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<読書>キッチン

『キッチン』が出版された頃、私は高校に通っていました。

『キッチン』は若かった私の心にすっと入ってきて、私に寄り添ってくれました。

もともと読書は好きでしたが、こんなにも私の心に自然に入ってきた文章は、この本の他にありません。

その後、大学に通うため、自宅を離れ、アパートで一人暮らしをしましたが、そこにも『キッチン』を持っていきました。

『キッチン』は、若く、未熟だった私の隣に、そっと存在していました。


・キッチン 著者:吉本ばなな

『キッチン』には、3編の短編が収録されています。

『キッチン』『満月ーキッチン2』は、みかげと雄一の物語。
『キッチン』では、唯一の肉親である祖母を亡くしたみかげが、雄一やその母えりこと過ごし、再生していきます。
『満月ーキッチン2』では、悲しさや孤独の中にいる雄一に、みかげが手を差しのべます。
 
『ムーンライト・シャドウ』は、恋人を突然なくしたさつきが、ちょっと不思議な経験をする話です。

20年ぶりくらいに、『キッチン』を再読しました。

若いころ、あまりにも好きだった作品だったので、そのイメージを壊したくなくて、書店で見かけても、購入するのを控えていました。

もう中年になってしまった私には、昔のような瑞々しい感性はありません。
『キッチン』を素直に読み、感じることができるのか、自信がありませんでした。

 『キッチン』 に収録されている3つの短編を再読して、改めて気づいたことがいくつかあります。

親しい人を亡くし、孤独を感じている時に見える景色が、実に丁寧に描写されています。
孤独で、不安で眠れない夜に感じる夜の蒼さ。無理やり明るい昼に出かけても、感じる疎外感や孤独感。
それらは、私の記憶以上に、丁寧に描かれていました。

そして、残された人へのメッセージが随所に感じられます。

生と死は隣り合わせに存在していて、身近な人との別れは誰もが経験する。
また、出会いがある限り、別れもある。(死以外の別れもある。)
残された人は、亡くなった人(または去っていった人)の思い出とともに立ち止まっているわけにはいかない。新たな時間を生きて、歩き続けなければならない。

静かですが、優しい、力強いメッセージです。

『キッチン』は30年以上前に出版さた作品です。

スマホも、パソコンも、インターネットも、SNSも登場しません。

今の若い人たちは、『キッチン』を読んで、どの様に感じるのでしょうか。

環境が大きく変わっても、『キッチン』が誰かの孤独や寂しさに寄り添ってくれることを願います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。





 

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