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PCT2023 雪だらけのシエラ

『You are beast!!』

雪のシエラネバダ山脈を進むことに決めたことを、周りのハイカーに伝えるとこんなことを言われた。

いや、見た目は君の方がBeastやけどな、とか思いつつ、こんなことを言われた理由としては、今年のシエラ山脈はとりあえず雪だらけだったからだ。Hight snow year. 今年のPCTは例年と少し違うらしい。

当時の感覚としては3分の2のハイカーが、一度スキップして、雪がなくなってから戻って歩き直す、フリップフロップを選択していたように感じた。

2023年のPCTを行くにあたって、雪の状況は出国前から一番懸念していたことだ。この年は積雪の計測が始まってから、過去最高の積雪になっているとのこと。

Pacific Crest Trail Snow Report
青のラインが2023年。積もりすぎ。

例年であれば標高の高いシエラネバダ山脈一帯でさえ6月下旬から7月辺りまでには、雪が全て溶け問題なくトレイルを歩けるはずだった。けれども、昨年の冬に例年以上の積雪により、この時期になっても雪が残ってしまっていた。

標高3000mのトレイルが続くシエラ山脈は、通常そこまで歩くのは難しくない。JMTと共通のトレイルもあり、ハイカーであれば誰もが一度は憧れるトレイル。世界的にもここだけを目掛けて歩きに来るハイカーも多い、人気のエリアだ。

景色は最高に綺麗。

だけど、雪が残っているだけで、その難易度は一気に上がった気がする。ちなみに自分は、日本で雪山を登った経験はない。

では、なぜ自分は進もうと思ったのか?
その理由は単純でスキップするために、イレギュラーな行動をするのが嫌だったし、何よりカナダ国境にあるモニュメントを最終地点としたかった。

それだけだった。どうしても一筆書きで進みたかった。

やっぱり綺麗。

自分は同じ日本人ハイカーと二人で歩くことができたので、雪のシエラを歩き通すことができた。この経験は、他の日本人ハイカーではあまりいないし、良くも悪くもとてもいい経験だったので、noteにまとめようと思う。



いろいろなリスク

1.渡渉

何よりも懸念していたのが渡渉(川を渡ること)。シエラではたびたび渡渉する場面が訪れる。積雪が多い年だと、雪解け水の影響で増水し、最悪渡れずに、歩いてきたトレイルを引き返すことを余儀なくされる。

流れが緩いのでまだ大丈夫。

たかが川を渡りだろ。って思うかもしれないけど
渡渉を舐めると、本当に流されて死ぬので、甘く見ないほうがいいと思う。
(実際何年か前に日本人女性が流されて亡くなっている、、)
自分も判断を誤ってしまい、一度流されかけ死にそうな思いをした。水怖い。

流されかけ全身濡れてしまい、乾かしている様子。

体験したら分かるのだが、白波がたつくらい流れの早い川で、水位が下半身以上になると、立っているのが精一杯になり、一歩踏み出そうとすると体を流れにもっていかれそうになる。

危なかった時、自分はなんとか対岸の枝に飛びつき、1人ファイト一発状態で、なんとか対岸に這い上がることができた。今思い出しても恐ろしい。

渡れる倒木がないかひたすら探した。

渡渉する上でのセオリーとしては、
一人で渡らない、複数人で腕を組みながら渡る。
・なるべく上流に上がり、水位が低いかつ、水の勢いが弱まっているところを見つけて渡る
・専用アプリ(FarOut)のコメントから、直前に渡ったハイカーの情報を、得て渡渉ポイントを見極める。ある程度は何mile地点にわたったなどのコメントがある。(コメント情報はオンライン時に必ず最新化しておくこと)

上記は最低限といった感じで、結局は現地での状況判断が大切だと思う。
無理そうなら諦めて引き返すことも考えたほうが良い。

倒木がかかっていたら、濡れたくないので、なるべくそこを渡るようにしていた。
FarOutのコメント欄よりどこら辺に木がかかっているかあたりをつけて探した。


2.歩きづらさによる、工程の長期化

なんてったって雪の上は歩きづらい。もうイライラするくらいに歩きづらい。雪が積もっているとはいえ、太陽が昇ってくると、雪が溶けだして、足元がグズグズになって前に進まない。

あと、一番最悪だったのが現地で"サンカップ"と呼ばれていた現象。
(これネットで調べても出てこないのはなぜ?)

