種によってはアナログな作業が多く、人が増えれば増えるほど伝達コストがかかり、非効率になってしまうということだ。ラーメン屋に5分並ぶことすら考えられない僕は、この非効率さ(社内の情報共有)に大きな課題があると感じた。
それをQ&Aという誰もが馴染みのある形式でまとめ、蓄積していくことは個人の課題解決にもなるし、企業にとって財産になると考えた。
そして当時の世間は仮想通貨バブル。トレンドにあやかろうとしたわけではないが、「社内通貨」という形でこれまで目に見えなかった情報共有における貢献が可視化されれば、全く新しいサービスとして成立するかもしれない。いや、絶対する...!!

海外を含め、既存サービスはないか調べたところ、切り口として同じものはなかった。「これは物凄い可能性を秘めているかもしれない...」
ちなみにこの頃、クラウド上でソフトウェアを提供し、月額課金で使った分だけ支払いするサービスの類がSaaSと呼ばれていることを知る(恥)。

2018年2月「賛否両論、そして秋田へ」
2月になると、ユーザーインタビューを始めた。自分が課題だと思っていることが他者にとっても課題なのか、こんなサービスがあったら使いたいと思うか、を知るためだ。これまで付き合いのあったスタートアップから大企業まで、30社ほどの声を聞いた。反応は五分五分だった。この結果を僕はかなりポジティブに捉えた。スタートアップの書籍によく書いてあるのが「全員が良いと思うアイデアは失敗に終わる。一部の人が熱狂的に良いと思うアイデアこそ成功する」というものがあるからだ。まさに、一部の人が熱狂してくれた。
ちなみにユーザーインタビューでの失敗は、「知り合いだけに聞いてしまったこと」だ。友人の彼女の写メを見た時に微妙な反応をしづらいのと同じで、ビジネスアイデアでもやはり「知り合いバイアス」がかかってしまう。
率直な意見を言ってくれた方ももちろんいるが、あきらかに気をつかわれていると感じたこともあった。オススメはTwitterなどを活用して、バイアスがかかならい状態でインタビューをすることだ。

とにかく「社内Q&A×社内通貨」に可能性を感じずにはいられなかった僕は、これまでウチの会社の全てのサービスを開発してくれていたエンジニア・K氏にサービスの構想を話すため彼の元を訪ねた。K氏はフリーランスとしてエンジニアをしている傍ら、秋田で書店を営んでいる。

K氏はフロント、サーバー、web、アプリを全て一人でこなせる、いやゆるフルスタックエンジニアだ。自分が価値があると判断する物や事にお金と時間を割くが、価値がないと判断すれば当然ながら動いてくれない。
この仕事を引き受けてくれなかったらどうしようと不安の面持ちで秋田に向かい、サービスの構想を話すと、「じゃ4月から東京行くわ。まず半年は完全にコミットして、その後のことはまた考えよう」と言ってくれた。

2月の秋田は極寒だ。埼玉よりも北国に行ったことがなかった僕は、寒さに震えながらも安堵の表情を浮かべた。


2018年4月「オフィスを借りる」
それまでanyはコワーキングスペースを借りたり、前職に間借りしていたり、自宅で作業をしていたりした。ただ今回は秋田から来てくれるエンジニアがいて、法人向けサービスをするということもあり、バーチャルではないオフィスが必要になった。
場所は自宅から程近い笹塚に決まった。「ここ本当に東京!?」と思えるほど閑静な住宅地で、開発に集中でき過ぎる拠点ができた。2人で使う割りには広く、5〜6人+会議スペースを設けられるほどの広さだ。
ちなみにエンジニア・K氏は家具へのこだわりが人一倍強く、僕にオフィス家具の選択権はなかった。一通り必要な物を揃えて、他に欲しい物がないか聞いてみると、バルミューダの2万円もするケトルをおねだりされた。ポットに2万も出せないと渋っていると、自腹で買ってもらうこともあった。(それをきっかけに、オフィスの家具は結果的に半分以上K氏の自腹で買ってもらうことになる)


