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裁判官弾劾裁判を傍聴

1.裁判官弾劾裁判
 裁判官には、独立して公正な裁判を行うことが求められます。
 日本国憲法(以下、「憲法」)第78条第3項は、「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。」としています。憲法第79条には、最高裁判所の裁判官の任命に関する国民審査や、報酬が在任中減額されないこと、同第80条には、下級裁判所の裁判官の任命、報酬が在任中減額されないこと等が規定されています。

 一方、憲法は、第15条第1項で、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」とし、憲法第78条は、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。」としています。
 
 この裁判官の弾劾裁判を行うために、国民の代表者である国会議員の中から選ばれた裁判員によって組織される特別の裁判所として、裁判官弾劾裁判所が設けられました。
 裁判官弾劾法(昭和22年11月20日法律第137号)では、第2条で、弾劾による罷免の理由として、「一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき。」、「二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき。」としています。また、同法は、訴追委員会についても定めており、衆参の国会議員からなる訴追委員会は、裁判官について、訴追の請求があったとき又は弾劾による罷免の事由があると思料するときは、調査をし、罷免の訴追が必要と判断する場合は、出席訴追委員の3分の2以上の多数でこれを決することができることとなっています。詳細は同法をご参照ください。

※本稿は、全体として裁判官弾劾裁判所のホームページの記述を参考にしています。(https://www.dangai.go.jp/)

[国民、国家機関及び弾劾裁判所の関係]として、ホームページには図が掲げられており、それを再現すると次のとおりです。

2.過去の弾劾裁判の事例  
 これまで、罷免訴追事件を9件、資格回復裁判請求事件を7件判断しています。内容について詳細は、弾劾裁判所のホームページをご覧ください。

過去の弾劾裁判の事例

 裁判官は、弾劾されると、法曹資格まで失います。
 資格回復の裁判について、裁判官弾劾法第38条は、次のように定めています。
第三十八条(資格回復の裁判) 弾劾裁判所は左の場合においては、罷免の裁判を受けた者の請求により、資格回復の裁判をすることができる。
一 罷免の裁判の宣告の日から五年を経過し相当とする事由があるとき。
二 罷免の事由がないことの明確な証拠をあらたに発見し、その他資格回復の裁判をすることを相当とする事由があるとき。
  資格回復の裁判は、罷免の裁判を受けた者がその裁判を受けたため他の法律の定めるところにより失つた資格を回復する。

3.傍聴へ
 今回の裁判は、罷免訴追事件(令和3年(訴)第1号第8回公判 令和5年7月26日午後2時00分開廷)です。
 事件の内容、評価については、弾劾裁判の独立との関係もありますので、本稿では言及しません。
 ただ、日本国憲法が定める、大切な手続きであり、日本国憲法下10件目という大変貴重な機会であるという意識を持って傍聴したことは述べておきます。
 職員の時は、本務との関係もあり、傍聴申込はなかなかできなかったのですが、「市民」になって傍聴をメールで申し込んだところ、「厳選な抽せんの結果、当せんされましたので、」とのお知らせが来ました。


庁舎前に貼り出された傍聴申込についてのお知らせ

 

手前の白いビル(参議院第2別館(南棟))の最上階(9階)に裁判官弾劾裁判所がある。
傍聴人は、7月26日午後1時集合で、門の中に職員が出て受付をしているのが見える。

 午後1時に東門に行くと、そこで受付。手荷物検査等を行い、4人ぐらい集まったところで、エレベーターで9階の弾劾裁判所へ。荷物を預けて、法廷の傍聴席へ。メモと筆記用具は持ち込めます。傍聴人は19人が抽選で選ばれています。そこで廷吏より傍聴についての説明を聞いた後、15分ぐらい休憩。この間にトイレに。
 法廷では弁護人が事前にプロジェクターのセットをして動作確認。一段落して、弁護人、訴追委員が入場。時間になると、裁判員席の後ろの扉が開き裁判員が入場。廷吏が、「ご起立ください。」で、傍聴人も含めて全員が起立。そして「礼」、「ご着席ください。」。そして2分間マスコミによる撮影。いわゆる頭撮り。そして被訴追者が入場。

弾劾裁判所の法廷。昭和51年6月に、旧最高裁大法廷を参考に作られる。広さ213平米。

 訴追委員は、新藤義孝委員長(衆)をはじめ、柴山委員(衆)、古川委員(参)、佐藤委員(参)ら5名が出席。一番後ろの(図の右席の後ろ、描かれていない3列目)には、訴追委員会の事務方と思われる者が着席。
 弁護人は、私の見たところ、弁護人席の2列目まで、9人着席。
 傍聴席の半分は、一般の傍聴人、残り半分は、報道関係者のように思われました。法廷はこのように多くの人々で埋まりました。

  船田裁判長が開廷を宣言し、被訴追者が認否を留保していた点の動き等について言及した後、「弁護人の証拠手続に入ります。」と発言。その準備(スクリーンをひろげ、プロジェクターで投影)、一旦休廷となりました。

 本日は、次の表の(11)に該当する部分が行われる日でした。


公判の流れ

 再開後、まず、弁護人から冒頭陳述がありました。2人の弁護人が順次発言しましたが、国会審議での政府答弁等とは違い、実にゆっくりと、間をおいて語りかけるものでした。プロジェクターと可動式スクリーンは、弁護人が持ち込んだものと思われますが、そこに冒頭陳述に合わせて文書を掲示する形でした。ここでこれから主張することの概要が示されたと思います。
3つのポイントが示され、4つの点について、事実関係を争うことが述べられました。
 証拠調請求が出され、それが認められ、証拠決定が確認されたところで、14時55分。休廷となりました。

 再開後、15時15分ぐらいから証拠調べが実施されました。プロジェクターを使い、今度は別の弁護人複数が順次、若干早口で話をしていきました。
 いくつかの証拠調べを行ったところで、今日はここまでということで、証拠の裁判所への提出。時刻は16時近くになっていました。
 裁判長から、次回、続きの弁護人からの証拠調べと、訴追委員からの追加の証拠調べ(?とおっしゃったように聞こえました)を行う旨が発言され、次回は令和5年9月13日に公判を開くこととなりました。

 手続きを中心に記しました。普段、国会論議等で見慣れた国会議員が、別の顔で裁判員と訴追委員で18人ほど、長時間この公判に臨んでいること自体、日本国憲法の大事な実施であると感じました。事前に事案についての報道等も読んでいたので、内容的にもついていけたのかなと思います。

 めったにない機会ですので、裁判官弾劾裁判を少しでも多くの方に知っていただき、日本国憲法を含め、いろいろなことに思いを寄せるきっかけになればと考え、手続きの概要ではありますが、書かせていただきました。



 

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