“サンカップ” とりあえずボコボコでとてつもなく歩きづらい。

雪の表面が凸凹していて、足が乗せにくい。凸の方に足を乗せても滑ってしまい、凹の方に足がハマる。それの繰り返し、全然進まない。通常のトレイルだったら、大体1時間で2.5mile(約4km)は進めることろ、雪になった途端1時間1mile(約1.6km)ほどしか進めなくなった。

どこまでも続くサンカップ。

ストイックに頑張ればもう少し進めたかもしれないけれど、それでは精神的に良くないし、何より楽しくなかったので、ストイックすぎる歩きはしないようにしていた。

結局昼寝が一番気持ちいい。

まだ序盤のシエラであまり時間をとってしまうと後続の工程に影響が出てしまう影響があった。(遅い時期にワシントン州に入ると今年の雪が降り出してしまうため)

結果として、通常1 ヶ月弱ほどで抜けれるところを1ヶ月半ほどかかってしまった。(Kennedy Meadows6/14発 ~ Echo Lake7/24着)

3.追加装備と食料に伴うキャリーオーバー

雪のシエラに入るに当たって、現地で追加装備を買い揃えた。
また、次の街に降りるまでの工程が長くなる想定だったので、携帯が義務付けられていたベアキャニスターに入る範囲で、大量の食料を担ぐ必要があった。

シエラ仕様フル装備。

追加で買い揃えたもの
・アイスアックス
・トレランに装着できるクランポン
・R値の高いエアマット
・フリース、レギンス、防水ソックスなどの防寒具
・ベアキャニスター

食料は最長で8日分の食料を詰め込んで歩いたこともあった。
個人的によく食べる方だったので、ベアキャニスターに全力で詰め込んでいた。(食べていればなんとでもなる!)

大体8日想定の食糧。
糖尿病、虫歯まっしぐらメニュー。

これだけのものを担ぐと、当然のように荷物は重くなる。
自分のベースウェイトは元からそこまで軽くはなかったけれど、それでもシエラでは水、食料も含めて19キロから20キロくらいはあったと思う。(水は豊富にあるのでそこまで担いでいなかった。)

ベアキャニスターだけで1キロくらいある。

雪道に加えて、この荷物の重さのため、進む距離は短くなってしまうことが懸念された。

4.寒さ

標高も高く、雪が残っている。そのため当然のように気温も低くなる。特に太陽がない朝と晩は本当に気温が低い。自分が経験した中だと最低で-10°の場面があった。当然飲み水なんかは凍ってしまうし、テントについた結露なんかも、凍っていた。

朝起きると-10°になっていた。
PCTルート上最高到達点のForester Pass手前でのキャンプ。
最高のロケーション。

ただ、唯一の救いだったのは、日中とても晴れ間が多かったことだ。最初の1週間は雷雨にやられる時もあったが、それ以外は天候み恵まれて
日中はほとんど晴れていた。むしろ汗ばむほどの日差しの強さで、雪の照り返しもあり、登りなんかは汗だくになっていたのを覚えている。

日中は暑いので基本的には半ズボンスタイル。

日中雪の降る中歩いたりしたという話も聞いていたので、自分達は本当にタイミングが良かったんだなと思った。

5.滑落の危険性

滑落の危険性を感じた場面は、それほど多くなかったけれど、時々アイスアックスを使用しないといけない場面があった。特に印象的だったのは、シエラの序盤に登場するアメリカ最高峰のMt.Whitneyを登ったとき。

この時ばかりはちょっとした登山家気分。

ここはPCTルートから少し派生したルート状にあり、言わばオプション的な位置付けにあるが、多くのPCTハイカーはここを登る。アメリカ最高峰。標高は富士山よりも高い4,418mもある。通常であればそこまで難易度の高い山ではないらしい。

斜面に雪が残りとても歩きづらかった。

でも、今回は完全に雪山と化していたので、ギリギリまで登るかどうかを迷った。結果的に登ることができたわけだが、直前に登ったハイカーからの情報が得れたのと、天気が晴れ予報になっていたので、チャレンジすることができた。悪天候の中登りに行ったハイカーが、途中で撤退したという情報も聞いていたので、不安にだったけど天候に恵まれ登頂することができた。

詳細は簡易的だけど、下記のインスタの投稿になっている。

登頂中マジで落ちるかと思った瞬間は何度かあったので、
もし雪の積もるMt.Whitneyを登られる方がいたら慎重に行ってもらいたい。

登頂までの道のり。
どこかのPassを登っているとき。
最後はほぼ雪壁。

行って良かったこと

1.雪山の美しさと雄大さを感じることができた

これは個人的な感覚だが、通常のシエラも相当美しいんだろうけど、雪のシエラはそれ以上に雄大で美しいと思った。

朝焼けの山。目の前は湖。凍っていた。

雪のないシエラを知らないので正確に比較はできないけれど、自分が写真で見ていたシエラは、ただただ美しく綺麗な場所。そんな風に思っていた。

時々クライマーの人に会った。こうゆう所を登るらしい。

だけど、濁流と化した川の轟音、遠くから聞こえる雪崩のような音、雪崩でなぎ倒された森、ただ美しいだけではない、リアルな自然。

雪崩でなぎ倒された木

おそらく人間が整備してきたであろう道や場所も、あっただろうけど、それは雪の中に埋まってしまっていて、本当の意味でウィルダネスな環境下で過ごすことができた。

クマに会わなかったがシカ?にはよく会った
濁流
テント場からの景色

2.他のハイカーに出会わなかったこと

一見ネガティブなことのように聞こえるが、自分的にはこれが良かった。

シエラに入る前の南カルフォルニアでは、自分の思っていた以上に毎日ハイカーに出会っていた。もちろん色んなハイカーに会えるのは楽しかったし、
安心感もあった。けれども、自分的には少し多いなと感じてしまっていた。