2018年5月「投資家に粉砕される」
K氏の紹介で、webデザイナーのA氏がリモートでジョインしてくれることになった。A氏は知る人ぞ知るスタートアップのUIを数々手がけており、Apple本社からスカウトが来るほどの優秀なデザイナーだ。仕様を伝えて、上がってくるデザインが毎回楽しみだった。

そんな中、anyは株式による資金調達に向けて動いた。それまでエクイティによるファイナンスを行ったことはなかったが、サービスの可能性を信じ、リリース後は採用や広告費にお金を使いたかった。
と言えば聞こえはいいのだが、実際にはキャッシュがギリギリになりそうだった。サービスとしての売上が立つ前に金融機関からの借入は難しいし、このままいくと、半年後には資金が尽きそうだ。。。

慌てて皆大好き「起業のファイナンス」を何度も読み返し、事業計画を作って「Startup List」に登録し、VC、エンジェルを含め10名ほどの投資家に会った。
結果は散々だった。ユーザーインタビューでは五分五分だった勝率も、投資家に対しては、まさに全敗。。。
モックを見せても、ことごとく粉砕される・・・。

「課題はあるけど、これじゃ解決できそうにないなー」
「(UIを見て)これじゃない感がすごい」
「このメンバーだったら別のサービスやればいいのに」
「アイデアが尖ってないなー」
「差別化ポイントが弱すぎる」etc...

まさにマウントを取られる毎日。自分のアイデアに自信がなくなり、疑心暗鬼になった。
今になって冷静に考えてみると、あの頃受けたダメ出しは今のサービス改善につながっているところもあるし、デザイナー・A氏が言っていたように「無料コンサルを受けてると思えばいい」という面もある。
しかしその時は、自分が培ってきたもの全てが否定されたような気がして、正直つらかった。

ある日、投資家とのアポを終えて意気消沈してオフィスに戻ると、冷蔵庫の中に高級感丸出しのケーキがひとつ置いてあった。K氏の粋な計らいだったようで、涙が出そうになりながらケーキを食べたのはこの時が始めてだ。


2018年6月「事前登録を開始」

結局、この時期での資金調達は失敗し、金融機関からの借入でなんとか会社の寿命を延ばすことができた。※もちろんリリース前の状態で、借入も簡単ではなかったが。

投資家からの反応は全くだったが、「実際に顧客に使われればいいんだ。と言うより、むしろそっちの方が大事だ。この時期での投資家は将来的に株価が100倍になりそうかしか考えてないし、顧客に価値があるかなんて考えてない」そう自分に言い聞かせ、本当にニーズがあるのかを図るため、事前登録を開始した。エンジニアにはサービスの開発に専念してもらうため、ひよっこレベルのHTML知識を活かし、LPは自分で作った。
結果はまずまずで、1ヶ月で30社ほどの登録があった。1社目の登録はなんと、日本人なら誰もが知る超大手ゲーム会社だ。登録時に来るメールの社名を見て、誰かが冗談で書いたものだと疑ってしまったが、メールアドレスのドメインを見る限り、どうやら本物だ。
その時、Qastで一回目の「やっててよかった」という感覚を味わった。


2018年7月「Qast、β版リリース」

K氏と僕は週7日間、オフィスに通ってリリースまでに必要な業務を進めた。
そしていよいよ7月4日、Qastのβ版がリリースされた。(※前日の23時にマウスを使った動作確認を忘れていたことに気づき、慌ててドンキ・ホーテに買いに行ったのは、まさにスタートアップのそれだ。)

事前登録をしていただいた方や、プレスリリースを見た方が初日からトライアルを開始してくれた。この日ほど、GoogleAnalyticsのリアルタイム数値を見るのが楽しかった日はない。
半年前までは、自分の頭の中にあっただけのアイデアが形になり、それを実際に使ってくれてる人がいる。そのことに興奮せずにはいられなかった。

