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ベンチャー創業日誌@シカゴ(2):     キャッチ=22からの脱却

アメリカには”Catch=22”という言葉があります。堂々巡りで解決法が見つからないという意味。Catchはここでは“捕まえる”という意味ではなく、裏に隠された“罠”とか“困難”という意味です。美味しい話を持ちかけられたときによく“What's the Catch?”というふうに使います。“なんか裏があるだろう?”という意味です。

Catch=22は第二次世界大戦末期のイタリアを舞台にしたブラックユーモアに富んだ戦争小説のタイトルに由来します。その中で狂気を装いなんとか除隊を画策する太尉が登場します。しかし彼の試みは軍規22項によって阻害されます。Catch=22の22はここからきています。その軍規とは

“狂気に陥ったものは自ら請願すれば除隊できる。ただし、自分の狂気を意識できる程度ではまだ狂っているとは認められない

この場合の但し書きがCatchです。彼は永遠に除隊することができない。

Catch=22は我々の会社でも大きな問題でした。今あるデータだけだと資金調達が難しい。新しいデータを取るのには資金が必要。プレゼンの方法を変えたりしてもそれは“Cosmetic Change (見かけだけの変化)”で本質は変わらない。永遠の堂々巡り。当然のことながらこういう状況は会社の中の空気を澱ませる。そのうちにダメなところに目が行き始める。とにかく資金を調達するしかない。

そんな折、会社を18億ドル(日本円2300億円)で先月売却したばかりの教授と話すことができました。偶然にも同じビルにいました。アメリカの大学の中には自分の技術を大学に特許化してもらい、それを持って起業して成功した人が結構います。彼もその一人、私たちもそれを狙っています。彼の話は非常に面白かったです。ポイントは3つ。

(1) 会社に経営に長けた人間がいるか。彼曰く“お前より重要”。思わず笑ってしまいました。
(2) エンジェル投資家を探しなさい。エンジェル投資家とは自分のお金を直接投資する裕福な人。
(3) 決してベンチャーキャピタルに行かないこと。彼らはせっかちで結果をすぐ要求するから。

この3つ目の話を聞いたとき前職でお世話になった社長の話を思い出しました。彼は、大手銀行出身でした。

“下村さん、銀行員はどんな人にお金を貸すかわかりますか?”
私は“お金が必要な人”と答えました。
彼は笑いながら
“お金が必要じゃない人”と答えました。

お金が必要な人に貸すと返ってこないことがある。そうなると銀行員は大きな汚点を背負うことになり出世は止まる。だからお金が必要じゃない人に頭を下げて借りてもらう。そうすれば取りっぱぐれはない。

ベンチャーキャピタルは個人のお金を集めて投資する。銀行に似ている。それに対してエンジェル投資家は自分のお金を直接投資する。前者は他人のお金を扱うから責任が大きい。それに対して後者は自分のお金だから自己責任。

この大成功した教授にあった数日後、前職のときにお世話になったお医者さんから突然電話が入った。彼はフロリダで臨床試験のクリニックを経営している。
“明後日シカゴに行くから飯でも食わないか”と。

彼はこれまでも私たちの会社に出資している。日本食レストランで刺身とブリカマをつまみに日本酒を飲みながら“雑談”に花が咲いていた。ギリシャ系アメリカ人の彼はブリカマが超お気に入り。

ブリカマの身を指で出しながら(彼は必ずこうやってブリカマを食べる)、実は大きな臨床試験の依頼を受け会社が潤っているのでお前に投資したいと。銀行にお金を置いて増やしても全く面白くない。お前に投資して一緒にワクワクさせてくれないか?涙が出そうなくらい嬉しかった。

スタートアップ企業にとって資金繰りは頭痛のタネ。弊社の共同創業者は銀行出身。“お金は血液”とよく言っている。その言葉を実感しました。この投資話をメンバーにしたら澱んだ空気は一転した。血が流れ始めた。

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