人気のテントサイトは早い者勝ちだし、休憩スポットも誰かがいる。なんとなく気を使ってしまう自分がいた。

ある日のテント場①

一方シエラに入ると、本当に人に会わなくなった。トレイル中に会うと嬉しくてつい声をかけたくなるくらいに会わなくなった。そのおかげでシエラを満喫できた気がする。テント場は毎回誰もいなくて、シエラを独り占めしていた気分だった。

ある日のテント場②
ある日のテント場③

アメリカロングトレイルには、ハイカーウェーブという言葉があるが、これはハイカーの行動が集中し、一斉に街に降りたりするので、宿や食料が争奪戦になるそう、、。

無料で止めてくれた街の教会。
自分達が来る前は沢山の人でいっぱいだったよう。

自分たちはシエラに入ったおかげで、このハイカーウェーブから完全に外れ、ちょうどいい感じでその後の旅を進めることができた。

途中立ち寄ったVermilion Valley Resortの管理人家族、夜に焚火をしてくれた。
本来この時期ハイカーでにぎわっているはずだけど、ほぼ貸し切り状態だった。

3.雪のシエラを抜けてきたハイカーへの親近感

シエラを抜けて北カルフォルニアを歩いているとあれだけ会わなかったハイカーに、ちょこちょこ会うようになった。

このタイミング会うハイカーはみんなシエラを抜けてきたメンツだ。全員強そうに見えた、、。

続々と集まるシエラ抜けた組のハイカー達。

あの雪のシエラを抜けてきたというだけで、謎の一体感を自分は感じていた。みんなあの雪の中進んできたんだなと、ちょっと嬉しくなったし、
いつ頃シエラに入って、いつ抜けたのかとか、Mt.Whitneyは登ったのかとか、天候はどうだったのかとか、行った人にしかできない話ができたのも嬉しかった。

Kennedy Meadowsで別れたハイカーと
Lake Tahoe近くのアウトドアショップで奇跡の再開。
ハイカーは無料でテント泊可能なキャンプ場
に来てくれたトレイルマジック。
シエラを抜けたビジターセンターにあった
最初で最後のトレイルマジック。

最後に

シエラを歩いた約1ヶ月半は、自分があるいたPCTのどのセクションにおいても、とても印象的なものになった。ただ、また行きたいとは思わない(笑)もうあれ以上の経験はできないだろうししたくもない。

そう思って終えれるように、当時は必死に楽しみながら歩いていた。そのおかげで特別な経験ができたと思う。未だに目を閉じると、あの時の光景が目に浮かぶ。それくらい目に焼き付いているのだ。

多分自分一人だったら途中でやめてしまっていたと思う。そう思うと一緒に歩いていたなお君には感謝だし、たまに街で会うハイカーがやったるぞと意気込んでいるのを見て、良い刺激を貰えたと思う。

大変だったけれど自分らしく歩いてみた結果、間違いなく自分の中で特別な1ヶ月半になった。

★Special Thanks in Sierra

このセクションにて印象深い日本人の方々。

孤高のスキーヤーとくさん。
毎年半年間このゲストハウスに滞在し、毎日近くのスキー場にスキーをしに行っているらしい。
例年だとこの時期もう帰国しているそうだが、今年は雪が多いためたまたままだ滞在していたそう。

持参の日本米や厚揚げなど、色々食べさせてくれた。約2ヶ月ぶりの白米は沁みた…
貴重な白米ありがとうございました。
エンジェルしていただいたまこさん。これはもう色々と奇跡だった。

Bishopからトレイルヘッドに戻るためにヒッチしようとしていたところ、
他のハイカーの送迎をし終わったまこさんが、たまたま歩いている僕らを
見つけて、車の中から乗っていかないかと声をかけてくれた。

しかも、実はAgua dluse手前でエンジェルしていただいた、クリスさんと一緒にトレイルエンジェルをしている方で、まこさんの存在はその時聞いていたが、残念ながらその場では会えなかった。

そんなまこさんと路上で偶然会ったのだ。

クリスさんのインスタをフォローした関係で、インスタで僕のことを見ていてくれたらしく、
いきなり「かずまさんですよね?」といわれ一瞬俺って有名人?と思ってしまった。

とにかく奇跡的すぎてトレイルヘッドまでの短い間だったけれど
話せて本当に楽しかった。ありがとうございました。


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