リリースの興奮が冷めやらぬうちに、知り合いの会社にアポを取り、Google カレンダーを真っ黒に埋めていくのであった。


2018年10月「PMFが、見えない。。。」

リリース初日こそ一気に登録が増え、「これはイケる!!」と思っていたところから3ヶ月がたつと、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)が見えなくて焦るようになった。導入数は計画よりも順調に増えて行くものの、MRR(月次収益)が思うように伸びない。Qastの料金体系は1人あたり500円/月で、1社あたりの人数が増えていかないと、事業として成り立たない。
元々、業界や職種を問わず、誰でも簡単に使いやすいサービスを提供するというコンセプトが、仇となってしまったのかもしれない。スタートアップのリリース初期は、ターゲットを絞って、一部の小さい市場を独占してからパイを広げろとよく言われるが、そのことの意味がよくわかった時期だ。

悪いことは連鎖するのが世の常だ。4月から完全コミットしてくれたエンジニア・K氏が、オーナーである書店を再開するため、秋田に戻ることになった。※K氏は今もリモートで開発を続けてくれている。

5〜6人+打ち合わせスペースのある広めのオフィスに通うのは、自分一人になった。落ち込んでいても、冷蔵庫にケーキが置いてあることはもうない。

2018年11月「投資家にリベンジ」
そう思っていた矢先、前職で営業事務をやってくれていたS氏から連絡が入った。子供を2人出産し、働ける場所を探していると言う。マーケティング、営業、プロダクトマネージャー、経理、広報を1人でやっていて手一杯だった自分の業務を手伝ってもらうことになり、結果的に"オフィスに1人期間"は1ヶ月にも満たなくて済んだ。

PMFに到達したわけではないが、徐々にMRRが伸びていき、課金率が見え始めたこの頃、資金調達を再開する。
半年前のそれとは見違えるほど、投資家の反応がよかった。要因はプロダクトに磨きがかかっていること、導入数が120社を越えていたこと、SaaSの平均と比べても課金率が高かったことなどが挙げられるが、一番は事業計画書にあるのかもしれない。
その時改めて半年前の事業計画書(ピッチ資料)を見返すと、恥ずかしくて目を覆いたくなるほどだった。数字として出せるものが増えたのもあるが、サービスの強みや戦略がふわっとし過ぎていたのだ。それがサービスを出して、顧客がついて、より大きくしようと考えていくうちに、自然と戦略の解像度が高まっていったのだと思う。

※この時期の調達の結果については、、、まだ言えないのでまた来年書こうと思う。


2018年12月「来年に向けて仕込みの時期」
12月と言えばまだ今月だが、新しいエンジニア・T氏が加わった。T氏とは夏頃にビジネスマッチングアプリ「yenta」で出会って意気投合し、その後も何度か飲みに行く間柄であった。シード期のスタートアップで働いていた経験もあり、HARD THINGSをよく知っている人物だ。
当然ながら開発が2人体制になると、お客さんの要望にいち早く対応することができる。今だからできるパワープレーではあるが、トライアル期間中に要望に対応していけば、課金率が上がることもわかった。

そして今もなお、来年の機能リリースに向けて新しいUIを模索している。
年末年始、みんなが休んでいる時ほど集中できる貴重な期間だ。


2018年の総括
ほんの一年前までSaaSの存在すら知らなかった僕は、仲間を集め、資金をなんとか調達し、アイデアを形にして世の中に出し、160社の企業で使われるサービスを作った。まだまだ満足できる結果ではないけど、正月のおとそを少しは美味しく飲めそうだ。


今の時代、法人登記に必要な20万円さえあれば、誰でも起業することができる。5月頃にたまたま思い立って書いた下記のツイートがバズったように、便利なサービスを使えば自社でやるべきことだけに専念することができる。

この恵まれた環境を活かすか、活かさないかは、自分次第だ。


初期のスタートアップは、まさにジェットコースターのような毎日だ。一日たりとも同じような日はなく、「もうダメだ。。。」と諦めそうになることも多い。それでもなぜ、もう一回這い上がろうとすることができるかは、自分でもよくわからない。根が楽観的だというのもあるが、「ここまで来たからには後戻りできない」という勝手な責任感のようなものはあるのかもしれない。マラソンがスタートしてしまったら、途中で自分からリタイアはできないし、したくない。


来年はスタートアップとしての土台を固め、より密度の濃い一年にしていきたいと思う。そして、これだけは最後に言わせてほしい。



起業は、サイテーでサイコーだ。


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